第10話 ハイエルフだって料理くらいはするさ

 今回は繋ぎの回、幕間的な


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 ドワーフの建築家ギダルに依頼した大浴場の建設はスタートした。

 と言っても根っからの凝り性らしく、湯の供給や排水関連のギミックに関してもやつは自分で考えたいと言った。

 なのでこの件に関しての俺の立場は、金を出せども口を出さずというスタンスに落ち着いた。


 あれだよ。中途半端な知識しかないなら、技術のあるやつに丸投げした方が良いに決まってる。

 完成形だけ言ってさ。あとはここの技術でどうにかしてくださいよスタイル。

 まあ出来なくてもそれっぽいのになればいいわな。


 しかし改めて考えてみると、正直義務教育での基礎教育や、その後の高校大学と続く過程で得られる知識は、異世界の事情を考えると相当優れていると思う。

 平民の識字率しきじりつを考えれば、四則演算が出来るレベルでも商家じゃ引っ張りダコだろう。


 それにネットやスマホの普及で、ちょっとした専門知識なら、それこそWIKIを見たり、コアなマニアがまとめたブログ、後は公開された論文なんかでも知る事が出来る。

 けどそれで仕組みを知っているから全てが再現できるってのはノーだろう。

 結局はそれに尽きるというか。


 完成形は知っていても、それを構成する部品や機構きこうまでの詳細を網羅もうらしていないと出来ないでしょ実際。

 俺が風呂を作りますって言ったって、原始的な物は出来ても、大人数が安定して利用できるクラスは無理なのだ。


 そう言う意味ではギダルの申し出は嬉しい訳で。

 なので俺がこれまでため込んだ金貨から、日本円で一千万円程の価値となる量を渡したのは正解だと思う。

 一応平民が住む普通の一戸建て、つまり土地を抜いた上物だけの純粋な相場って、だいたい200万円くらいらしい。

 なので単純にその5倍を渡したのだ。

 まあこれでサイードに渡している以外の俺の財産のほとんどを吐きだした事になるけれど。でも日本人にとって風呂は大事だし問題無い。


 完成した時の1階部分の専有面積せんゆうめんせきは一般家屋の5軒分くらいをイメージしている。一応男湯と女湯で分けなきゃだしな。

 なので一先ずはこれでって感じで、施工の際にアシが出たら、その都度払うという事で契約した。足りない分は工期を考えるとその間に稼げるだろうし。


 ギダルは直ぐに仕事には取り掛からず、まずはメンバーを集めると旅立っていった。

 なんでも知り合いの錬金術師や鍛冶のベテランがいるらしく、チームでこの仕事に臨むとさ。彼も畑違いの物までは手を出せんとさ。

 だから活動費もかかるだろってんで金は前渡しした。

 工期は最低でも半年を見て欲しいってさ。


 適当に造られるよりは全然いいよね。

 なのですぐにデカい風呂に入りたいって目論見はお預けになったが、異世界ならでわのドワーフ達の仕事を楽しみに待たせて貰う事にした。


 さてジルの故郷に旅行に出たシーナはまだ帰らないが、そろそろ仕事を再開するかと思っている。

 あの騒動から半月も過ぎたし、仕事もせずにのんびりしていてもソワソワして逆に落ち着かいなかったのだ。

 だって午前中は散歩をしたりベアトリスとお喋りをし、午後は何となくコッコの小屋を眺めている。

 それで一日終わるとかワシゃ引退したジジイかよって感じよね。


 ちなみにコッコはのんびりとした小屋暮らしを満喫している様で、先週にはヒヨコが増えてて和んだ。

 卵はもうしばらく取らずに増やそうかな。

 そうすると小屋が狭くなるから拡張も考えねば……。

 やる事がいっぱいだぁ。


 で、無限ポシェットのツーナの在庫を見たんだが、結構無くなってた。

 まあ最近海に出てなかったしな。

 ツーナの残りは30本くらいで、これだと1日半分くらいだもんなぁ。


 そんな訳で今日はまだ暗いうちに港にやってきた。

