第12話  ギルドでの説明とレンタル装備

「はいこれ、誓約書」

教室の席に座るとまどかが、俺にダンジョン探索時死亡した場合の

誓約書を渡してきた。


「どうも」

シュン!

俺は受け取りリングに収納する。


「おはよう、山田くん。私もお願いできる?」


「あ、私とひまりのも」


「おはよう、山田くん。お、お願いします」


他の三人も来たようだ。

俺は彼女たちから誓約書を受け取り、リングに収納した。


「じゃあ、早めに出してもらったから金曜は学校休んで

 教習兼ねてダンジョンに行きます!」

金曜までかかるかな?と思っていたが皆行動は早いらしい。


「え、本当に休むの?」

巣能さんが俺に言う。


「うん。書類は書いてあるから、教務に出せばいいし。本来は結構審査

 厳しいんだけど、俺ギルド職員だから通りやすいし」


「審査なんかあんの?」

まどかが驚く。

他の三人も驚いている。


「当たり前でしょ。実力もないのに行かせたら学校の責任になるし、

 それに油断して死ぬし」


「それもそうね。そういう奴に限って怪我したりしたら文句言いそうだし」

周りを見ながらまどかが言う。


「「「ビク!!」」」

何人かの生徒が反応した。


「学校に許可された場合はある程度保障がつくけど、強さに応じて

 保障のランクが違うし、無許可で入ったら当然個人の責任だから

 いいんじゃない」


ダンジョンに入る許可を取れない場合は学校で講習を受けるか、ギルド講習を 

提案される。ただ、学校の場合は10人前後2パーティーほどで行われる為

自分の「魂具」の事を知られたくない人間にはきついだろう。

魔法やスキルだけでなんとかなればいいが、大抵の人間が「魂具」が武器だ。

魔法使いジョブでもない限り自分の得物がバレる。

有名になりたい割に自分の事は隠す。まぁ奥の手は必要だけど。


「え〜、そんな決まりあったの?あやちゃんたち、大丈夫かな?」


「どうでもいいわ、あんな奴ら!」

多分以前組んでいたパーティーだろう。


「行くのはイーロンのダンジョンでしょ?多分許可出ないよ」


「え、なんで?」

話を聞いていたまどか。

俺の机に座るんじゃありません。


「パーティー解散したのって、高校入ってから?」

俺は財津さんに聞く。


「そうだけど。あいつら自分たちがAやBで、私たちがCクラスだからって

 「ごめ〜ん!私らこの人たちと組むから解散ね」の一言よ!いくら模擬戦

 しかやれなくてもパーティーだったのにありえないでしょ」

その時のやり取りを思い出したようで、財津さんが怒る。


「いや、十分ありえるから」


「は?本気で言ってるの?」

ありえると言ったまどかを、睨む財津さん。


「だって高校で出会う人たちも多いでしょ?クラスが決まった時点で

 自分のレベルも判明するし。強い奴と組みたいと思うのは

 当たり前。みれんの方がおかしいでしょ、太郎?」

まどかが俺に振る。財津さんが睨む。



いや、俺何も言ってないけど。

ハァ〜っとため息を吐き答えた。


「ま、どっちも半分ずつ正解」


「「半分(ずつ)??」」

二人が俺を見た。


「まどかの言う通り、たとえ今まで仲間としてやってきても

 それはレベルが判定してない状態。高校入学までレベルを測定

 しないのは子供時代にレベルに捉われない為。

 レベルなんて「ディバイド」も「ダンジョン」も行かないのに

 知っても、虐めとか暴力が起きるだけだからね」


そう、「魂具」の儀式は10歳で行われるがまだ子供である。

レベルまで教えてしまうとその力に頼り、子供が暴力や虐め

犯罪を犯す可能性がある。

だから政府は公式にはレベルを確定するのは高校入学と同時だ。

高校へ行かない者もいるが、その場合は16歳の誕生日までに儀式の

通達が来る。

高校へ入学しない者は、「ディバイド」のリングを無償でもらえないから 

30万出して買うしかないが。戦わないなら要らないけど便利だし必要だと思う。


「だから財津さんの友達の意見も正しい。早く強い人間見つけないと

 他のパーティーに取られちゃうからね」


「だったらなんで半分なのよ?」

睨まれております。


「パーティーメンバーのバランスと、今までの戦い方よ」

委員長がが田所くんの席に座りながら説明した。


「え?」

巣能さんが驚く。


もはやそこは委員長の席ではないのかと疑ってしまうぐらい

影が薄い忍者、田所くん。


(どこへ忍びに行ったのだろう?あまり話した記憶がないよ、前の席なのに)

俺は授業開始の直前に席に座る田所くんを思った。


「一週間前の先生との戦闘、そして体力測定。あとは個人的に強そうな人の

 レベルを聞き出すとかかしら。

 大方、あなた達の元メンバーはそんな感じで他の人を評価して仲間に

 しようとしたんでしょ?でも、落とし穴があるのよ。そこに」


「え!どこに?」

思わず後ろを振り向く。


コン!

「どうして後ろを見るのかしら、言葉のあやよ。バカなの?」

俺は委員長にチョップされた。


「なんだ。つまんないの」


「殴るわよ?」


「すみません」

暴力反対!


