第24話 卒業式②

 結局、話で盛り上がったのは進級の事についてだった。それについては全員が可能という状態であることが明らかになった。まあ、生徒会に所属している人間として留年メンバーを出す訳には行かない、というのは会長である俊くんも言っていたし、皆勉強したんだろうなあ、というのはよく分かる。

 それに、もう私たちは高校三年生になる。

 就職するか、大学に行くかを決める年。

 それは人生の中で一番重要な年であり、その年の生き方だけで人生が決まると言っても過言では無いと、思う。

 では、私はどうするか。

 全然、考えちゃいなかった。

 私の成績は、上中下で言えば上の部類に入る。だから大学に行くことは、ちょっとの努力さえすれば簡単にできる事だろう。勿論、努力は大事だけれど。

 では、金谷くんは?

 いや、正確に言えば、明くんは?

 どういう道のりを歩むのか、聞いたことが無かった。

 というか――私はあの告白の返事を未だ出していなかった。

 ちょっと待ってて、と言って先延ばしにしているのだ。

 それは彼にとって胸騒ぎの収まらない事象だと思う。分かっている。それぐらいは。

 けれど、私にとっても重要な事象であることは明らかである。だから、待って欲しい。

 明くんにはそう言って、待って貰っている。


「そういえば、兄さんはどうするの?」

「どう、って?」

「ほら、言っていたじゃないか。ちょっと前に」


 そういえば。

 この金谷兄弟の仲の悪さはどこに消えてしまったのだろう。

 仲が悪いなんて言われていたけれど、一緒の場所を見つければ、気がつけばこんなに話し合っている。仲が悪いとは到底思えない。


「……ああ、海外留学の話?」


 それを聞いて、私の思考が止まった。

 ……え? 海外?

 確かにこの高校はアメリカにあるインターナショナルスクールと提携を結んでいて、海外留学をすることが出来る。けれど、三年生になる時期に、急に?

 明くんの話は続く。


「ほんとは三年になる前に行こうと思っていたんだけれど、生徒会の仕事が忙しいからなあ。どうしようかと思っているんだよ」

「でも、最大半年でしょう? 急がないと、卒業が出来なくなるよ」

「単位は出るだろ。だから、問題無し。それにセンター試験のある一月までに戻ってくればいい訳だから、そこから逆算すれば……ええと、七月? 夏休みを利用していけばいいかな、とは思っているけれど?」

「だったら、いいや。それぐらいなら、別に生徒会の仕事に支障が出ないと思うし。別に少しぐらい僕を頼ってくれても良いんだよ。兄さんは相変わらず一人で何でも背負い込む」

「兄は僕だぞ? 背負い込むことぐらい、当たり前だろ。少しぐらい考えたらどうだ」


 金谷兄弟の会話は、徐々に頭の中にいっぱいになっていった。

 明くんが――海外に行ってしまう。

 勿論、戻ってくるとは言っていたけれど。

 けれど、それを差し引いたら半年しか居られなくなってしまう。

 同じ大学を選択すれば済む話かもしれないけれど。

 金谷くんはトップの成績だ。きっと私では考えのつかないような大学に進むのかもしれない。

 それを考えたら――もう私の中では思考がパンクしかけていた。


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