第11話 また君か……壊れるなぁ……
今回は少しばかり下品というかエロい描写が後半にございます。
なので下品なのは勘弁してつかぁさいや……って方はブラウザバックをする事をオススメします。
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「それではクローディア様、行ってまいります」
「うん、気を付けて……ってお前に言うのもどうかと思うが。まあ頑張って」
「サイード司祭、お気を付けて。留守はお任せください」
「はい。頼みますよ、ベアトリス」
「はいっ」
心なしか嬉しそうなサイードを見送る。
旅支度のサイードが向かうのは王都だ。
ビーも留守を任されドヤ顔である。
王都に行くのはハインリヒ殿下の戴冠式に参列する為だ。
別に王様が死んだ訳じゃないが、体調の復帰の目途も立たないから勇退をするってさ。
まあ政治がいつまでも止まっているとアカンって話なんだろう。
結局ハインリヒ達の権力争いで毒を盛られたとかじゃあないらしい。
聞けば殿下って王が50歳の時の子らしいし。
現在の年齢を思えば、普通にガタが来てもおかしかないのだろう。
王様は側室は山ほどいるくせに世継ぎが生まれないってんで、種無し王とか陰で言われてたという。
あれだな、太閤秀吉みたいだな。
好色な癖にガキが出来ないとか。
秀頼だって実子かも謎とかなんかの本で読んだわ。
これは王様が小康状態の時に有力な諸侯を集めて、改めて宣言したらしい。
第一王子であるハインリヒの立太子の儀式と、自分の退位の儀と、王権継承の儀式を全て纏めてやりまーすってな感じで。
弟王子は半狂乱になって喜んだってさ。
公爵位と領地もらって引きこもって好きな研究できるってさ。
自由か。
まあそんな訳で、先月招待状を届けに殿下の配下の騎士がやってきた。
その際にサイードが男爵位をくれるって言われてさ。
まあルールを脅かした他国の間者を水際で阻止! ってのがその名目。
マッチポンプにも程があるが、殿下は俺達との盟約を呑んだって事だな。
後見人として俺の名前を使いたいって話しだし、3回程言う事を聞いてやるって件の念押しもあるんだろう。
これでサイードは勲章と爵位を貰い、諸侯の前で功績を讃えられる。
その恩賞としての爵位であり、王家の直轄地であるルールのスラム地区の代官になるのが副賞みたいなもんか。
サイードはこの内々の御意を貰ってすぐに動いた。
具体的には精霊教会の本山に繋ぎを付け、自分が司祭として教区を持つ事の根回しをしたのだ。
今後のサイードは建前上ではるが、殿下の直属の部下扱いであり、ここのスラムは殿下がお墨付きを与えた特区になる。
正式な教区となれば、結構広いスラム全体が精霊教会の傘下みたいな扱いになり、本山も公式に人を出せるって流れで。
サイードがやりたい孤児院は、ガワだけのその場しのぎじゃなく、親なし子が社会にアジャストするまでフォローする教育機関を兼ねている。
王国共通語の読み書き、四則演算が全員出来る様な。
そうすれば有能な人材として引く手あまただろう。
それを積み重ねれば自然とスラムのイメージは良くなるし、孤児院を中心とした施設の規模が大きくなれば、スラムの人間を多く雇用出来る。
サイードは密かにスラムをひとつの街として仕上げるつもりなんだろうな。
まあそんな訳でサイードは王都に旅立ったのだ。
のんびり歩いて半月くらいかかるって言うから、戻ってくるには2か月くらいかかるだろうな。
その間ここの教会はビーが……とはならず、本山から補充人員が来るとさ。
「さってそれじゃあ仕事の準備しますかねっ」
「はい、私もお勤めに戻りますわ! それにっ! 今夜は二人っきりです。なので腕によりをかけて夕食を作りますねっ!」
新妻かっ!