「それでその落とし穴って何?」

俺のことはスルーしたらしい財津さん。


「今まではあなた達と組んでいたから強かった。そう思わないの?」

財津さんに聞いてみる委員長。


「え、まぁでも私はレベル低いし」


「うん、私のは補助だし」


二人が落ち込みながら言う。


「でも、それは前のパーティーの時の二人の役割でしょ?」


「「え!」」


「つまり全員主人公なら物語は成り立たないのと同じで、同じ役割ばかりなら

 そのパーティーは機能せず、すごく弱い。財津さんと巣能さんは補助的役割

 だったんでしょ?それが今まで補助してくれていた分が無くなる。

 昔馴染みである程度知った仲ならいいけど、知りもしない相手を仲間に

 誘う。

 しかも誘う側だから、相手の要望を聞かなくちゃいけない場合が多い。

 二人をレベルが弱いとか、補助しかできないからハブってる時点で

 彼女たちがレベルの高い低いでしか見ておらず、バランスを考えてない

 事は明白。

 パーティーってのは背中を預けられて、いざって時は自分の危険を

 かえりみずに助け合えるのを言うんだよ。

 勿論そう思うのがパーティーの中で一人じゃダメだよ。

 絶対に裏切られるし。ね、委員長?」


「そうね・・・」


委員長はお姉さんが裏切られて見捨てられたと考えていた。

俺は事実を知っているが口を挟む権利はない。

そもそも彼女の姉が、両親や超絶強いおじいさんに言えば

そんなことにはならなかったのだ。

もうどうでもいい事だけど。


「なんかあったの?」


「大した事じゃないわ」

俺たちの雰囲気に思わず財津さんが尋ねる。


「そう・・・」

委員長に答えてもらえないのが、少し可哀想だった。


「それで許可されない理由は?」

まどかが俺に聞く。


「ああ、急ごしらえのパーティー。模擬戦の成績も反映されない、

 バランスもきっと悪い。実績も連携も取れなさそうな人に

 ダンジョンなんか行かせるわけないじゃん。

 未発見のダンジョン以外はすぐに政府とギルドの監視下に置かれるし

 必ず、ギルド職員が管理するから探索の受付できないし。

 侵入なら別だけど、しても死ぬだけだろうから」


「じゃあ中学の時の成績全部意味ないって事?」

財津さんが俺に詰め寄る。


「ちょ、ち、近い!個人成績はそうだけど団体は 

 参考程度にしかならなくなる。当たり前だけど財津さんたちが

 組んでいたからの強さや成績であって、今の実力じゃない。

 レベル高いから入れますなんて事は無い。許可は出ないよ」


そう俺は断言した。


「じゃあ山田くんと一緒ならいいの?」

委員長が俺に質問した。


「俺はギルド職員で審査はない。ただ申請しないといけないけどね。

 みんなを講習するって名目ならいいんだよ。ギルドがやってる

 普通の初心者講習と同じだから。担当が俺ってだけ」


「そうなんだ、全然知らなかった」


「私も」

巣能さんと財津さんがため息を吐く。


「それで、金曜の時間と集合時間は?」

気持ちを切り替えるように、財津さんが俺に聞いた。


「そうだね、神狩町にあるギルド第一支部の前に8時で」

俺は四人に言った。


「オッケー!じゃあ明日はよろしく!」

まどかは一人離れた席に戻っていった。


「委員長と、財津さんと巣能さんもその時間には来てね?」


「よろしくね」


「わかった。ありがとう」


「うん、ありがとう」

三人は俺に礼を言う。


(別に何かあっても自己責任だし)

俺は心で思っていた。




金曜日


「あら、今日は早いですね太郎くん」


新東京神狩町 第一ギルド支部

商店街に並ぶ一見オフィスビルのような建物に俺が入ると

金髪でショートカットの女性が声をかけてきた。


「おはようございます。クーリアさん」


「はい。おはようございます」


クーリア・コート 26歳 レベル170 

ジョブ 「スナイパー」

金髪のショートカット。緑眼でモデルのようなスタイル。

胸は控えめ。見た目のクールさと裏腹にとても優しい雰囲気を

持つ女性だ。

彼女は17歳でギルド職員の資格を取り、第一支部で働いている。

この第一支部のギルド長は親戚らしい。

俺が14歳でギルド職員になれたのは、彼女の口添えもある。


「今日は初心者講習の日ですね。忘れ物はないですか?」

と彼女が俺に聞いてきた。


「いや、子供じゃないんですから」


「子供ですよね?」

俺が言うと彼女がそう言った。


いつも俺を子供扱いする。


(精神年齢は結構高いんだどな)


「今日は彼女も一緒ですから調査自体は簡単ですよ」

クーリアさんの言葉に俺は答えた。


「それでも油断はしちゃダメですよ」

そう言って俺の頭を撫でる彼女。



ギルドの二階から誰かが降りてくる音がした。


「おう、来てたのか太郎」

黒髪の髭もじゃ、盗賊にしか見えないギルド長ロロンがヒゲを撫でながら

言った。


「叔父様、遅刻ですよ」

クーリアさんがロロンを睨む。


「いいじゃねぇか別に。ここに住んでんだからよ」

ボサボサの頭を掻きながらドカッと近くの椅子に座る。


「良くありません!他の者に示しがつきません」

怒るクーリアさん。


「朝から怒るなよ、クー。そんなんじゃ嫁にいけないぞ」


「叔父様に言われる筋合いはありません!」


「取り敢えずロロンさん、4人のギルドカードと許可証は?」


「ああ?あ、忘れてた・・・」

クーリアさんに出された朝食を食べながら、俺の質問にロロンが答えた。


ギリギリ!


「グァアアア!」

ロロンの頭がクーリアさんの手で締め付けられる。


「な・ん・で忘れてるんですか?すぐに出すように言いましたよね?」


「わかっ、わかった!すぐ、やるから。痛い、ちょ、まじ痛いからクーちゃん!」


「私はクーリアです!気安く呼ばないでください!」


「わかったからやめてくれ!」

ロロンが悲鳴をあげる。


「ごめんなさい、太郎くん。すぐやらせますから」


「いいですよ、そんなに時間かからないでしょうし」


「後でギルド長の給料は減らしときますから」


「わかりました」


「いや、わかんなよ。そこは」

ロロンが俺を睨むが、クーリアに睨まれダッシュで二階に駆け込んだ。

カードと書類を用意しているのだろう。


「はあ〜、もう少ししっかりしてくれないと困ります」

ドタドタと音がする二階を見てクーリアさんが言う。


「でも、情けない所が好きなんですよね?」


「な!?ち、違いますよ太郎くん。私は別にギルド長の事なんか・・・」

俺の言葉に驚き、慌てて弁解するクーリアさん。


「いいんですよ。三親等ぐらいなら結婚しても大丈夫らしいし」



「だから違うと言って「おう、太郎。遅れたか?」・・・」


「いや、大丈夫。それじゃあ打ち合わせしよう。あ、奥の部屋借りますね」


俺と今日担当を組む人と一緒に奥の部屋へ行く。


「だから、違うと言ってるじゃないですか?・・・バカ」


そんなクーリアの声は残念ながら俺には届かなかった。


「大変ねぇ、想いに気づかない鈍感くんは。うふふ」

他のギルド職員である女性がクーリアを慰めた。




「それじゃ、始めます」


「おう、頼む」


俺と彼女は奥にあるミーティングルームに入り椅子に座る。


「今回の金色牛の騒動は二週間前、ジャワの森初心者用ダンジョン

 「シーク」において、階層にはいないはずの金色和牛が35階層に

 出現。遭遇したBランクパーティー「カタルシス」が戦闘」


「なぁ、ツッコんでいいか?」

彼女の表情がげんなりする。気持ちはわかる。特にチーム名が。


「話を続けます。戦闘は「カタルシス」が敗退。うち一人の魔法使いが

 閃光の魔法で追い払う事に成功。近くにいたC級パーティーの救助を

 求め、ダンジョン入り口まで転移。職員に報告があり、

 すぐに「シーク」のダンジョンを封鎖し政府に通達」


「うん」


「ダンジョン内にいた全てのパーティーの無事を確認。全員帰還させてます」



「翌日対応が政府から伝令。「シーク」のダンジョンにA級パーティー

 3組及び、B級クラン「夜姫」に調査、討伐依頼がされました。

 すぐに探索を始めるも、金色牛は発見されず」


「待て、いなかったのか?」

テーブルの上に足をかけて目を瞑って聞いていたあの女が訝しむ。


「はい、存在は「カタルシス」のリングの解析で確認されています。

 多分閃光の魔法で逃げた金色牛が下の階層まで降り過ぎた可能性があります」


「なるほど、で?」


「捜索に二週間。発見できないとの事でクランへの依頼は取り消し。

 A級3組は1組を除き探索終了となりギルドより人員を出せとの

 命令です」


「だはは、「夜姫」でも見つからなかったのか。ウケる」

話を聞いていた彼女は爆笑していた。


クラン「夜姫」


総勢30名によるB級クランだ。

冒険者にもパーティーにも階級は存在する。

冒険者はS/A/B/C/D/E/F   呼称はランク

パーティーはS/A/B/C/D/E  呼称は級

クランはS/A/B/C/D/E     呼称は級


冒険者は最初Fランクから始まり、依頼や奉仕により評価が上がる。

パーティは組み初めは最初、全員Eから始まる。

ただし、冒険者でC級以上のものがパーティーを組む場合

そのパーティーはC級ランクから始める事ができる。

クランはA級パーティのものしか作れない。

クランは誰でも入る事ができるが最低20人以上集めなければならず

毎年政府にクランの報酬の1割と年間1000万を上納しなければならない。

多くの冒険者が自分の私利私欲の為にクランを作るが、仲間に支払う

報酬や、1000万を毎年払う事が出来ず、潰れる。

勿論政府がそれを狙ってるのもある。


その中で本当に優秀なクランか、財力をバックに持つクラン。

または、悪知恵でのし上がるクランが残る。


その中でも実力で、クランのランクを上げたのが「夜姫」である。


(「夜姫」でも見つからなかったか?だとしたら・・・)


「で、太郎。目星はついてんだろ?」

考え込んだ俺に彼女が聞いてきた。


「はい。多分隠し部屋のボスになった可能性があります」

俺は彼女に自分の考えを言った。


「だろうな。B級クランとはいえ「夜姫」は強い。そいつらが見つけられないのは

 昼にしか出ない隠れ部屋だな?」


「はい、彼女たちは夜専門ですしね」


「ま、昼の探索でも見つからないのは仕方ない。変化するしな、ダンジョン」


ダンジョンは変化する。昼と夜では大きく変わる。いつ変わるのかはダンジョンによって違う。


「シークのダンジョンは午後19時に変動します。それに飲み込まれた可能性が

 あります」


「だろうな」


「金色牛が迷宮に飲まれ、実力を感知したダンジョンがコピー。

 隠し部屋のボスにした可能性が一番高いでしょう」


「決まりだな。まずは実体の方を討伐。隠し部屋を見つけて実力を

 確認。ついでに下の階層を調査。それでいいな、太郎?」

彼女が立ち上がる。


「はい、苺さん」


「下の名で呼ぶな!殺すぞ」

苺と呼ばれた彼女は俺を睨み、部屋から出て行った。


(俺の方が先輩なんだけどな・・・)


俺は溜息を吐き彼女の後を追った。




「「「「おはよう、山田くん(太郎)」」」」

部屋から出て受付に戻ると、クラスメイトが来ていた。

策士木まどか、四十万ちひろ、巣能ひまり、財津みれん。

二人は幼馴染みたいなもんだが、残りの二人はクラスメイト

という関係だ。


「おはよう、今日はよろしく」


「おい太郎!こいつらが講習受ける奴らか。全員女じゃねぇか!」

クーリアさんが出してくれたであろう紅茶を飲みながら座っていた

彼女たちを見て、苺さんが俺を睨む。


「はぁ」


「はぁ、じゃねぇだろ!こいつら死んでも私責任持たないぞ!」

彼女が俺に詰め寄る。


「大丈夫ですよ。誓約書書いてもらってますし、苺さんの昇級試験も

 兼ねてますから」


「グゥ!」


俺の言葉に苺さんが嫌な顔をする。


「「「「昇級試験?」」」」

俺の言葉にまどか達が疑問を浮かべる。


「そうですよ!苺さん。何度目ですか試験は?」

クーリアさんが苺さんに言う。


「う、2度「3度目でしょ」・・・はい」

すぐバレるのに嘘を言う苺さんにクーリアさんが小言を言う。


「太郎くん、小言ではありません。苺さんも笑ってられる身分ですか?」


どうやら聞こえていたらしい。俺に出された紅茶が回収された。


「・・・まぁいいか。紹介するね、こちらが今回初心者講習の

 もう一人の担当官。緒方苺さんです」


「だから名前言うなってんだろ!」


ドガッ!っと俺の椅子を蹴飛ばす。


ゴン!

