第4話 人狐
ブロロロロ
「……また来てしまったんですね。」
長刀を持った髪の長い女は冷たい目で、でもどこか寂しそうな目で呟いた。
ついに優達や他の大学のサークルを乗せた船が
妖狐島に到着した。
結局美穂は島に到着するまで姿を見せなかった。
妖狐島は入り口に、名前の通り《狐》の置物が置いてあった。
かなり大きい島でどこか妖しい空気をまとった島にも思えた。
「あーー!疲れた〜!結構時間かかるんだな。」
忍は伸びをしながら言った。
「よしっ!点呼とるぞ。
忍・華那・周一・隆・美穂!それから舞ちゃんだな。全員揃ってる。」
優は、この大会の主催者に報告しに行った。
「報告してきたぞー。
今日はとりあえず宿に泊まるだけだから自由時間だそうだ。
それで明日から大会があるそうだよ。」
「いよっしゃ〜!散策、散策!!」
忍と周一は気合を入れていた。
「一度全員がホテルに荷物置きに行かなきゃいけないから、部屋割り教えるな。うちの大学は三部屋しかもらえなかったから、俺と忍、周一と隆、あと一部屋は女子で使ってもらっていいかな?」
「…うん、わかった!大丈夫だよ!」
華那が返事した。
華那の様子がおかしいことに気づいた優は、
どうかしたのか?と尋ねると華那は、
「ううんっ!なんでもないよ!!」
と、さっきの美穂は見間違いと自分に言い聞かせて首を振った。
宿に荷物を置いてまたサークルメンバーは集まり
散策することになった。
「あーあー。今頃俺たちの町ではクリスマスだからカップルがイチャイチャしてるんだろうなー…。」
と忍が石ころを蹴りながら呟いた。
「優と忍もさっきイチャついてたじゃん」
周一が言う。
「ちょっ!どういう事、それ!!!忍あんた優に何したの!?」
と華那が忍に詰め寄る。
「なんで俺が何かした前提なんだよ!?
…ていうかなんもしてねーし!!」
忍は頬を染めながら叫んだ。
「顔赤くして何言ってんの!?
優!大丈夫?何されたの?」
華那は優に言った。
優は「何もされてないよ。」
と、苦笑いしながら華那をなだめた。
「おーい散策行くんだろーー?早く行こうぜー。」
隆が皆に声をかけた。
ガサガサガサ
「結構歩いたね」
美穂は息を切らしていた。
「確かにそうだなー。でもあれだな、散策っていったけどほとんど森ばっかで探検にならなかったなー。もっと洞窟とかあったら面白かったのに。」
周一が残念そうに言った。
「ほんとだよ。こう森ばっかじゃ空が見えねえよー。」
忍は上を見上げた。
三人の会話を聞いた隆が、
「空は見えないけどさ、さっき洞窟あったぞ。」
「えっ、まじか!行ってみようぜ!」
周一の目が輝いた。
「え〜、もう舞疲れたよ〜。」
舞が隆の腕を持って訴えた。
「あれ?ちょっと待って!優がいない…。」
華那は顔を青ざめた。
「えっ!まじかよっ!!優のやつ、まさかの方向音痴かよ!」
「大丈夫かよ!?探しに行こうぜ!」
「どうしよう…私達が見てなかったから…。」
「とにかく探しに行こう!」
(ハアハア、ゼェゼェ、ハアハア、ゼェゼェ)
優は走っていた。木の根っこにつまずこうが、泥に足を取られて転びそうになろうが全力で走っていた。
それは10分前…
「…迷ってしまった…。携帯……圏外か…。
辺りも暗くなってきたな。早く宿に帰らないと…。
皆俺がいないことに気づいても探しに来ないといいけど。誰かが迷子になったりしたら大変だからな。
って、迷子は俺か…。
はぁ…。情けないな。いい歳で迷子なんて。
そういえば、前皆に話した夢。
あの女の人誰なんだろ。
なんだか不思議な人だったな…。
……ん?」
ゴス!ゴス!
奇妙な音がした。
あの茂みの向こうだ。
優は恐る恐る茂みを覗いた。
血、血、血、血、血、血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
あたりは血まみれだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??」
狐だ。夢に出てきた狐。
体が人間で首から上が狐の、《人狐》だ。
優は逃げた。
背後から足音がする。
優は逃げる。
追ってくる。
逃げる。
追ってくる追ってくる。
逃げ続ける。
すぐ後ろから動物の荒い息遣いが聞こえる。
『走れ!もっと早く足を動かせ!逃げろ!』
優の脳は体にこの単語だけを送り続けた。
体力が限界に近づきもうダメだと死を覚悟したその時…
“どいてください”
その声の直後。
ズバッ!
…バタリ!!
人狐が倒れた。
[返り血一つ付かず長刀を持った髪の長い女性]
風に吹かれて長い髪が空中に舞う。
その姿はまるでスイレンという花のようだ。
「綺麗だ……。」
優は自然とそう口に出していた。
人狐のRaid ロア @brightlily
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