とは言え口に出すと面倒臭い事になるので言わない。
なので俺はまるで良く出来た仏像の様にアルカイックスマイルを曖昧に返す。
そしてニュー屋台を引いて街に向かう俺である。
ちんまい幼女に巨大な屋台。
でんでん虫にしか見えんが、これでも立派なハイエルフなのだ。
そんな時だった。
「クローディア様っ!」
そんな悲痛な呼び声が聞こえたのは。
☆
「あー……で、まだ歩くの?」
「へい姐さん、あと半刻ほどでヤンス」
すまん。前のパートではいかにも何か大事件でも起きたか!? って感じの引きだったけど、全然そんな事無いんだわ。
いや俺も最初は何が起きたかとドキドキしたんだけどね。
俺を呼んだ声はギルドの受付のネーチャンだった。
人間の20代くらいの綺麗でも無いけど汚くも無い。
けど好きな奴は好きなくらいの普通のヴィジュアルな受付嬢、名前は今初めて知ったがメアリーさん。
かつて俺がライセンス更新をしたいとギルドに顔を出した時に、俺に怯えた上にドラゴンでも倒しますか?! と謎の探りを入れて来たポンコツだ。
で、来た理由だけど、ルールの街から南に向かって街道を歩くと辿り着ける辺境の村。
その周囲でオークの大量発生があったらしく、既に結構死人が出たとか。
で、大慌てでギルド本部に問い合わせると、腕っこきを応援で送るけど、物理的な距離の関係で一〇日ほどかかるらしい。
なんで実質間に合わん。
けど血まみれの村人がルールの支部に駆け込んでるもんで、何か対応しないと色々ヤバい。ギルド的に。
そこで白羽の矢が立ったのが俺って事らしい。
ルールの街は貿易都市であるからして、当然金に群がる人間が多いから人口も多い。
けど街の周辺はあらかた整備されている関係で、実はそれほどヤバいモンスターとかいないんだよね。
結果、冒険者の数は多いけど、腕っこきはそう多くない。
そんな事情もあり、中堅どころを送っても死ぬだけだし、困った支部は「あ、そう言えばヤベーハイエルフおるやんけ」と思ったらしい。
まあ、うん。気持ちはわかるけどさ。
だもんでまあ、仕事は今日じゃないと駄目ってもんでもないし?
なら行くわって事になった。
せっかく二人きりだとテンションを上げていたビーはスネてたが。
距離的に泊まりになりそうだしな。
行くのを決めたのはまあ、サイードがスラムの顔役になるから、同居している俺のイメージが悪いとイカンって事で、ここでちょっと恩を売っておけば後々便利だろうって考えだ。
で、ギルドで現地までの案内人としてつけてくれたのがこのいかにも三下風な話し方のラーユだ。
人狼族って亜人で、犬が二足歩行している感じの獣人だ。
亜人つってもほぼ人間に犬とか猫の耳ついてます的な男の欲望を叶えました的な、生物学的に矛盾した獣人じゃなく、ガチ獣人だ。
全ケモナー大歓喜だろうな。
カラーリング的にどう見てもシベリアンハスキーが立って歩いている様にしか見えんのけど……。
ただラーユ曰く、レアなカラーらしいぜ。
なんだよレアって……。
ただまあ犬の五感の鋭さは伊達じゃ無く、こう見えてベテランの斥候らしい。
気配を消して、臭いに敏感でって感じで。
ただなんかこう、エルフを崇拝しているっぽい感じでさ。
ギルドに居た時は普通に喋ってたくせに、二人っきりで街道を歩く頃には俺の舎弟みたいな感じになってた。
つっても冒険者歴も20年選手で、こいつの話は聞いてて退屈しなかったな。
数人でパーティを組んで迷宮に潜ったが、こいつの索敵でワナを見つけ、それを警告したのに言う事を聞かなかったメンバーは穴に落ちて死んだ話とか凄いんだよね実際。
内容自体は笑えない話なんだけど、そんなテンプレみたいなアホ冒険者っているんだって部分で笑えた。
まあラーユの凄い所は、沈黙が続くとスっと話題を自然に出して来て退屈させない
事だ。
何というか空気の読み方が絶妙というか、人生の積み重ねを感じたわ。
こっちは実年齢5000歳クラスだけど、中の俺はガキだしな。
大人スゲーって感じだわな。
「ラーユよ、オークって何匹くらいいるのさ?」
「へえ、アッシが聞いた話じゃあ、10は下るめえって事でヤンス。春の
「ほーん、結構ヤバいんだなあ」
「……それ聞いてそんな反応をしている時点で姐さんのヤバさが解りやすね……」
「つっても現地を見てないから気楽なだけだけどな。ま、どうにかなるっしょ」
ラーユが目を剥いているが、実際どうにかなると思うんだな。
最近動いてないから身体が鈍ってるし、少し暴れたくはあるんだ正直。
まあルールに辿り着くまでの間に出会ったモンスターもデカかったし、あいつらを倒した時に一切苦労してないもんな。
10いるのはアレなんだろうけど。
ヤバかったらラーユを担いでいったん逃げて体勢を立て直せばどうにでもなるだろ。