 そしていつも乗せて貰っている船長、アンドレッティの船まで来たんだけど、「やークロちゃん、どうも最近潮目が変わってツーナがいなくなった様だ」なんて言うのだ。


 そう言えばカツオって回遊魚だよな……。

 プランクトン豊富な場所に移動したのか。

 そうすっと俺の屋台は困る事になる。

 俺の屋台=ツーナのタタキ串ってイメージが確立してしまったからな。


 一応他になんか高級魚っぽいのいると聞いたが、いても既に漁の方法が確立されているものばっかでさ。

 それに手を出すって事は、地元の漁師の領分を荒らす事になるからやめた。

 

 一応ルールの漁師って、漁業権的な物は無いけど、船を自前で持っている事がその証みたいな感じなんだよな。

 地球と違って船は地元の船籍としてしか登録できない様だし。

 そんな中で野良の俺が好きにツーナで商売してたのは、そこに競合がいないからに過ぎず、やっぱ暗黙の了解じゃあないけど、俺がそこにシャシャって気分がいい漁師もいねえだろうな。


 そうなるとまたツーナが来るまでは別の商売をせにゃならん。

 聞けば来年また来ると言うのんびりした話だし。待ってられんわ。

 と言っても大げさに店舗を構えて何かをするとかは嫌だし、やっぱ屋台で出来る事になるよな。


 結局のところなぜ屋台かと言えば、いつでも撤退できるからなんだわ。

 バイト感覚って言うか、店舗だとやはりきちんと毎日営業しないとだろ。

 けど屋台なら、その場所に出てなきゃ「あー来てねえわ今日」って客が思うだけで済むからな。

 いやー社会人に有るまじきダメっぷりだとは思うが。


 そんな俺はウーム……と無意識にやってきた市場で腕組みをしていた。

 結局俺って行き当たりばったり過ぎる。


「あれ、姐さんこんなとこで何してんのさ?」

「おっ、食堂のマスターじゃないの。仕入れかい?」

「そうだよ。今日は客が多くてな。魚が足りなくなってなぁ」

「ほーん……、俺はまあ新しい商売のネタ探しさ」


 そんな俺に声を掛けて来たのは俺が屋台を出している広場の近くにある食堂のオヤジだった。

 シーナが手伝う前は、よく火種を分けて貰いに行ったもんだ。

 仕事をしている時の昼飯もそこで喰っている。

 何というか安くて美味い庶民の食堂って感じだな。


「そうすっとあの屋台はやめんのかい?」

「いやあツーナが暫く来ないってんで別な料理を出そうとは思ってるから屋台は続くぞ」

「ほほー姐さんの料理は安いし美味いからなぁ、次は何か楽しみだわ」

「そう言ってくれると嬉しいけどな。そうだマスター、この辺で今時期だと簡単に手に入る食材って何か無い?」


 このオヤジもよくツーナのタタキ買ってってくれる常連だ。

 食堂の料理とカブらんから関係は良好ってやつ。

 で、料理のプロなら色々コネもあるだろうと食材事情を訊ねてみた。


「うーんそうだなぁ……パーバが豊作だからダブついてるとは問屋達が嘆いていたくらいかなあ。後は普段とそう変わらんぞ」

「パーバか、なるほどな……」


 パーバはイモだ。俺の知っているのと同じか知らんがどうみても馬鈴薯系のジャガイモ。

 ここらでは普通に保存技術があるのか、市場では一年中見かけるポピュラーな食材だ。

 この辺の主食はパンだから、惣菜としてパーバ料理はいくつもある。

 まあ炒めたり煮たりって程度だが……。


 その旬が今頃らしく、価格が下がる程に豊作なんだとさ。

 ふむ、でもイモか。

 イモなら俺の知っている料理でいくつかあるな。

 というか屋台でやるってんなら真っ先に思いつくのはアレだな。


 フライドポテトとかポテトチップスだ。

 けどポテチは却下だ。手間がかかりすぎる。

 あの市販のスナックみたいなパリっとした食感にするには、スライスしたイモの水分を相当にトバさないとああならない。

 昔ネットのレシピを見て作ってみたが、完成したのはペニョっとした微妙な食感の薄っぺらいジャガイモだったもの。くっそマズかった。

 

