第3話 狂い始めた歯車

クリスマス当日。


ザァザァーザァー

波の音が聞こえる。


忍は一人港で空を見上げていた。




ガヤガヤガヤガヤ

「悪い、遅刻した!」

隆が息を切らしながら、港に走ってきた。

「遅いぞー!俺なんて一番最初に到着したんだぞー。もう他の大学のサークル集まってんぞ。

俺たちも点呼取って早く船乗ろうぜ!」

忍は待ちくたびれたといわんばかりの顔で隆に言った。

船に乗ったサークルメンバー。

「隆が遅刻なんて珍しいな。何かあったのか?」

優が心配そうに尋ねた。


隆は優が知っている限り、時間は必ず守るタイプで遅刻など絶対にしないやつだと思っていた。


「ああ、ちょっとな…」

隆は苦笑いしながら頬を掻いた。

「あのね〜、舞のせいなの〜。舞が寝坊したのに服とかメイクに時間かけちゃって。1時間くらいかな?」

舞はサークルメンバーに言った。

「いや…、舞…2時間はかかってたぞ…。皆ほんとにごめんな…。俺たちが遅刻したから、船遅れてるんだよな?他の大学の人達にも白い目で見られたし…」隆が頭を下げた。

「まあ結果的に間に合うし大丈夫だろー!」

と周一。

「そうそう気にすんなって!」

続けて忍。

「誰だって遅刻くらいあるから平気だよ!

ねっ!優!」

華那も隆を励まそうとフォローした。

隆は申し訳なさそうにしていた。

しかし全く反省の色を見せない舞に美穂が、

「…舞ちゃん、舞ちゃんが用意に時間かけ過ぎたから遅刻しちゃったんだよ。ちゃんと皆に謝らないと…。」

と注意をした。

「えーー、今隆クンが謝ったんだからいいじゃーん。舞皆に久しぶりに会うから、おめかししたかっただけなのにー!

……美穂ちゃんはおめかししないの?

そうゆうこと今じゃ常識だよ?

あっ!そっか〜!!美穂ちゃん彼氏いなかったねー!

そういえば中学のとき好きな人いるって言ってたけど、その人とはどうなったの〜?」

ニヤニヤしながら挑発している感じがした。

「ちょっ!コラ、舞…!!」

隆が静止に入った。


「知ってるくせに!!!!」

突然の大声にサークルメンバーは目を丸くした。

「舞ちゃん知ってるでしょ!私の好きな人!

知っててたかしくっっ………あっ…いや…

なんでもない…。」

「…美穂、大丈夫か?顔が熱いぞ、顔洗ってくるか?」

優が何かを悟り、美穂に声をかけた。

「うん……。洗ってくる…。」

美穂は顔を隠しながら走って行った。

華那も何かを悟ったのか優だけに、心配だから見てくる。と伝えて後を追っていった。

一方残された優以外のサークルメンバーはいつも大人しい美穂が声を張り上げたことにしばらく呆然としていた。



華那は美穂が顔を洗っているだろうトイレの前にいた。

だがトイレに入ろうとしなかった…。


いや…入れなかったのだ……。


先程美穂が走っていく時、顔を手で隠していたが

指の隙間から舞をものすごい形相で睨んでいたのを華那は見たのだ。

そして今もトイレの鏡に美穂の顔が映った瞬間に入れなくなってしまったのだ。

鏡に映った美穂の顔は憎悪に満ちていた。

華那は初めて美穂に恐怖を抱いて動けずにいた。



「なー、優。」

「なに?」

「その…いつも俺の茶番に付き合ってくれてありがとな。剣道だって俺が一人でやりたくないっていったから、サークル入ってくれて…

ほんとお前っていいやつだな。」

忍が頬を赤く染めながら照れ臭そうに言った。

「なんだよ、いきなり…気持ち悪いぞ…。」

オイッ という忍の怒り声をなだめながら、

「別に…忍といるの安心するし、剣道だって初めは興味なかったけど、今はすげぇ楽しいから……。

ぇと…こちらこそありがとな。」


「ちょっとー、そこの二人。イチャつかないでくれますかー。」

周一がひやかすように言った。


【イチャついてない!!!】

優と忍は同時に叫んだ。




『優…。ありがとな。

お前がいてくれたから俺は俺でいられてるんだ。

お前は忘れてるかもかもしれないけど、

あの時お前が助けてくれたことほんとに感謝してるんだ。いつかこの感謝の気持ち…ちゃんとお前に伝えられるかな。

いや……。伝えてみせる!いつか必ず!!』





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