4月編

第26話 始業式

「結局、付き合ってから何もしてないの?」

「え、うん。そうだけれど」

「そうだけれど、じゃないよ! キスとかしたことないの!」


 始業式の裏にて。

 生徒会の面々は掃除をしながら、いつも通り世間話に勤しんでいた。

 世間話と言っても、話のネタは私と金谷くん(正確には明くん)とが付き合ったことに関して。それで持ちきりになってしまっている。ほんとに、それ以外に話すネタが無いのか、と言ってしまうぐらいだ。


「キスとか……まだ恥ずかしいじゃない」

「恥ずかしいとかどうこうの話じゃなくて! ……居なくなるんでしょう? 今年の夏で」

「まるで死んでしまうような言い方をするのは辞めて! それは、まあ、そうだけれど」


 夏。

 それが私と明くんとの付き合いのタイムリミットだ。

 海外を旅したい――という理由で高校を休学する(正確には海外のハイスクールに一時的に籍を移すということで、単位自体は出るらしいのだが)ことが決定している明くんとは、同じ道を進むことは許されない。

 試しに私も行ってみたいと訊いてみたところ、家族から大反対を食らってしまったので、諦めてしまったということだ。諦めざるを得なかった、というのが正しいのかもしれないけれど。


「入学式は明日だったっけ」


 時は流れ、今度は入学式の準備に取りかかる。基本的に準備をするのは学生だ。学生がお出迎えをするから、という理由からであり、それが正しいのかどうか分からないけれど、いずれにせよ、その意味を正しいと思わなきゃやってられない、というのが正直な事情だ。

 明くんと横並びになって歩く。


「そうだね。入学式。どんな子が来るのかなあ……楽しみだね」

「とは言っても、どういう人間が来るかさっぱり分からないし、不安も半分あるけれどね」

「そう? 私はあまり気にしていないけれど」

「……あと四ヶ月か」

「え?」

「あと四ヶ月で、僕が旅立つ。それぐらいは君も知っている話だろう?」

「そうだけれど……。別に悲しんだって意味ないでしょ?」

「後悔はしてない?」

「してないよ。してたら今私はここに居ない」

「……そっか」


 二人の会話はそれで終わる。

 それからは入学式の準備に移る。準備といっても大半は他の学生にしてもらって、生徒会がやる役目というのはその学生の取り纏めという役目になる訳だ。とどのつまり、実際の私たちの仕事はそれ程難しいというものでもない。だからと言って楽勝という訳でもない。良いバランスと言えば、それまでだ。


「マキー! 何ぼさっとしてるのー!」


 私はミキに声をかけられて、

 そして、私は入学式の準備に追われることになるのだった。


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金谷くんは白線の真ん中を歩く 巫夏希 @natsuki_miko

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