よく分からんのが果たして10匹が多いか少ないかだなあ。
単純に10匹って聞けば「え? そんなもんなの?」って感じなんだけど、1匹でも大の大人が数人がかりで漸く倒せるって感じらしいし。
なので10匹でも多いって事はわかるんだけど、いまいちピンと来ないってのが感想である。
「ん? あの村か?」
「そうでヤンス。30人程が住んでいる農村でヤンスが」
「ふーん。結構派手な感じになっているな」
見ると緑の農地の真ん中に丸太の壁で囲まれた村が見えた。
その向こう側には大きな森が見える。
オークの襲撃後に慌てて対策したのだろうが、村の周りにはいくつものバリケードの様に組まれた柵がいくつも連なっている。
「よぉ、冒険者ギルドから応援に来たんだが、村長がいれば話を聞かせて欲しいんだが」
「へ、へえ、応援感謝しますが、村長はオークの野郎のせいで臥せってますわ……」
「そっか、とりあえずオレはラーユってんだが、この後ろにおわすお方が恐れ多くもエルフの中のエルフ、そう! ハイエルフのクローディア様だっ! これでもうオークの野郎たちは死んだも同然だ。じゃ村長の床まで案内してくんな」
いや、あの、いや。うん。
何かこう印籠でも出しそうな感じの口上とかやめて欲しいんだが……。
なんか柵の向こうに集まってきた村人が、「おおおっ!!」みたいな感じで恐縮してるだろ……。
すげえ見られてるんだが。
つかラーユよ、何オマエ、一仕事終えましたみたいな顔してるんだ……。
☆
「姐さん、本当にいいんですかい?」
「いいよ。久しぶりに暴れるから加減が効かないかもしれないから」
「まあアッシは前衛が苦手ですから有り難いですが……」
「気にすんな。ギルドからも俺の戦力がどんなものか確認しろって言われてんだろ?」
「へへっ、姐さんにゃ敵わねえわ。それじゃ遠慮なく、アッシは
もうすっかりと夜になっている。
俺は銀色のメイスを手にバリケードの上に座っており、ラーユは村の中にある物見の上に立っている。
ラーユには索敵のみに徹して貰い、オークと対峙するのは俺だけという構図だ。
「よっ、ほっ、うん、特に鈍ってる感じもしないな」
肩慣らしにメイスを振ってみるが、前と変わらずつむじ風が起きた。
さて既に俺のハイエルフアイは村に近寄る気配と共に反応している。
距離的には1kmくらいか? 森の茂みからのっしのしと歩いて来ている。
なんだろね、これ。暗くてもくっきり見えるわ。
むかし俺が高校の時にクラスメイトに人数合わせに来てほしいと誘われ参加したサバゲー。
その時に初心者でも使える様にって、ナントカって言うハンドガンと、ナントカって言うゴツいスナイパーライフルをかりたのだ。
正直銃とか詳しくないんで名前までは覚えてないんだけどさ。
ただライフルの方についてたんだよね、暗視スコープってのが。
サバゲーをしていたのは郊外にある
なので結構本格的にやれるんだけど、その時は夕暮れ時で建物の中は当然死角だらけで暗い。
で、暗視スコープを覗けば黒くて緑色の背景にボワーっと見えるんだよね、相手が。
そんな風に見えているのだ。今も。
オークはゲームなんかじゃ豚みたいな見た目が多いけど、今見えてるアレは完全な人型だ。
耳がエルフみたいに尖っているが、柔道をやってる人みたいに潰れた感じ。
つか顔全体が等身とのバランスに合わないくらいにデカいな。
身長も2メートルを優に越えてるだろうし、体重も100kgどころじゃねえな。
そらギルドじゃパーティを複数投じるレベルだって言うわな。
あんなのに体当たりされたら交通事故みたいなもんだろ。
そもそも剣で切りつけても屁でも無いだろな。
槍とかで突くか、鈍器で頭を叩き割るか、それくらいしか通じない様に思える。
勿論普通ならば、だが。
そもそも、見た目どころじゃない膂力を俺が持っているとはいえ、別にまともに戦う必要なんてみじんも無い訳で。
臭い返り血とか嫌だし。見た目は人型でも魔獣は魔獣。
そうなりゃ獣臭も凄いのだ。
なので位置がわかりさえするなら……。
「こういう事も出来るっ!」
ここは農村だ。
畑では日々、農地の雑草を抜き、邪魔な石を拾って捨てる。
そんな捨てられた石が転がっているから、俺は野球ボール大のいい感じのやつを拾って力任せにブン投げたのだ。
一投ごとに醜悪な悲鳴が聞こえ、プチュンとかパチュンとか気色の悪い水音と共にズシンと倒れる音が響く。
「そーらそら、必殺のツーシームを喰らえ」
ま、石ころにシーム(縫い目)なんか無いんだけど気分だわな。
拾っては投げ、また拾っては投げる。
連中も蹂躙できるつもりがアテが外れて頭に来たのか、凄まじい咆哮と共に吶喊してくる。
真横にならんで猛ダッシュ、さしづめ単横陣って感じ?