「痛あぁ!なにすんだよクーリア」


「なんで太郎くんの椅子を蹴飛ばしてんですか?死にます?」

銀のお盆で叩かれた苺さんが涙目になった。


「だって私が「何か?」何でもないです」

文句を言おうとした苺をバッサリ切るクーリアさん。


「この人と二人で講習をしながらダンジョンに潜ります。

 その前にみんなにギルドカードを登録してもらいます」


「私はもう持ってるけど?」

まどかが俺に青いカードを見せる。


「じゃあまどかはいいや。後の3人はまだだよね?」


「「「そうよ(うん)」」」

委員長たち3人が答えた。


「待たせたな」


「「「「!?」」」」

俺たちの前にいきなり現れた男、ギルド長ロロン。


「ああ、彼女以外はカードの方もお願いします」

俺はロロンに頼む。


「あ、4枚じゃなくていいのか?ま、いいかライセンス持ってる奴は

 俺に渡しな!」


「あ、はい私です」

急に現れたロロンに驚きながらギルドカードを渡すまどか。


「よし、他の嬢ちゃん達は登録書に記入してからだな」

手に持っていた書類の束から登録書を3枚出す。


「これに必要事項を書いてくれ」


「「「あ、はい」」」


テーブルに座っていた3人は書類を書く。


「あれ!俺の朝ご飯は?」


「片付けましたけど?」


「えぇ!」

俺はそんなロロンとクーリアさんのやり取りを見ていた。



「「「書けました」」」


「・・・そうかじゃあこれに読み込ませろ」

朝ごはんが片付けられたショックからか、落ち込んだロロンが呟く。


「このカードを下に置いて、上に登録書と自分の血を垂らしてください」



「「「「なんで、敬語」」」」


「職員ですので」

微妙な顔で俺を見る四人に営業スマイルを作る。


「わかった。これでいい?」

財津さんが俺の0円スマイルを無視し、カードの上に登録書を置く。


シュュュン!


「へぇ、こうなってんだ」

登録書が取り込まれ、銀色の無地のカードがクリアブルーになった。


「それでは自分の血を垂らしてください」

クーリアさんが小さな針の入ったケースをテーブルに置いた。


「私、こういうの苦手なんだけど・・・」

嫌な顔をする財前さん。隣に座る巣能さんも引いている。


「痛みはありませんよ。特殊な道具なので」

チクッ!


クーリアさんが試しにやって見せた。


「「「え!」」」

彼女の指から1滴血が出たがてティッシュで拭うと傷がなかった。


「傷もありませんので、軽く針に触れれば一滴血が出ますよ」

笑顔で言うクーリアに三人は恐る恐る針に手を伸ばした。


「本当に痛くなかった」


「うん」


「これでいいのかしら」


財津さん、巣能さん、委員長がカードに血を垂らした。


ブワァ!

カードの端から一瞬赤くなり、元の青いカードに戻る。


「何、今の?」


「ああ、カードが認識したんだよ。これでこのカードは本人にしか使えない」


「そうなの?」


「ええ、ではギルドの仕組みについては私が説明いたします」

そう言って自分のリングを触るクーリアさん。


ヴゥイン!

