男は脱出できるのか13
千粁
男は脱出できるのか13
俺は高い場所から落ちたような衝撃を感じて目を覚ますと、そこは見慣れた俺の部屋の天井だった。
八畳のワンルームで小さな台所とバストイレ付きの普通のアパートだ。
俺を悪夢から救ってくれたのはパソコン机の上で叫ぶ目覚まし時計だった。
まだ動きの鈍い身体をベッドから無理矢理起こし、俺はなんとか立ち上がってから目覚まし時計を止める。
そのデジタル時計の数字を見ると朝の七時一分だった。
確か今日は日曜日だったよな。
平日に会社へ行く為にセットしたままだった。
「あ〜、眠い……」
日曜は昼まで寝ていたい俺は二度寝をしにベッドへ戻ろうとした時、机の上に置いてあった俺のスマホが着信音とともにSNSのメッセージを受信した。
俺は目を擦りながらもスマホの画面をタッチしてアプリを開く。
『おっはよ〜! 起きてる?』
メッセージの送り主は小さい頃に英会話教室で知り合った友人のエマからだ。
エマは小学校までは一緒だったが、中学からは親の仕事の都合で都会に引っ越してしまった。
それから彼女と何年も連絡を取り合っているうちに仲良くなり、俺の就職先がエマの住む町に決まったのがきっかけで今は恋人関係になっていた。
『ああ。今起きたとこ。何か用?』
『今日あんたの部屋に行っていい? 』
『いいけど、アパレル関係のバイトはどうした? 日曜もシフト入ってるんだろ?』
『なな、なんと驚くなかれ、首になりました! あはは!』
『あははじゃねーだろっ!』
『だからあんたに慰めてもらおうと思いまして』
『俺は今から二度寝だ。お前は新しい仕事を見つけてから来い』
『可愛い彼女に対してちょっと冷たくない? もっと哀れなエマちゃんを心配してくれてもいいと思うんだけど?』
『何が哀れなんだよ。どうせバイトの先輩に口答えでもして喧嘩になったんだろ?』
『うっは〜、さすがあたしの彼氏だね。その通りでした! あはは!』
『やっぱりかよっ!』
『実はさ、もうあんたの部屋の前に居たりして』
まじかよ!
俺は部屋のドアを見る。
すぐにそのドアの向こうからエマの声が聞こえて来た。
「という事だからさ〜、開けてよ〜」
俺はドアに早足で近づき鍵を開けながら声をかけた。
「お前な〜」
「だってあんたに会いたかったんだもん」
そして俺がドアを開けると……。
誰かが俺の懐に入り込んだ。
同時に例え用の無い激痛が腹部から脳に奔る。
「え……ぐっ……」
俺は激痛で脂汗が全身から吹き出すのを感じつつ腹を見ると、そこには熊のキャラクターがプリントされた鉛筆が数本深く突き刺さっていた。
その誰かは長い髪を前に垂らしていたので顔は隠れて見えない。
しかし笑っているのだけは分る。
なぜだかそう感じた。
俺は腹の痛みを堪えながらその誰かを外へ蹴り飛ばし、急いでドアを閉め震える手で鍵をかけてから膝をついた。
何だあいつ!
誰なんだ!
エマは!? エマはどうした!?
さっきまでドアの外にいたはず!
ドアの向こうから混乱する俺を呼ぶエマの声がした。
「どうしたの〜? どうして追い出すのよ〜」
確かにエマの声だ。
いつもの明るくおどけたエマの声。
しかし俺の腹を鉛筆で刺したさっきの奴は誰なんだ!?
分らない!
分りたくないっ!
え? 分りたくない?
という事は俺はあいつを知っているのか?
そ、そうだ!
あいつはエマだ。
中学から離ればなれになって、それから連絡を、取って……いたのか?
それに俺とエマとが付き合うようになったのはいつの事だ?
そもそもエマはあの時……。
「ちょっと〜聞いてるの〜?」
少し不満げなエマの声がする。
駄目だ! ここを開けたら絶対に駄目だ!
そ、そうだ! 警察! 警察に通報だ!
俺は痛みでふらつきながらも机の上にあるスマホに駆け寄り画面をタッチすると、先ほどのエマとのやり取りの続きが表示された。
画面にはある言葉だけが延々と繰り返されていた。
その言葉とは……
男は脱出できるのか13 千粁 @senkilometer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます