キャラクターについて 「感情」から書く脚本術のまとめ
真田五季
第1話
≪キャラクターについて≫
・キャラクターとは
物語を語るうえで、最も大事な存在。ひとは文章を見に来るのではなく、キャラクターを見に来るのだということを把握しておくこと。
キャラクターがどのような人物で、物語のなかでどのような経験をして、どのように変わるのか。それこそが、脚本に命を与える。
・キャラクター造型に必要な5つの質問
1:この物語の主題はなにか(タイプ、特徴、価値観、欠点)。
主役を決めるうえで必要な基準は、「一番苦しむのは誰か」「一番感情的なのは誰か」「物語から一番(テーマについて)学ぶ羽目になるのはだれか。そして学んだ結果、変わるのは誰か」
観客が視点を共有する人物。それを忘れないように。
1- 1:主人公の4つの型と、それぞれの型にあった感情
・「英雄型」……読者に対して優位に立ち、読者に尊敬の念を抱かせる人物。完璧な人間ではないが、自分の能力に自信があり、迷わず行動を起こす。相反する感情に悩んだり、自分を疑ったりしない。スーパーマンをはじめとしたヒーロー。読者に憧れを抱かせる人物。
1- 2
・「普通の人」……読者と対等の関係を持つキャラクター。このキャラクターに自分を映し見るので、共感が発生する。主役の欲求に共感し、主役が必要としているものも理解できる。眼前の障害を乗り越えるために苦闘する。疑念や限界を把握し、異常な状況に置かれた普通の人。ただし、必ずどこかしらユニークで、複雑さを持った人物にすること。普通過ぎてはいけない。
1- 3
・「負け犬」……読者に対して下位に立つ。運が悪く、敵対する勢力に勝ち目がなく、どうしていいかわからない。読者はそのような人物を守ってあげなければと思う。同情。悲観的で、恵まれない。称賛を受けたいと願う人物で、成功の保証が少ないために緊迫感を読者へ与える。
1- 4
・「罪深き者」……いわゆる、アンチヒーロー。読者とは正反対のタイプ。行ってはいけない方向に曲がり、行ってはいけない道を選ぶ。道徳的に問題があり、人間性の暗い側面を代表するような人物。悪事を平気でこなす。簡単に好きになれるキャラクターではないので、何か尊敬できる特徴を与えるのがいい。知性的、同期の強さ、あるいは八方ふさがりで同情を誘う。並外れて肯定的な価値観。等々。この役を主人公に据える場合、人間的な魅力を与えることで、美徳と悪徳のバランスによって魅力的な人物を作れる。
2:特徴
キャラクターの特徴は、陰、陽、中間と織り交ぜた特徴(どちらとも判断できるもの)があるのが望ましい。人の心は平面的ではなく、感情的、心理的、知的な層があって立体的なもの。
3:価値観
その人物をかたどる価値観をひとつ作っておく。信条や、態度など。その価値観は、テーマに対するものであることが望ましい。
4:欠点
完璧な人間は存在しない。その欠点が物語を動かし、主人公を不利にしていくように、あるいは、物語を有利に進める鍵になるようにする。欠点は物語に絡まなければいけない。
5:何を求めているのか
どのような物語も、必ず何かを手に入れたいと思っている人について書かれている。
6:なぜ求めているのか(動機と必要性)
何を求めているのかだけではなく、どうしてそれを求めているのか。読者は当然、そのことを理解したい。キャラクターがなぜそのような行動をとるのか腑に落ちたとき、読者は深い満足を覚える。それが物語の途中でも最後でも、同じこと。それがキャラクターに対する感情移入につながる。
その動機を感情移入する価値のあるものにすれば、読者との絆をつなげることにもなる。
その求める原因の例を挙げると、生存と安全(スリラー・ホラー)、愛情(ロマンチック)集団への所属、承認、自尊心(成長物語、負け犬の物語)、好奇心と理解(ミステリー)などが挙げられる。
重要なのは、「欲求」と「必要」が必ずしも同じではない、という点。クラリスはバッファロービルの逮捕を必要にしていたが、欲求は己の過去の傷をいやすことだった。
「あれが欲しい」と思う気持ちと、「こうせずにいられない」という気持ちにずれが生じて板挟みになったほうがおもしろい。(例)金持ちをものにしたい気持ちと、真実の愛。