大きなデジタルの画面が現れた。


「今回ギルドの説明をさせて頂く1級職員のクーデリアと申します」

お辞儀をするクーリアさん。


「「「「よろしくお願いします」」」」

四人が答えた。


「まず、冒険者は必ずギルドに登録していただきます。

 してない場合は冒険者として認められず、保証、権利全てが

 無効になります。

 登録はどのギルドでも構いませんが、「ホーム」と呼ばれる

 ギルドを一つ設定していただきます。

 「ホーム」のギルドは設定していただいた冒険者様のサポート、

 財産、保険などを請け負うものとします。

 ギルドのサポート等はそれぞれ違いますのでご自分にあった

 「ホーム」を探してもいいと思います。出来れば当ギルドを

 指定してくださると嬉しいです」


画面を操作しながら説明するクーリアさん。


「このギルドをホームに登録するとどんなサービスがあるのでしょうか?」

委員長が質問した。


「はい。ここ第一ギルド支部では、冒険者様に三つの特典をご用意

 しております」


「一つ目がダンジョン内で使用出来る簡易テントです」


「簡易テント?」

巣能さんが首をかしげる。


「ダンジョン内は基本人が泊まるようには出来ておりません。

 フィールドタイプならまでいいですが、特に女性である皆様には

 長時間探索に当たる為、トイレやお風呂などお困りになる場合が 

 あると思います」


「確かに。でも他の所でも・・・」

まどかがアイテム袋を見せる。その中にテントが入っているのだろう。


「はい、ただし他のギルドの場合はテントはレンタルですし、

 広さもありません」


「え、レンタルじゃないの?」

その言葉に驚くまどか。


「はい、登録した冒険者様には無料で提供しております」


「嘘、私もここで登録すればよかった。お金まで払ったのに!」

ショックを受けているまどか。


「申し訳ございません。一度「ホーム」を登録してしまうと、一年は

 変更できません」

クーリアさんが頭を下げる。


「そんな、第2支部じゃいけないの?」

どうやら第2支部で登録してしまったらしい。


「はい、支部が違えばサービスも違いますので。ただ第2支部は 

 生活補助がつきますから」


「生活補助?」


「はい。第二支部は生活費として月30万支給されます。また、

 融資も1000万まで無利子、無期限で借り入れできます」


「「「・・・」」」

俺たちはまどかを見た。


「だ、だって宣伝してたし」

しどろもどろになるまどか。


「金につられたな」


「「「そうね(うん)」」」

委員長たちが呆れていた。


「うぐ!べ、別にいいもん」

その割には悔しそうな、まどかだった。


「第一支部の2つ目の特典です。必要に応じギルドから職員を

 貸し出すことが出来ます」


「職員を貸し出す?」

財津さんがクーリアや俺、苺さんを見る。


「はい、これはここ神狩町の第一支部でしか行っていないものです。

 具体的に言いますと、欲しいスキル、ジョブを持つ人材がいない

 ダンジョンの特性により、自分達では相性が悪い。

 その場合、予約制にはなりますがギルドの職員を駆り出すことが可能です。

 他の支部、国でもやっていない事なんです」


「それってすごい事なんですか?」

巣能さんが質問した。


「はい、基本貸し出す職員のレベルは全て100越えの覚醒者ですから」

そう言って微笑むクーリアさん。


「「「「なっ?」」」」

驚く四人。


「ただし、レンタルは1パーティーにつき長期は2ヶ月に一度。

 短期は1ヶ月に一度のみです。人数は依頼の難易度により

 異なります。そしてここでの依頼か、政府からの依頼のみになります。

 通常短期の依頼が長くても一週間。長期は1ヶ月から3ヶ月になります」


「こちらで都合にあった職員を提案させていただきますが選ぶことも可能です」

そう言って職員のデータを見せる。


ヴゥイン!


「凄っ、こんなにいるの?」

財津さんが驚く。


そこには200人以上のギルド職員が登録されていた。


「全員100以上って、おかしくない?」

まどかが引いていた。


「はい。元々職員は多い方でしたが、ここ2、3年で覚醒者が 

 増えまして。現在は大体百人前後が駆り出されていますね」

データの色が緑になっている職員がそうだろう。


「支部も含め本来ギルド職員は通常30人ほどですが、後世の者も

 強くなって欲しいとの事で育成に力を入れた成果です」

嬉しそうに微笑むクーリアさん。


「へぇ〜、あ、この人かっこいい」


「え、馬面だよ?」


「ちょ、そこまでじゃないでしょ!」

女子たちが渡されたデータを見ながら話していた。


「三つ目は装備の貸し出しです」

落ち着いた所を見計らい、クーリアさんが話す。


「装備ってレンタル出来るの普通じゃない?」

そう言ってまどかがリングをつけていない反対側の手を見せる。

そこには銀のリングが付いていた。


「はい、確かに策士木様の言う通りです。しかし保証、盗難の

 恐れがある為、他の支部では有償です」


「ここ違うの?」

まどかが驚いて、クーリアさんを見た。


「はい、ここのギルドでは基本無償で、壊された場合も8割ほどでしたら

 無償で交換できます。専用の鍛冶師や魔法使いがおりますので」


「ずるくない、それ!私もこっちにすればよかった!」

驚き、落ち込む。


「第二支部は潤沢な資金が売りですが、貸し出し装備も足元を

 見られたり、効果付きでないものが多く私はオススメしていません」


「装備レンタル1日1万だよ。しかもD級しかないって言われた」

恨みがましい目で装備が収納されているリングを見る。


「ガーディア」

一般の冒険者が纏う装備で、普段は「ディバイド」の

リングと同じように手首や、耳などのものがある。

使用者の意思ですぐに装着できる優れものだ。

その際、来ていた服は収納される。

装備にもランクがあり、まどかが言う D級は初心者用ではあるが

あまり良いものではない。使い回しだし、洗浄されてない場合もある。



「もしよろしければ、こちらで取り替えますが?」


「ホント、良いの?」

椅子から立ち上がり、クーリアに詰め寄るまどか。


「はい。ではそちらの「ガーディア」はお預かりしますね」

そう言ってまどかのガーディアを腕から外す。



「本来、盗難防止のために貸し出ししたギルドの職員しか外せませんが

私は1級ですのでその制約には縛られません。ではお預かりします」

そう言って自分のリングに収納した。


「ありがとう!クーリアさん」

喜ぶまどか。一万は戻らないけど。


「もしよろしければ私が第二支部に返還しておきますか?

 本日の料金は戻りませんが残り2日分の返金はできると思います」


「マジ、お願いします!」

勢いよく頭を下げるまどか。


「はい、では返金はギルドカードに入れておきます」


「ありがとう、今月厳しかったんだ」

嬉しそうにまどかが言った。


「保険に関してですが、皆さん初心者ですので、簡易保険となります。

 講習を受け、冒険者として働きたい気持ちが固まるのであれば

 当ギルドの講習を受けたとの事で保険料も安くなります」

クーリアさんが一度呼吸を整える。


「ここのギルドで講習を受ければ、保険料10%オフで

 2年目も継続なら20%オフになります」

クーリアさんの言葉に補足を入れる。


「保険料はすぐには徴収されず、依頼を受注し、成功した場合

 報酬の10%をいただきます。1年目は皆様一律です。

 2年目からはグレードも上がり個別のサービスもありますが

 最初は初心者用保険をお勧めしています。

 これですと実際支払う金額はゼロです。

 冒険者に登録すると制約として、1ヶ月に依頼を3つこなす事が

 義務付けられます。簡単な薬草採取で結構ですので是非依頼を

 受けてください。依頼は当ギルドの掲示板、またはネットで

 順次提示されていきます。どの依頼でも10%ですので

 それほど難しくはありません」



「デメリットはありますか?」

話を聞いて悩んでいた委員長がクーリアさんに聞いた。


「保険に関してのデメリットはほぼありません。

 死亡者に対する補償は、最大2千万。病気、怪我の場合

 依頼のノルマはストップされ、治療費、入院費の9割は

 ギルドで補償されます」


「あたしのとこ、8割だったんだけど・・・」

落ち込むまどか。


「ギルドによっても違いがありますので」

若干引きつりながら答えるクーリア。


「ねぇ、太郎。なんで教えてくれなかったの?」

ぎゅうぅ!


