第25話 卒業式③

 卒業式の片付けも終わり。

 私たちは漸く家に帰ることが出来るようになった訳だけれど。


「ゴメン。僕は忙しいから、兄さん先に帰ってて」

「私たちも忙しいから先に帰っててよー」


 と、いう訳で。

 気づけば一緒に帰るのは、私と俊くんだけになっていた。


「……寒いね」


 雪は降っていなかった。けれど、風がとても冷たかった。


「うん……」

「マフラー、貸そっか」

「え!? いいよ、いいよ、別に」

「そうかい? 寒そうだし。僕は別に問題無いから。ほらほら」


 そう言われて。

 マフラーを首にかけられてしまった私。

 ほのかに暖かいそのマフラーをかけられてしまったからには、今更返すよとは言いがたいものだった。


「……、」

「……、」


 長い沈黙。

 耐えがたい沈黙。

 その沈黙は長い。

 とても耐えられるものではなかった。


「…………ねえ、」

「うん?」

「この前の、話なんだけどさ」

「この前?」

「この前というよりかはさっき言っていた話。海外に行くって本当?」

「うん。嘘を吐くつもりは無いよ。海外は魅力的なところが多いと思ったからね。だから、一度は海外に行きたいと思っていた。親の許可も貰ってるし」

「じゃ、海外に行くのは……確定?」

「ほぼ、確定かな」


 それじゃ、この前言っていた『告白』はどうなるんだろう。

 私は思って、さらに続きを聞き出そうとしたが――。


「きっと、君はこの前の告白を裏切るって思ってるんだろうね。分かるよ、その気持ち」


 でも。

 俊くんは胸に手を当てる。


「あのとき言った思いは、嘘じゃ無い。それだけは分かって欲しい」


 どくん、と胸が高鳴った。

 この思いは何だろう。

 この気持ちは何だろう。

 この思いは、気持ちは――。


「ねえ、俊くん」


 私は彼に告げる。

 あのとき言えなかった思いを。

 あのとき答えることが出来なかった思いを。


「私、あなたのことが好き」


 私は、言った。

 ついに、彼に告げた。


「……ありがとう。僕の思いに答えてくれて」


 俊くんは私にそう言って、身体を抱き寄せた。

 そうして私たちは抱き合った。

 寒空の元、私たちだけが熱源になっていったような、そんな感覚。

 寒さを吹き飛ばしていくような、そんな感覚。

 そんな感覚が、私たちに、私たちだけに走っているような、そんな気がした。



 人々の思いを載せていく、冬の風。

 そうして季節は新しいものを運んでくる。

 季節は春。時期は四月。

 私たちが三年生になる、高校生活最後の一年が始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る