異世界旅

@miri-

第1話

Side:名も無き一般人A

僕の通う学校は県立高見丘中学。入学のための入試は無く、当然偏差値は押して知るべしのやや低め、かと言って部活で有名と言う訳でもなく、伝統と落ち着いた校風くらいしか取り柄のないような平々凡々な学校である。

そんな学校にも一つだけ胸を張って自慢できることがある。それが、四ノ宮カケルと四ノ宮レンカという双子の生徒だ。カケルくんと四ノ宮さんは共に如何してこの学校に居るのか分からない程のハイスペックな人間で、勉強、運動、容姿、全てがSランクの完璧超人。授業態度も良好、地域奉仕活動にも積極的に取り組み、先生からの信頼も厚く、スペックを鼻にかけるようなこともない。二人を見るのが一番の目的で学校に来てる人間も多いだろう。かく言う僕もその一人だ。そんなみんなの憧れの二人がどういう訳か三日間も無断欠席している。しかも、家にも帰ってないという噂だ。一体何が起こっているのか?駆け落ちしたなどと呑気に騒いでいる奴らもいるが、双子だから!犯罪だから!

むしろ事件に巻き込まれた可能性の方が高いだろ。二人とも超が付くほどの大金持ちだ。身代金目当てに誘拐って事も十分に考えられる。ああ、心配だ!早く帰ってきてくれ二人とも!




草野トオル

両目を完全に黒い前髪で隠した、身長も体格も何処にでもいそうな普通の少年。そんなモブ・オブ・ザ・モブの一般人、草野トオルがこの物語の主人公であった。

彼の歳は16歳、高見丘中学2年生。廃部寸前の文芸部に所属している。友達は一人もおらず、常に教室では読書をし、一人暮らしをしているので家族と話す事も無い。一日一言も発さず終わる日も珍しくはなかった。ちなみに、仮に珍しく何かを発する日があったとしても、全て「うん」「分かった」「いいよ」「ごめん」「ありがとう」などで終わったりする。トオルは頑なにこれは会話だと主張するが、会話ではなく単語であった。そんな彼にも3つだけ誇れるものがある。それは、皆勤賞を持ってるってことと、特進クラス(成績上位者のためのクラス)にいるってことと、生徒会主催のボランティアに毎回参加してるってことだ。ま、皆勤賞とボランティアに関しては担任ですら気づいてはいないけど………。😢。

でも、構わない。別に褒めて欲しいからしてるわけではないのだ。トオルはただ四ノ宮さんに会いたいだけだった。彼が四ノ宮レンカと会ったのは入学式当日の事だ。新入生代表として凛とした挨拶をする四ノ宮に彼は一瞬で恋に落ちた。人生初めての一目ぼれである。それからトオルは四ノ宮に会うと言う一心の元、好きでもない学校に毎朝早く足蹴なく通い、四ノ宮と同じ特進クラスになる為に嫌いな勉強を机に嚙り付いて頑張り、興味もないボランティア活動に毎回参加した。これだけ聞くと、特別トオルがストーカー行為を頑張っているように聞こえるが、これはこの学校に通う殆どの男子生徒に共通することであった。

だが、トオルはバカではない。自分の事を客観的に見る目を持っている。だからこそ、この先自分が四ノ宮さんと仲良くなれる事は無いと分かっていたし、それでいいと思っていた。しかし、何の因果か、運命の神の悪戯か、決して交わらないはずの二人の人生はこの日を境に強く結ばれることになる。


その日、トオルは部活の顧問から廃部の話を聞かされていた。今の文芸部の部員はトオル一人。部活が成立するにいは最低でも3人が必要だが、新一年生は誰一人として入ってはくれなかった。季節はすでに6月に回っており、来月までに3人揃えられなければ文芸部は廃部になるらしかった。

しかし、そんな事を言われてもトオルに誘える相手など居るはずも無かった。そんな相手がいるならボッチなどやってないのである。しかし、だからと言って簡単に諦められる訳ではない。文芸部はトオルにとって四ノ宮さんと並ぶオアシスのような場所である。廃部などもってのほかだった。


一念発起したトオルは部員確保の活動に移る。先生に許可を取り部員勧誘のチラシを掲示板に貼り、当たって砕けろ精神で学年問わず色んな人に声をかけた。ボッチではあるが、別に嫌われてる訳ではないので、話すら聞いてくれないなんてことはなかったが、結果は全戦全敗。断られるたびに、精神がガリガリと削られてくのが分かった。しかも、時折ひどく面倒そうな顔をされるのがまた堪えた。