「だ、だって自分で探して登録するって」


「言った。言ったけどこっちの方がサービスいいじゃない。


「俺のせいじゃぁああ!」

首を締める力が強くなる。


「確かに補償やサービスなどこちらがいいかもしれませんが

 第二支部は融資などがあり、装備も集めやすいですし」


まどかの両手を優しく掴みながら俺の首から外すクーリアさん。


「あ、す、すみません」

全く力を込めてないような細い手で、腕を外されたまどかが謝る。


「いえ、それでは依頼についての説明をいたします」

笑顔で言うクーリアさん。


(なんか目が笑ってなかったぞ)

内心怒っていたのかと俺は首を傾げた。


「依頼にはランクがあり、最高SSランクからS/A/B/C/D/E/Fまであります。

また、国家の危機や魔物の氾濫などの緊急時、ギルドは冒険者を

強制的に召集できるものとします。報酬は内容に応じてギルドが決める場合と

依頼者が決める場合がありますが、最低賃金は3千円となっています。

これを下回る依頼はありません」


「1日に複数の依頼を受ける事は?」

財津さんが聞いた。


「はい、可能です。ただし、3つまでとなり、複数受注の場合

 2つ達成できなければペナルティーとして一週間依頼を

 受ける事が出来ず、1ヶ月以内に3つ依頼をこなす事が

 難しくなる場合がありますので、十分注意してください。

 ノルマを達成できない場合、資格が剥奪され一年間の

 業務停止になります。病気や怪我の場合は先程お伝えした通り

 ノルマはストップされますので安心してください」



「山田くんは保険入ってるの?」

今まで説明を聞いていた巣能さんが俺を見る。


「はい。私の場合はギルド職員用の保険で、ダンジョンに

 潜る場合が多いのでその分補償は付いています」


「「「「・・・・・・」」」」


「冒険者からギルド職員になるものもいます。その場合は

 採用試験など受けていただきますが受かれば、安定した

 給料と生活が保障されます。具体的には住居の無償提供

 公共施設の無償利用など、職員ならではのサービスが

 利用可能です。ただし、冒険者よりギルドによる拘束が

 強く、自由を求める方にはあまりお勧めしません」


「ギルド職員としてダンジョンに入る場合、見つけた

 アイテム等は原則、ギルド所有のものになります。

 欲しい素材がある場合はギルドから買い取る形になりますので

 注意が必要です。レアアイテムを手に入れたが、買い取る形に

 なってしまうのがデメリットですね」


「「「「・・・・・・・」」」」


「ギルド職員にもランクがあり特級・1級・2級・3級まであります。

 大抵の職員が3級ですが知識、技術、接客等で習熟し、昇進試験を

 受かれば等級が上がります。クーリアが1級、私が2級、こちらの

 苺さんが3級です」


「うぐ!」

隣のテーブルで、紅茶をお代わりしていた苺さんが俺の言葉に反応した。


「でも太郎レベル10だよね。100じゃないじゃん」

まどかが俺に言う。


「はい。本来レベル100を超えた者しか試験は受けられません。

 ただし、技術職、治癒職、サポート、索敵などの「魂具」を

 持つ者はレベルに関係なく試験を受け採用される場合があります。

 レベルはあくまでも判断材料の一つです。以前お伝えした通り、

 ダンジョンの探索可能時間を過ぎた後、ダンジョンに潜り

 生存者など確認しなければいけない場合があります。

 ですので弱いものでは務まりませんが、ギルドで教育は行われるので

 安定を求める冒険者が、今でも月に10人程面接に来られます」


「じゃあ私でも受けれるの?」


「はい。ただ、試験はある程度規定はありますが先輩職員が自由に内容を決める

 事ができ、採用後その先輩に付いて学ぶ事になります」


「選べないって事?」


「はい。ただ試験を行うのは必ず2級以上のギルド職員となりますし

 女性の場合は、男性か女性職員を選ぶ事が可能です」


「ふぅ〜ん」

まどかがカードをくるくると回しながら何か考えていた。


「話を戻しますね。次はギルドカードについてです。

 このカードは本人にしか使用できず、身分証になります。

 各国共通のものでランクに応じて危険地帯に入れる場合もあります。

 銀行のカードにもなっており依頼の報酬は基本このカードに振り込まれます。

 電子マネーですね、形としては。勿論現金化もできます。

 どこのギルドでもお振込、引き出しは可能です。

 また、依頼をこなしランクを上げることでカードの権限も変わります」


「権限って何ですか?」

財津さんがクーリアに聞く。


「はい。今皆さんのカードの色は青ですが、Fランクになります。

 Eが黄色、Dが灰色。Cになりますと緑、Bが赤、Aが銀、Sが金になります」


「山田くんのは?」

委員長が俺に視線を向ける。


「私のはFランクです」

俺はそう言ってカードを見せる。


「F?Fでも職員になれるの?」


「はい。山田の場合は技術職としてギルド職員に登録しています。

 本来なら仕事をこなせば等級は上がるのですが、本人が低レベル

 なのと、年齢が規定の16になっておりませんでしたので今まで

 Fの青いカードだったんです。ただ、これからの仕事の成績は

 反映されるのですぐにCランクにはなると思いますが・・・」


そう言って微笑むクーリアさん。


「いや、別にこのままでも困ってないし」

俺がそう言うと、


「ダメです。本来ならA級になっていてもおかしくない功績があります

 あなたのランクを上げない事はありえません。たとえレベル10だとしても

 です」

凄みのある笑顔で俺を見るクーリアさん。


「なんかしたの、太郎?」


「いや、特に」

まどかの言葉に俺は答えた。別に特別な事をした事はない。

ただ、死亡率を減らして教育制度を充実させ、良い装備を

レンタル式にし、ダンジョン用のテントを製造しまくっただけだ。


そう、ここの装備や、テントなどは大体俺が作っている。

ギルド職員が冒険者の捜索に使う特殊装備も俺が作っている為

俺の権限は結構高い。


「それは後々分かるかと思います。長くなりましたが以上で説明は

 終わります。こちらがシークのダンジョンに入れる特別許可証です」


クーリアが隣のテーブルで書類を整理していたロロンから取った

白いカードを四人に手渡した。


「おまっ!勝手に取るなよ」

書類を引き抜かれたロロンが怒るが睨まれて黙った。


「本来ならすぐにお渡しして講習をしていただきたかったのですが

 書類の準備が遅れてしまい、講習後に説明する事を先に話させて