でもこれじゃあただの的だな。
「おーお前なかなかやるじゃん。でも残念、これで終わりっと」
こうして悪は滅びた。
物見やぐらにいるラーユが絶句しているが、牽制のつもりだった投石で結局は終わってしまった。
実に呆気ないが、またもハイエルフの人外っぷりを体現してしまったようだ。
「いやー流石は姐さんですなぁ……凄すぎて言葉が出てこないですわ。って、あれ? 姐さん、また何か来てますぜ?!」
「んっ!? うーん? オークにゃ見えんな……」
呆れるラーユを振り返りドヤ顔を見せていたら、何かが来たと騒ぎだした。
おかしいな。背を向けてても魔獣の殺気みたいなもんは感じる筈だから、あいつより先に俺が気が付かないとおかしい。
まあとりあえずラーユが指さす方を見てみた訳だが。
……何かこう、白い人影が見えはする。
結構遠いけど、森から飛び出し凄まじい速さでこっちに来ているのは感じるな。
けど一切敵意みたいなものは感じない。
感じないが、何だあの速度は。
「………………っ!!」
ん? なんか叫んでないか?
もしかして森で魔獣に追い掛け回された冒険者か?
なら助けてやらねばなるまい。
丁度俺がここにいた事を幸運に思うんだな!
「………………まぁっ!!」
まだ叫んでるな。
そうだそうだ、こっちに向かって来い。
釣りだされた敵を一撃で屠ってやるさ。
まだ石はいくらでも転がっているしな。
そういや騒ぎを聞きつけたのか、隠れていた村人も出て来た様だ。
ラーユがまた盛りすぎな感じで俺の活躍を伝えている。
俺は手ごろな石を手に、少し前に出た。
そろそろ逃げて来た奴が視界に入るだろう。
「……まぁっ!! クローディア様ぁっ! 我が愛しい人ォ!!!」
ファッ!?