 たしか暫く天日干てんぴぼしすればいいって聞いたけど、客に提供ていきょうする1人分の量だって結構なモノになるだろう。

 ここにゃピーラーなんて便利グッズはねえし、やるなら最低限、カンナみたいな感じでスライス出来る道具くらい造らないと割に合わないと思う。なので却下。


 となるとフライドポテトだな。

 これはツーナよか単価はぐっと下がるけど、楽は楽だ。

 天日干しせんでもいいし。

 

 後は形状けいじょうか。

 Mのマークで有名なバーガーチェーンみたいな細切りのシューストリングか、三日月形にカットした皮つきのウェッジカット。

 俺は後者が好きだな。イモ! って感じがするし。

 皮のとこ好き♡

 

 ふーむ……そうなるといくつか事前準備はいるけれど、イモをカットし、大量の油で揚げるってのを思うとこれはいいんじゃないか?

 ケチャップは無いが、味はシオとコショウでいいだろうし。

 いいな、これ。


「マスターいい情報をありがとよ」

「おお、姐さんの役に立てたなら嬉しいわ。じゃそろそろ行くが、新メニュー楽しみにしてるぜ」

「おう! 楽しみにしててくれ」


 そうしてオヤジはにこやかに去っていった。

 いいね、地元の商売人の横の繋がりみたいなやり取り。

 いいじゃないいいじゃない。

 順調に溶け込んでるな俺。


 というかスルーしてたが姐さんて……。

 例の一件で俺がハイエルフのヤベー奴ってのが浸透した結果、いつの間にかそう呼ばれてたわ。

 まあ地元の顔見知りは俺を怖がったりはしないからいいんだけどさ。

 

 顔を合せれば猥談しかしてねえし。

 俺見た目はクール系美幼女なのにな。

 幼女相手に嫁とのプレイ内容を話してくる酒場の顔見知りとかなんなんだ。

 まあ面白いからいいんだけどさ。


 そんな事を思いつつ、俺は問屋街のある区画を目指したのである。




 ☆


 

 一週間後、シーナはまだ帰らず。

 なんかコレ。恋しい相手を待っているみたいなニュアンスだけど、そんな筈がある訳も無く。うるせえのがいねえなくらいなんだな実際は。

 それはいいんだが、あれから色々な店を回ってフライドポテト屋台の開業の目途めどはつけた。


 具体的にはいつもの鍛冶屋でフライヤーに相当する揚げ器やその他道具類を注文し、道具屋等が密集している地区で見つけたマジックアイテム専門店では食材を保温しておける二種類の箱を頼んだ。