いただきました」

お辞儀をしながら答えるクーリア。


「うぐ!」

隣のテーブルでロロンが呻いた。どっちがギルド長かわからない。


「い、いえ大丈夫です。クーリアさんが悪いわけでもないでしょうし」

オロオロする委員長。


「ありがとうございます。ではこれより担当は山田、緒方両名に変わります

 気をつけて行ってらっしゃいませ」

クーリアは、もう一度頭を下げた。



「「「「ありがとうございました」」」」

四人は礼を言い、席を立つ。


「ではこれより初心者講習を行います。まずは装備を決めていただきます。

 こちらへどうぞ」

今まで隣にいた、苺さんが彼女たちを誘導した。

俺はそれについていく。


「太郎くん」


「はい?」


「気をつけてくださいね」


俺を呼び止めたクーリアさんが言った。


「はい」

俺は短く答えた。





「こちらにある装備は初心者が怪我をしないようなレベルのものです

 大抵C級装備ですが、自分の「魂具」の形状、性質によって選べます。

 実物とカタログがありますので実際に見てみてください」


俺が装備品の部屋に入ると大量の鎧や、武器が出迎えた。


「すご、これB級の槍よ!」


「こっちはオボロンの盾だよ。これA級だよ」


「こんなにあるんだ。第二支部と全然違う」


「凄いわね、どれも強そう。何より綺麗だし」

四人が倉庫の広さに驚きながら周りを見渡す。


「上にはサイズ違いもございます。まずは一番下にある装備を

 見てください。気に入ったものがあればお渡ししたカタログに

 チェックを。戦い方によっても装備を選ぶことができます」


苺先輩が緊張した面持ちで彼女たちに説明する。

四人は初めて見る装備の豪華さに圧倒され、あまり聞いてないようだ。


「どうやって選べばいいですか?」

巣能さんが苺さんに聞く。


「はい。まずはウォーカーに転送したカタログを開いて、スタイルで

 選ぶを押してください」

苺さんが自分のウォーカーをみんなに見せるように向ける。


「選びましたら自分の「魂具」の武器の種類を選択。武器系統でなくても

 ありますので検索してみてください」


みんなが指示に従いスタイルを検索していく。


「凄っ!いろんな「魂具」が載ってる。この中から自分に似た「魂具」

 探せるんだ」


「私は紙だからこれだ。材質?これってどういうこと山田くん」

巣能さんが俺に聞く。


「ああ、紙でも硬い画用紙みたいな材質とか厚さがあるんだよ。

 それによっても戦闘の仕方が変わってくるから」


「あの、厚さは5ミリなんだけど、ティッシュみたいに柔らかいの」

巣能さんが俺に一枚の白い紙を渡した。


「へぇ、珍しい。消費系の「魂具」とは。強度調べてもいい?」


「うん、結構丈夫だけどハサミで切れるよ。あと200枚位なら一度に

 出せるよ。今までは小さくして敵の視界防いだり、大きく一枚にして

 足元に敷いておいて転ばせたりしてたんだよ」

珍しいと言われたのが嬉しかったのか、自慢げに話す巣能さん。


「なるほど、結構使えるね。重ねて盾にできたりもする?」


「うん。結構もつよ。貫通攻撃にも耐えるし」

褒められるのが嬉しいようだ。。


「なら、バランスタイプの装備がいいかもしれない」


「バランスタイプ?」


「うん。動きやすさとある程度の防御力があるからサポートタイプの

 人には合ってるんだ」


俺はバランスタイプである鎧のカタログを見せる。


「あ、これ可愛い」

巣能さんがその中の一つを指差す。


「ああ、これはスカートタイプで防御は少し低いけどその分、

 身軽で疲れにくいんだよ。スカートの裏にアイテム収納の効果も 

 あるからサポート向きだよ」


「これ、在庫ある?」

目がキラキラしている。よほど気に入ったのだろう。


「あるよ、サイズはMでいい?ある程度の体型が合えば自動で調整してくれるし」


俺は彼女の体を目視で測りながら聞く。


「うん。それで大丈夫。これって借りっぱなしでいいの?」


「そうだよ。汚れたらギルドの受付に出せば無料で洗浄してくれるんだよ」


「他のギルドでもやってるの?」


「いや、他は修理含めて有料だったはずだけど」


「じゃあこのギルドが凄いんだね!」

興奮した様子で俺に言う。


「そうだね!はい。装備が来たよ?」


巨大な倉庫の棚の上から一つの鎧が浮きながらこちらにやってきた。


「え、飛んでくるの?」

驚く彼女に俺は苦笑した。


「そうだよ。職員のウォーカーと連動してて、呼べばくるように

 なってるんだよ。リング状態にするから着てみてくれる?」


パァア!

俺がタブレットを操作すると鎧はリングになった。彼女に

それを渡す。


「これ、念じればいいんだっけ?」


「そう、着るイメージでいいよ」


彼女が念じると、シュウンと音がなり鎧を着た巣能さんが立っていた。


「わぁ〜。可愛い、ありがとう!」


くるくる回りながら喜ぶ。


「動きを確認してみて、ジャンプとか走ってみて違和感なければそれにしよう」


「うん!大丈夫っぽい」

彼女はぴょんぴょんと跳ねてみたり、倉庫内を軽く走ってみる。


「良さそうだね。あとは持ち運びできそうな武器を選んでおいたよ」


俺は彼女の前にナイフ数本と小さな盾を見せる。


「この盾は?」

40㎝ほどの銀色の盾を見て首をかしげる巣能さん。


「これはシールドアッシュ。本来は小さなナイフを仕込んであって

 連射で出すんだ。この盾の先からね」

そう言って俺は盾をつけてみせる。

 

肘まで覆う盾で、尖った先よりナイフが出せる仕組みだ。

アルゴン製でかなり丈夫な防具である。


「でも、ナイフ消耗したらお金払わなくちゃいけないよね?」

欲しそうに見ていた彼女がしょんぼりした。


「いや、形状が同じならいいんだから、折り紙みたいに巣能さんの

 「魂具」を変化させればいいんじゃない?」


「え!」

巣能さんが俺の言葉に驚く。


「折り紙みたいに折れないの?」


「お、折れるけど?」

どうやらそういう考えはなかったらしい。


「やってみて」


俺は近くにダミー人形を出現させる。


「これが打ち出すナイフだから、これと同じの作り出せる?」


「う、うん作ってみる」

渡されたナイフをよく見ながら、自分で出した白い紙を手早く折っていく。


「へぇ、うまいね」

あっという間に再現されたナイフに俺は驚いた。


「う、うん!昔から折り紙好きだったし、「魂具」が紙だったから

 よく折って遊んでたんだ。触らなくても出来るんだよ」

照れながら俺に言う巣能さん。


パタパタパタ!