あかん。ある意味オークよりヤベーのが来てるやん……。
巨大なおっぱいをバルンバルン言わせながら、エルフに有るまじき我儘ボディの俺専属巫女、イーシャの姿がそこにはあった。
満面の笑みで手を振りながら走り寄る彼女を認めた俺が取った行動はたった一つ。
「オルァ!!!! 死に晒せやっ!!!」
「キャン♡」
うん、そら敵意は無いわな。
けどその分、とんでもなく鬱陶しいのがやってきた。
俺はヤツの姿を確認した瞬間、オークの倍くらいの力で石をフルスイングしていた。
世界のショーヘイを彷彿とさせる見事なホームで。
背後では呆然とするラーユと村人たちを尻目に、イーシャの方を振り返る事も無く村の中に入ったのである。
もちろん念入りにバリケードを閉めたのは言うまでもない。
おい誰か、塩まいとけ、そう思う俺である。
☆
「クローディア殿、本当に感謝します……これで我らの村は救われました……」
「亡くなった方がいると聞いてる。これは些少だが、お見舞金として渡してくれ」
「そんなっ、救って貰った上に施しまでっ、これは受け取れませぬ……」
「いいんだって爺さん。早いとこ村を復興してくれりゃ、またギルドに仕事を頼んでくれるだろう? それに、情けは人の為ならずって言葉もあってだな、他人への施しも、やがて自分に返ってくる物だという。だから遠慮せんで取っといてくれ」
ひと騒動が終わり夜明け、俺達は村長というか、名主? の家にいた。
初老でがっちりとした体格の男が長で、彼の家が代々この村の名主らしい。
名前はガンジと言うらしいが、髪や髭に白い物が混じっているが、それ以外は現役の男って感じがするな。
日々の野良仕事のせいか体格がやたらいい。
ラーユは村の男衆を連れてオークの躯を回収に行っている。
豚じゃないから食えはしないが、バラバラに刻んで深い穴に埋め、半年くらい放置すると畑のいい肥料になるってさ。
辺境じゃあ割とポピュラーなんだと。
一応盗伐証明として下から上に向かってせり出す特徴的な犬歯を取った後にって事だが。
んで、ガンジと向き合って一応これで仕事は終わったと書きつけにサインを貰おうとしていたところだった。
その時にふと思いつき、今回俺がギルドから貰える報酬の半分ほどに相当する金貨を見舞金として渡したのだ。
いやー村の中も酷かったんだわ。
家も何軒か倒壊してたしさ、襲撃された傷跡って感じが生々しいのよ。
俺がかつて住んでいた日本も、ここ近年じゃあちこちで毎年のように災害で酷い事になってたしな。
こういうのはホント辛いよね。
何が辛いかって、たった一晩でそれまで積み上げて来た物が消えるんだぜ。
何十年もローン組んで漸く家を建てた幸せな家庭が、地震で全損。
こんなの悲しむってレベルじゃねえだろ。呆然として何も考えられなくなるぜ。
けどこれは日本だからまだ、仮説住居を宛がって貰ったりすれば当面生きていける。
その間に気持ちでも切り替えてさ、別の土地で新しい生活を探したり、親類に助けて貰ったり、まあ少なくとも今日明日詰むって事は無い。
けどこっちだとそうはいかないんだよなぁ……。
街ならまだしも辺境の村だと飯が食えなきゃ即詰むってのも割と当たり前。
ガンジに聞けば、ここは主要な作物は麦だもんで、その備蓄があるからそれを切り崩し、家族を失った家庭とかは食いつなげるという。
けどそれもいつまでもじゃない。
目途がつかなきゃその内、然るべき方法が取られる。
親がいないなら、丁稚に出されるという名の口減らしに。
働けなくなった大人なら村を追いだされる。
なんで報酬の半分を寄付したって訳。
俺がそんな事する義理も無いんだけどさ、聞いちまったらもう無理だわ。
ってこのくだり前にもやったな……。
別れの挨拶にいつまでも、見えなくなっても手を振っているのが日本人の国民性だし?
甘いと言われようが、出来る範囲ならやるのはしゃあないわな。
金額的にかなりの物だし、復興の資金としては充分だろうよ。
ま、そんな風にカッコいいハイエルフ様である俺の威光ってのを見せた訳だが……。
「むふーーっ♡」
エロフに猫抱きにされたままじゃあ格好つかんわな……。
切れ長の瞳のクッソ美人が、額にでかいタンコブを作りながら、満面の笑みで俺を抱いているんだよなぁ……。
こいつどうやったら殺せるんですかねえ……。
オークを瞬殺した投石を受けたってのに、仰向けに倒れて数十秒ぐらい経ったら、直ぐに起き上がって何事も無かったように村にやってきたんだわ。
入り口閉まってるのに飛び越えて。
エルフってニンジャか何かなのかな?
で、今に至る。
おいガンジ、直ぐに目を逸らすんじゃあないよ……。
おかしいだろ? ツッコめよ……。
「ま、まあその、それでは施しを有り難く頂戴いたす。クローディア殿はお疲れでしょうから、私めは今夜は弟の家におりますので、この家はご自由におつかい下さい。ではこれで失礼します……」
そしたらガンジ、そそくさと出て行こうとしてやがる。
ちょっと待て、置いてくんじゃあない!
思わず身体を起こそうとするが、このハイエルフたる俺が動けない程にがっちりホールドされている!?