7:代償の大きさ(失敗したらどうなるか)
「主人公が失敗したら失うものはなんなのか」これをしっかりと明確にしておく。行動の帰結に何らかの代償が明示されていなければ、主人公が問題を解決するかどうかということに、読者の関心を持たせることはできない。
払う代償が感情的であるほど、読者は主人公の行動の帰結が気になり、目標達成を応援したくなる。問題を解決できなかった場合、すべてを失うのでなければ、その物語はまだ甘いということ。そして、その代償が明確でありながら、主人公は能動的に行動しなければいけない。受動的では駄目。能動的である方が、パワフルで読者の感情を惹く。
8:どのように変わるのか(内面的変化の軌跡)
キャラクター造型最後の鍵は、キャラクターが物語を通して感情的にどう変わるかだ。絶対に変化がなければいけないというわけではないが、内面的な欲求を満たす事、目標達成の邪魔になる自虐的な欠点の克服が引き起こされるのが望ましい。あるいは、心の傷をいやす事、間違った考え方や行動が他者を傷つけていたという気づき、能力を余すことなく発揮すること。そして自分の人生をよりよくするための重要な悟り。
キャラクターが変わろうと奮闘することで、脚本は力強くなる。読者は架空のキャラクターが変化するのを見ることで、自分も変われるかもしれないという希望をもらえる。その変化、欠点は、想定読者に則ったものであるとより効果的。
9:キャラクターとの絆
読者がキャラクターと絆を結び、初めて命が吹き込まれる。
その方法のひとつが、キャラクターとその変化を見せることだ。
9-1:キャラクターの人格や個性を見せる
キャラクターが何らかの選択や決断をするように仕向け、それによってそのキャラクターの思考の過程を見せる。このとき、文字で説明的に描写してはいけない。「語るな、見せろ」が原則となる。キャラクターの特徴を小出しにすることで、読者の注意を惹くことができる。
キャラクターの特徴や秘密をプロットの段階で列挙しておき、それがどの場面で明かされるか、どのように明かされるのかを把握しておく。
キャラクターの個性や特徴は、基本的に対比を用いて強調する。他者との対比、環境の対比(陸の河童)。自己矛盾を抱えた内面との対比。
9-2:主人公以外のキャラクターが主人公をどう思っているのか、あるいはキャラクター同士をどう思っているのか、噂話として囁いたり、周囲のひとに主人公がどのような影響を与えているのか。キャラクター同士は影響を受け合う。すべての登場人物は、主人公の人間性を明かす機会なのだということを理解しておくこと。
9-3:行動・反応・決断
「語るな。見せろ」の原則を見てもわかるように、その人物の行動や反応、決断を見せることで、キャラクターの特徴や性格を見せることができる。「キャラクターの人格の深い部分は、その人がプレッシャーの高い状況でどう振舞うかによって顕わになる」つまり、追い詰められたときにその人物の核が見える(『CUBE』の警官が好例)。その本性が見えたときに、ドラマが始まる。
どのような人物も、上辺と本性があることをしっかり理解しておくこと。それをキャラクターを作るうえで明確にしておくことで、キャラの持つ二面性や深みを与えることができる。
基本的に主人公は能動的な決断を連続させる。その思考展開を見せることで読者との絆を保つ。
また、抱える秘密などもプロット段階で列挙しておくこと。
読者とキャラクターの感情をつなげる方法
1:認識できる感情(理解と共感)
2:魅了する(興味)
3:神秘性(好奇心・期待・緊張)
1:認識できる感情
共感とはつまり、キャラクターと一緒に感じ、置かれた状況や感じ方、そして動機を理解するということ。「こいつの気持ちはわかる。私が同じ状況に置かれたら、絶対同じことをする」という感情を想起させること。
認識できる特徴や、希望や、態度や、行動と動機があれば、キャラの気持ちに読者は共感できる。
キャラクターの感情を理解できたときにも、深い絆が結ばれる。したがって、観客、または、読者が認識できる感情をキャラクターが感じるような状況を作り出してやるのが鍵になる。