 それらが揃ったので、今日は教会の庭で屋台にドッキングをしようとしているのだ。


 今までは炭火焼の為の箱型の焼き器があったが、それを外してフライヤーを設置する。

 フライヤーは厚さが3センチの金属製で、深い直方体だ。

 横幅は結構広いけど、丁度真ん中で分かれている。


 底にはマジックアイテム屋でオーダーした魔法陣が仕込んであり、下に入れる炭がどれだけ高温になろうと、魔法陣を介する事で一定の熱量に変換する様になっている。


 屋台自体もバージョンアップした。

 形はモロにリヤカーだな。

 ただし上から見た形状は凹の漢字に似ている。

 凹の底の部分が前で、そこに引っ張る為の取ってを付けている。

 素材としてのゴムは見つからなかったので車輪は木製だが。


 で、四隅には太いパイプがあって、その中に鉄板でコーティングして補強してある丸太棒まるたんぼうが縦に通っている。

 要は移動時はリヤカーだが、営業する時はこの丸太をジャッキの様に地面にアンカーとして伸ばし、屋台を浮かせて水平にさせるのだ。

 こうする事で作業をしても揺れない。


 凹の右側がフライヤーがあるが、左側は調理スペースと、縦置きにした箱がある。

 この箱の上が熱々の温度を保つ保存庫で、下が0度位の温度を保ち続ける保管庫だ。

 冷たい方に下拵したごしらえをした食材を入れておき、注文を受けたら出して使うって寸法よ。

 上の方は余剰よじょうな完成品を熱々あつあつのまま入れて置ける場所って感じで。


 ついでに今までは無かったきちんとした屋根もつけた。

 少し外にせり出すようにしてあるから、少々の雨でも大丈夫だろうな。

 ま、こんな感じで屋台の準備は完成した。


 しかしマジックアイテムってのが流通してるのは知ってたけれど、かなり便利なんだな。

 というか痒いところに手が届きにすぎるというか。

 金は結構かかったが、それに見合う効果はあるだろう。

 

 その店は三代続く老舗らしいが、製作者であり売り子でもある婆さん曰く、あんたらみたいなエルフと違って人間は魔力が少ないから、魔石を使って魔法を再現できる技術として発展したって言ってたな。ま、その分野だと俺の場合ポンコツだから心苦しいが。

 魔石はダンジョンとかで取れるらしいが、かなり流通しているからそう高いもんでもない。


 要は便利な家電みたいな道具だが、動力は全て魔石を加工した物で、いわゆる電池みたいなもんだな。

 ただしどれも概ね3ヶ月くらいは持つらしいが。

 どうもこの技術は錬金術ギルドの物で、ギルドは魔石を冒険者ギルドから一手に買い上げ、加工済みの魔石は大中小の統一規格になっているという。


 まあ大きな利権だろうし、そこは持ちつ持たれつでやってんだろうが。

 普通に考えれば魔石の多くがダンジョン産だっていうし、なら錬金術ギルドは直接冒険者から買い取れば安く済むだろう。

 そこをわざわざ冒険者ギルドを間に噛ませる事で仁義を通しているんだな。

 中間マージン分は割高だけど、産出量は多いから末端価格もそう高くないって言う好循環。やるじゃない。


 使う身のこっちとすれば互換性のある規格で統一されているのは大歓迎だ。

 価格も高い感じもしないしな。3ヶ月持つ電池とか普通ねえだろ。

 しかもその電池で家電が稼働し続けるエネルギーがあるって。

 地球の科学者が地団駄じだんだ踏むぜ?

 それに魔石が欲しいならその街の雑貨屋に行けばいつでも手に入る訳だし。

 錬金術ギルドが一般の店に卸してくれるのは利便性はデカいわな。


 さて新調しんちょうしたのは屋台だけじゃない。

 今回新たに発注したのはバットだ。

 魔物由来の素材でコーティングした熱に強い加工を施してある。

 フライドポテトの油を切り、塩をまぶす工程では必須だろう?

 それと同じ加工をした金属製ボウルも色々な大きさで作らせた。


 これで随分と調理が楽だろうな。

 ゆくゆくはサイードの孤児院がオープン……孤児院でオープンつって良いのか知らんが、とにかく運営が始まったら、年長の子供らにやらせたいしな、屋台。

 それに院の運営費の捻出にもなるし、子供らの社会勉強にも良さそうだな。

 

