第40話 俺はそう言い、下唇を噛んだ
自分自身が自分のこんな感情に一番うんざりする。
俺が運転席に乗り込んだあと、「失礼します」と前置きをして香川さんが助手席に乗り込んできた。
どうぞ、と答え、シートベルトを締める。エンジンをかけていると、隣で香川さんがシートベルトを締めながら、やっぱり居心地悪そうにもぞもぞと動いているのが見えた。
座席が合わないのだろうか。
「シート、動かしてくださいね」
俺が声をかけると、香川さんは曖昧に笑って頷くものの、移動はさせなかった。
「前からお聞きしたかったんですけど」
車を発進させると、香川さんが話しかけてきた。
「どうして、
アクセルをゆっくりと踏み、カーブミラーで後方確認をしながら発進させる俺に、香川さんは尋ねてきた。
「どうして……って?」
俺が逆に尋ね返すと、香川さんはお腹のほうに回したポストマンバックを抱えながら、小さく首を傾げた。
「なんとなく、『特別支援学級』の先生らしくないな、と思っていて……。どちらかというと、部活動顧問とかで大勢の生徒さんとわいわい騒ぐ方が似合っていそうだったので」
そう言われ、俺は笑った。
「すいません。勝手なイメージだったんですが……」
香川さんは小さく肩を竦めた。
「ひょっとして、配置換えのせいで体調を崩されたのか、と」
落ち着いた声でそう言われ、俺は慌てて首を横に振った。
「違います、違います。どちらかというと、逆です」
「逆?」
香川さんは不思議そうに首を傾げる。
「別に、特別支援学級に特化した資格やスキルがあるわけではないんですが……」
なぜ、こんなことになったのか。
どうして俺が特別支援学級の担当になったのか。
彼女に正直に話してみようと思った。
ここで嘘をついても仕方ないだろう、という腹の坐りがあったのも確かだ。隠していたところで、どうせ能勢さんあたりから知れるだろう。本当のことを言って、幻滅されたらそれはそれで仕方ない。そんな諦めというか。
ここで縁を切られても、別の方法で縁を繋ごう、という、そんな
「去年担任を持った生徒が不登校になりまして……」
俺はそう言い、ゆっくりと話し始めた。
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