時刻は6時半を回った。殆どの生徒は家へと帰ってしまい、これ以上粘っても効果はなさそうだ。そう思ったトオルは、帰りの仕度をするため、自分のクラスへと向かい、扉を開け、電気をつける。すると、何故か四ノ宮さんが後方の席の机の上で膝立ちで立っていた。


「し、四ノ宮さ、ん?」


しかも、服を全部脱いだ状態で首には犬のリードのようなものを付け「ワンワン」と吠えている。今までのイメージとのあまりの解離に、見間違いだろうか?と、一瞬そう思ったが、自分が四ノ宮さんを見間違えるはずがない。

細いけどハリのある綺麗な体。手脚はスラリと長く、しかし、出るところは出ており、輪郭は女性的な曲線美を描いている。黒い艶やかな長髪の一部を肩から流し、未だ幼さの残る未成熟な顔立ちは背徳的な美しさすら醸し出していた。

やっぱり四ノ宮さんで間違いない。と言うか、こんな美少女がそう何人もいてたまるか。

でも、だとしたら何でこんなことをしているのか?まさか、誰かに脅されて…………?で、でも、誰も周りにいないみたいだし…………。

トオルがパニックになり扉から一歩も動けないでいると、トオルに気付いた四ノ宮が驚愕に顔を固めた。そして、暫しの熟考の末足早に扉に駆け寄り、トオルを部屋に強引に入れ、扉を閉める。


「草野君だったよね?」

「う、うん。」

「お願い!このことは誰にも言わないで!」


四ノ宮はがばっと頭下げる。その拍子に胸がたゆたゆと揺れる。それを無意識に視線で追ってしまう自分が情けない。


「な、何でもするから!」


頼まれるまでも無く、トオルには言いふらす気など微塵も無かった。この状況に驚きはあるが、四ノ宮レンカが草野トオルにとって初恋の相手であることに変わりはなく、今だってその恋心に変わりはない。四ノ宮の悲しむような事をする気はなかった。


「わ、分かった。言わない。絶対言わないから、もう頭を上げて。」


トオルの了承に四ノ宮は漸く頭を上げる。

トオルは「ふう」と安堵の息を吐いたのも束の間、目の前に豊満な胸と桜色の乳首が飛び込んできて、再び狼狽える。頭を上げてと言ったのは早計だったかもしれない。しかし、もう一度下げてとか言ったらまるで脅してるみたいである。


「と、とにかく服を着てくれ。」


何とかその言葉を絞り出した。





Side:四ノ宮カケル

僕には四ノ宮レンカと言う双子の片割れがいる。黒い大きな瞳と背中の中ほどまで伸びた黒いストレートの長髪が特徴の少女で、家族の僕が言うのもなんだが、レンカは凄い美人だ。胸はGカップくらいあり、しかし、無駄な脂肪は全く無く腰は括れている。肌もすべすべで、人の目を引き付けるオーラまで持っている。おまけに家は超が付くほどの大金持ちだ。僕も人の事は言えないけど……………。

良く僕達を見て「お似合いだな」とか「付き合ってるんでしょ?」とか勘違いする人もいるが、僕とレンカはそういう関係ではない。当然だ。むしろ聞いてきた奴頭おかしいだろ。母親は違うが家族だよ、僕達。

まあ、どうしてそんな憶測が流れたのかは分からない訳じゃない。僕とレンカはこの年頃の兄弟にしては仲が良すぎる。だから、勘違いする人が絶えないのだろう。しかし、それはレンカのとある性癖を知っており、心配しているからだ。


その性癖を知ってしまったのは俺が小学6年生の頃。あの頃は異性との色恋より、同性との遊びに夢中だった。当然彼女がいた事も無く、男女のイロハなど全く知らなかった。そんな僕にとって、レンカの性癖は天地がひっくり返るほどの衝撃の発見だった。後々僕の恋愛基準に「行き過ぎた性癖を持たない」と言う項目が新たに加わるほどだった。多少のMやSくらいなら可愛げもあるが、何事も行き過ぎはいけない。しかし、僕にとってレンカが大切な家族であることに変わりはない。だから今まで、レンカの性癖が周りに知られないように陰ながら気を使っていた。しかし、僕にも数か月前から彼女が出来、必然レンカに掛けられる時間も減っていった。性癖が性癖なので心配していたのだが、そんなある日、レンカからとある頼みごとをされる。その頼み事自体は大したことではなかったので二つ返事で頷いた。




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