 さて屋台のメインはフライドポテトだが、それじゃ物足りないなーと考え、実はもう一品作れるようにしてるんだ。

 それはアメリカンドッグである。

 まあ日本でも地域によっては知らない人もいるだろうが、パンにソーセージではなく、串さしたソーセージの周囲にたっぷりとフライの衣を纏わせて揚げたオヤツの事だ。


 フライヤーを真ん中から2つに分けたのは、片方でこれを作る為だ。

 なので端っこには串を挟んでぶら下げる為の加工をしてあるのだ。

 まあ同じく大量の油で揚げるってのは共通だからさ、この加工さえしてやればさして手間は変わらんのよ。


 ソーセージは魚肉がいいんだけど無いもんで、街の肉屋に頼んで出来るだけ薄いケーシングで作ったソーセージを注文してある。

 ケーシングってのはソーセージを包む腸の部分だ。

 薄い奴を使えばパリパリ感を少なく出来る。

 皮なしウインナーの様な物をイメージしているのだ。


 んな訳で揚げスナックの屋台の準備は完成したのである。

 そして今日は身内へのお披露目っつーか味見? をしようと思っているのだ。

 というかお勤めを終えたビーが修道服のままダッシュしてきたし。

 別にまだ火もいれてないってのに焦らんでも……ってビーには言うだけ無駄か。


「ほほう……これは立派な屋台ですなぁ」

「凄いですお姉さまっ!」

「お、そ、そう? 結構気に入ってるけど褒められると嬉しいもんだな」


 ビーの後からサイードもやってきた。

 2人は屋台を撫でたり中に入ったりして感心している。

 いいだろいいだろ。結構高かったんだぞ。


「んじゃ早速味見して貰うから見ててくれ」


 そう言って調理を始める。

 材料となるパーバは既に洗ってある。

 こいつを取り出したる円筒型の中に入れ、ところてんを押し出すみたいに上から木型を押し込む。

 するとスパリ! とボウルの中にウエッジカットになったパーバが落ちてくる。


 これはまんま、トコロテンを作る道具をマネした。

 あれは竹とか木材だが、これは鍛冶屋の親方に苦笑いさせた程の面倒臭い加工をし、パーバより少し口径の大きい筒の中に碁盤の目に刃がある。

 なので上から押し込めばその形に切れるって訳よ。


 その間にフライヤーにたっぷりと入れた油を熱する。

 マジックアイテム屋の婆さんに頼んでいくつかの温度で保つように加工してあるので、後は下についてる魔法陣の任意の色の溝をなぞってやればいい。

 一応温度は180度ほどになるようにしてある。

 

 後はドボドボと入れてキツネ色になるまで放置。

 次はあらかじめ串にさしておいたソーセージに、これまたあらかじめ溶いておいた衣をたっぷりと潜らせ、パーバとは反対側のフライヤーに逆さにするようにして入れてやる。

 

 この衣だけど、言ってしまえばホットケーキミックスだ。

 と言ってもそんな便利な物はここには無い。

 なのでこれも自作だ。

 まあ地球時代に作った事あるからね。

 ネットレシピでは割と普通だろ。

 いろんな人がレシピを載せている。


 中身は薄力粉にベーキングパウダー、塩と砂糖を混ぜてふるいにかけただけだ。

 ベーキングパウダーはここには無いが、同じ役割をするってのを見つけたので代用してるが、特に問題は無かった。

 これを水で溶くわけだが、前にマヨネーズ作成を目論んで保留にした理由ナンバーワンである泡立て器が無い。

 

 これは正直妥協した。

 鍛冶屋の親方が扱える金属の中で、割と丈夫で柔らかい合金を使い、先端が丸っこくなった棒を何本も作って貰い、それを束にしてグリップを付けた。

 柔らかい事を利用して先端が放射状になるようにしてあるから、一応問題無く撹拌は出来た。


 ただし欠点が一つ。金属だから当然重たい。

 俺ならハイエルフパワーでどうにかなるが、いずれ子供らにやらせる事を思えば、ステンレスに近い性質の金属で作る必要はあるだろうな。

 ま、それも将来的にだから焦ってはいないが。


 さてパーバもアメリカンドッグも油の中でプチプチと小気味いい音を立てて揚がっていく。

 これ見てるのも気持ちいいな。

 横にいるのは熱気で辛いが。

 これ一日やるの大変かもしれん……。

 まあこれを喰らうのは主にシーナになる訳だから別にいいのだが。


 よっしそろそろいいかな?