一つ自分で作り、構造が理解できたのか空中で次々に俺れていくナイフ。


「おお、凄い。これなら弾切れしないかも。じゃあ盾の上に乗せてみて。

 形が合えば装填されるんだ。最大30個入るから」


「う、うん重ねてもいいんだよね?」


「大丈夫。紙だからもっと入るかもしれなど、とりあえず30本で」


「わかった!やってみる」

腕につけていた盾を彼女に渡す。巣能さんはそれを自分の右手につけ

浮かせていた紙のナイフが盾の中に吸い込まれていった。


「おお!本当に入った。これなら使えるね」


「え?ダメもとだったの!」

微妙な表情で固まる彼女。


「壊れても修理するから大丈夫だよ?」


「そういう問題かな」

引きつる彼女。


「それでダミー人形を撃ち抜いてみて!」

俺は人形を指差す。およそ5メートルほどの距離がある。


「う、うん!」

彼女は盾の先を人形に向け、念じた。


シュン!トス。


「見事に財前さんの横に刺さったね」


「うん。惜しいね・・・」

俺たちは頷く。


「惜しいね。じゃないわ!殺す気かっ!」

どの鎧にするか迷っていた財前さんの後ろの壁に、ナイフが刺さっていた。


「てへっ!」

巣能さんが舌を出す。


(いい性格してるな)

俺は巣能ひまりの評価を引き上げた。


「それで許されるわけないでしょうが」

ギュム!


「ご、ごめん。出来心で」


「普通「わざとじゃない」でしょ!なんでちょっと殺す気あんのよ!」


「ブファ!ウケるんだけど、ひまりさん」

まどかが二人のやりとりに吹き出した。


「あ、間違えた」


「三人とも早く決めてくれない?待ってるんだけど」

若干怒り顔の委員長がこちらに歩いてきた。どうやら装備は

見つかったらしい。


「あとはみれんだけでしょ!私は決まってるし」

まどかが「ガーディア」のリングを見せる。


「わ、わかったわよ。ひまりも決まったんでしょ?」


「う、うん山田くんに見てもらったから」

巣能さんが答える。


ギンッ!

「いや、睨まれても」


「私のも探して!」


「わかりました」

営業スマイルで俺は答えた。





「では全員装備が決まりましたのでこちらに移動してください」

苺さんが奥の部屋へ案内した。


扉を開けると遺跡のような場所が姿を表す。


「ここって・・・」


「ここが転移魔法陣になります。今回の任務はここから直接

 ジャワの森に異動になります。この円の中に入ってください」

遺跡はとても大きく、何個かの転移魔法陣があった。


そのうちの一つに俺たちは入った。


「全員入られましたか。それでは起動します。転移先ジャワの森」

ヴゥゥゥゥ!


鈍い音がして、魔法人が起動する。

シュン!後には何も残っていなかった。




「凄い。本当に一瞬で来れるんだ」

そこには大きな木々で覆われた密林が目の前にあった。


「ここがジャワの森です。ここには様々な植物や魔物、動物が生息しています」

苺さんが四人に説明する。


「まず、防具、武器などを装備後、ジャワの森で1日過ごしてもらいます。

 森の中で薬草の知識、気配や歩き方、罠の仕掛け方、外し方。

 初歩的なものですが覚えてもらいます。食事に関しては自給自足になります。

 自分で獲物を捕獲、さばく事もしていただきます。これが最初のクエストです」


「今が午前10時なので、まずは歩き方、気配の消し方を訓練した後

 昼食の動物などを狩っていただきます」


「結構大変そうですね」

委員長が眉根を寄せる。


「はい、ですが私達が出来る限りサポートしますのであまり緊張しなくても

 大丈夫ですよ。まずは森の中の歩き方、呼吸の仕方を教えます」

苺さんのレクチャーが始まった。


「まずは・・・・」






「以上で午前中の研修を終わりにします。大丈夫ですか?」

心配そうな声で四人に声を掛ける苺さん。


「だ、大丈夫です」

ヘトヘトだった。


最初は良かった。ゆっくり歩き、足音を消しながら歩く。

ただ鬱蒼と茂る林の中、無言で進む。途中、指摘はあるものの

黙々と進む探索。

獣を見つけて捉える訓練であるが、結果は全滅。

落ち葉や枝、泥に足元を取られ、野生の動物に気付かれる始末。


確かに教え方は正当だ。間違った時に指摘し、何が悪かったのかを伝える。

でもそのやり方では一向に上手くならない。いや、上手くはなっているが

これではダメだ。彼女に昇級の資格は与えられない。


苺さんも隠していたイライラが表に出てきた。

決して四人が悪いわけではない。ただ、彼女の感覚と

まだ、冒険者として活動した事が無い四人だ。

まず何に気をつけ、何を捨てるか。その事を説明し、

すぐに指摘するのではなく、考えさせるのだ。

体格も違えば体重も違う。感覚や性格も違う。

それを考えさせなければ成長は望めない。


「苺さん、チェンジ」

俺は彼女に言った。


「なっ!ま、待てよまだ午後が・・・」


「今のままじゃ一週間かけても終わりません。午前の評価はC−です」

俺は彼女を評価した。


「うぅう!」

彼女は地面にドカッと座り込んだ。



「では、これより私が講習をさせていただきます」

俺は四人に笑顔を見せた。



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