「ええ、ええ、矮小な人間にしては見どころがありますねアナタ」
「おい……」
「へへっ、それではこれにて」
「おいっ、ガンジよ、こっちを見ろ。俺の目を見てもう一度言ってみろ」
「いやその、勘弁してくだせい。矮小な人間ですので」
「ちょ、おい、待てよっ」
そしてガンジはいなくなった。
木造の広いリビングの中、虚しく俺の叫びは消えていく。
「クローディア様ぁ♡ 今夜は二人っきりですね♡ 後で身体を拭って差し上げますわぁ……じゅるり」
くそう、神はいないのか!
おうふっ、この変態巫女、耳を舐めるんじゃあないっ!
「イーヤー! じゅるりつったコイツっ! ラーユ助けてっ、ここに危ない人がいまーすっ!」
この騒ぎを聞きつけたのか、戸口からラーユが顔を見せた。
これはチャンスだ。
「あっ、そうだっ! 姐さん、アッシは一足先にギルドに報告してまいりますんで、ごゆっくり~」
と思ったら、空気を読んだのか、或いはイーシャの眼光に屈したのか、ヤツはあっという間に居なくなった。
「てめっ、逃げんなっ! 後で覚えてろよっ! っていーーーーやーーーーーーーーーーーーー!!!」
「もうっ! クローディア様の照れ屋サン♡」
そうして俺は、哀れにもイーシャに抱きすくめられたのである。
だがっ! 俺はハイエルフ様だ。
ならばエルフ程度に屈したりはしないっ、絶対にだっ!
見てろよイーシャ、本気を出したハイエルフの恐ろしさをとくと見せてやるっ!
そして夜が明けた――――――――
「流石はクローディア様ですわァ……このイーシャ、完敗ですわ……♡」
「……そうかい。そいつは良かったネ」
途切れ途切れの言葉に乾いたセリフを返す。
俺の巫女だと言い張るイーシャ。
彼女はぐしゃぐしゃになったシーツの上でヘロヘロになっている。
勝った。俺は勝ったのだ。
子猫の様に良い様に翻弄される事も無く、絡みついてくるイーシャをねじ伏せ、逆に何十回も気絶するほどに責めたててやったわ!
彼女は全身の穴と言う穴から打ち止めになるほどに色々なナニカを出し尽くしてな!
ガキの頃、逆レイプで女の恐ろしさを味わいつつ、それでも無意識に学んだ女のウィークポイントをピンポイントで攻撃しまくったのだ。
余裕まみれのイーシャは、途中からもう許してと泣きついて来たが俺はやり続けた。
ふふっ、他愛も無い……所詮はエルフよな。
完全屈服したのか、イーシャが震えながら抱きついて来た。
ざまあみろだバカヤロウ。
そんな風に優越感に浸りながら、俺は彼女を抱き寄せ、天井を見上げたのである。
「クローディア様ぁ……わたくしの愛しい人……これで身も心も貴女の物になれました…………クローディア様、お慕い申し上げますわぁ♡」
「……………………」
「ふふっ、そんなお顔なさらないで下さいまし。昨夜はあんなにも雄々しかったというのに、でも、そのギャップも愛しいですわ♡」
「…………あ、そう」
そして思った。
なんで俺、相手の土俵で戦ってるのってね。
これ結局、イーシャにはご褒美にしかなってないよね?
虚空を見上げながらそう考えた俺は、目じりから涙が零れているのに気が付いた。
故郷で元気に生きているだろう母さん。
俺は異世界でも元気にやってます。
親不孝でごめんね。
そして母さん、貴方の息子は、異世界でハイエルフになっても、アッチの面では一切成長していないようです。
こんな息子を許して下さい……。
「ひぎぃ!?」
そして無性にイラっとした俺は、目の前に揺れるイーシャの果実を思いっきり握ったのである。
こうして俺には初のまともなギルドの依頼は終わったのである。
────――――――――――――――――――――――――
あとがき的な
今週末も休日出勤となったので書けてる所まで投稿しました。
なので推敲もほとんどしてないし、ルビ付けもサボってます。
もしかしたら後ほど加筆修正するかもしれません。
Tips!
変態巫女イーシャが再登場。
何故やってきたか等が次回のオハナシ。
異世界でとらんすせくしゃるでも負けたりはしないッ 無限ループ怖くない夫 @freddiesan
★で称える
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