 そしたらパーバは網で掬ってボウルにザバー!

 すぐに塩をぶっかけボウルごとシャッシャッっと振って全体にまぶす。

 アメリカンドッグは油きり様に上げ底になっているバットにおいてっと。


「よっしこれで完成だな。サイード、ビー、これ喰ってみて……って、はっ!?」

「「………………」」


 夢中で作ってたから気にしてなかったけれど、二人とも口いっぱいに涎を溜めて凄い見てた。

 ビーはわかるがサイード、お前もか……。


「ほ、ほら、熱いうちに召し上がれ?」

「クローディア様、はしたないですが失礼して」

「た、食べます、はい」


 まあ味は聞くまでも無かったかもしれんなコレ。

 サイードはフライドポテトいや、フライドパーバをポリポリやりながら首を傾げつつ「ふむ、これは素晴らしい。外はカリっと中はほっこり。少し塩味が強いのがどんな酒にも合いそうですな……これは興味深い」と、どこの食レポだよって感じで食べてるし、ビーは小さな口をこれでもかと開きアメリカンドッグを頬張りながら「おいひぃ……あつい……でもおいひぃ……」と語彙力が著しく低下していた。


 とりあえずは店のメニューとしてやれそうな手ごたえは感じたな。

 と言っても道具類にかかった費用を考えると上手くいかなきゃ困るんだけどね。

 鍛冶屋にしてもマジックアイテム屋の婆さんにしても、値段自体はかなーり値引きしてくれたけどさ。


 これは作って貰う時に俺が言った事に反応してだな。

 鍛冶屋の方は俺が頼んだ道具類をもっとブラッシュアップして作れたなら、雑貨屋とかに並べると街の主婦連がこぞって買いに来るぞと言ったのだ。

 マジックアイテムはまんま、料理屋系に温度調節の出来る調理器具をプレゼンすればめっちゃ売れそうってね。


 まあどっちもそれぞれ組合っつーかギルドの存在があるから、そっち経由で詰めてみるって言ってたな。

 ここは著作権保護の概念もそれに付随するロイヤリティとかパテントの概念が無いから、独占するには大きい商家たちが談合とかでもしないと無理だろうし。


 ならむしろ、それで安価で便利な道具が増えた方がこっちは嬉しいもんね。

 せいぜい連中にはいい物を作って売りだしてほしいものだ。

 おっとゲス笑いが零れてた……。

 

 さあ明日から暫く屋台を出してみて街の人の反応を見るかな。

 それで評判が良ければ、シーナが戻り次第馬車馬のように働かせてやろう。

 長期休暇を取ったんだから当たり前だよなぁ?


 となれば次は当然、トマトケチャップの制作でもしてみるかね?

 これも自作した事あるからなぁ前に。

 トマトと香辛料とあとは調味料、多分全部揃うだろうし。

 難しいのはむしろカラシの方かもな。


 なのでアメリカンドッグは砂糖をまぶして出してる。

 これはこれで美味いんだけど、やっぱケチャップ&カラシが至高だろ。

 ふふっ、これはマヨネーズへの道を着々と進んでいますなぁ!

 そう思うと一人ニヤニヤと笑ってしまう俺である。


「お姉さまがまた悪どい顔をしてますわ……それはそれとして、この太いのをおかわりですっ」

「クローディア様、私めもこの揚げパーバを所望いたします」


 失礼な。

 とりあえずビー、幼女が太いとか言うなし。

 サイードも結構アレだぞ。

 真顔で皿を出すな。

 と言いつつご満悦な俺は割とちょろいハイエルフ様なのである。



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 あとがき


 書いてみてわかったけれど、作者以上のキャラは書けないってのはホントですね。

 メシテロ的な話を少し入れたかったけれど、作者はB級料理をこよなく愛する小市民なので、意識高い系メニューは無理でした。

 あれか、オリーブオイルをダバーって書ければセーフなのでしょうか?


 用語覚書き

 パーバ=ジャガイモ

 

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