読者がそのキャラクタの経験と感情を認識する。キャラクターの行動の理由が理解できるので、その気持ちに寄り添ってやりたくなる。そしてキャラクターの感情を経験する。結果として、読者の心とキャラクターは絆で結ばれる。
2:魅了する
変わったものに魅入られる。ほかにないようなものに心惹かれる。それが読者の関心を煽り、注目を引き起こす。したがって、そのキャラクターが独創的なものであれば読者の興味を惹くことになる。
2-1:逆説
邪悪だが小鳥を愛でるキャラクターであったり、汚職にまみれた人道主義の集まり。そういった対比。逆説が多いほど、自己疑念が多いほど、そして決断が難しいほど、そのキャラクターは魅力的に鳴る。キャラクターが抱える内面的葛藤は、脚本そのものの持つ力を感情的に強くし、それによって読者を巻き込む力も強くなる。
2-2:欠点と問題
欠点、とくに、恐怖は読者の興味を掻き立てる。何かをするのが怖いという気持ち。キャラクターを作るとき、そのキャラクターが何を恐れているのかという問いに対する答えを探すのが重要。キャラクターの内面に入っていくのに、最も有効な方法。欠点、特に恐れの感情はキャラクターを逡巡させ、目標達成を困難にする。それによって、キャラクターをより興味深くすることができる。
3:神秘性
キャラクターの持つ謎、秘密が読者の想像を掻き立てる。謎めいた過去、現在。未来にどのような行動を起こすのか。読者がキャラクターに対し、どのような行動を起こすのかという想像を掻き立てる。
そして、強烈なジレンマを引き起こすことで、読者の心をつかむことができる。「どちらをとっても正しい、または間違っている」、という状況。ソフィーの選択を発生させる。
・読者の心と共感をつかむ技
キャラクターに関する限り、共感(好き、気になる)と反感(嫌い、どうでもいい)という二本の線上を踊ることになる。したがって、一秒でも早く読者の共感を得てしまわなければならない。詰まらないキャラクターだと読者に思われてしまったら、脚本の最後まで何が起きてもどうでもいいとおもわれてしまう。物語に関心を持ってもらえずに終わる。その主要な方法は三つある。
1:犠牲者が気になる。可哀そうだと思わせる
2:人間味あふれるキャラクターで共感を誘う。
3:誰もが望むような素質で憧れを持たせる。
1:犠牲者が気になる
身に覚えのない扱い、不当・予期せぬ不幸・身体的、心理的に不利な条件。健康や経済的な問題・過去の深い傷・弱みを見せる瞬間・裏切り・本当のことを言っているのに信じてもらえない・見捨てられる・のけ者と拒絶・孤独、無関心・心配と後悔・怪我に苦しむ。・危機(誰もが、自分が関心を持つキャラクターが危機に陥るのを見るのが大好きだ)
2:人間味あふれるキャラクターで共感を誘う
愛、品行、正義、寛容さ、寛大さ、美徳によって共感を呼ぶ。誰かに愛される、愛している、ひとりきりのとき・優しい振る舞い
3:誰もが望むような素質で憧れを持たせる
権力・カリスマ、リーダシップ・職業・勇気・能力。専門性・賢さ・情熱・奇人、変人
まとめ
キャラを作る手順
1:陰・陽・そして中間の特徴を持たせる(複数)。欠点・信条、価値観。
2:渇望するもの。それを失ったらどうなるのか。なぜそれを渇望するのか。
3:二面性の設定。人に見せる表情と、ひとりの時に見せる表情を設定。
4:秘密。
本文を書く上での注意
1:認識できる感情(理解と共感)
2:魅了する(興味)
3:神秘性(好奇心・期待・緊張・謎)
この三つを、常に読者に抱かせるように。
そして、強烈なジレンマ(どちらも正しいという選択)と決断を行わせる。
また、登場人物が抱える悪癖、核となる特徴は、一貫して貫くように。そのうえで、上記の三点を読者へ想起させる。そして、それを改めるのは物語の最終盤にすること。
キャラクターについて 「感情」から書く脚本術のまとめ 真田五季 @sanadaituki
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