第183話 信じられるわけがないだろう
幸い、
結界の加護の元にいられることを一同神に感謝する。
お座敷の佐保理と冬美の隣に、新たに菊理と
このお座敷、何畳なのかは数えていないが、その気になればキョウケンと生徒会、
もっとも男の自分は含めてはいけないだろうけど。
小柄な二人が並んで寝ているのは、可愛いといえば可愛いのだが、寝ている理由を思うとやはり痛々しく見える。
さっきから直が二人の顔をタオルで拭いたり甲斐甲斐しく世話をしている。
だが、二人ともやはり意識は取り戻さない。
菊理に関しては生玉で回復しそうなものだが、ピクリともしない。
ヤチに霊力的な何かを吸い取られでもしているのだろうか。
「でも、おかしいと思いませんか、北条先輩」
「やはり、お前もそう思うか、
傍らから、今やキョウケンの頭脳と言っても良い二人の気になる会話が聞こえる。
思わず耳をそばだててしまう。
「戦力の逐次投入ですよね、これ。ありえないと思います。ヤチが何かを企んでいるとしか思えません」
「そうだな。私がヤチだったら手持ちの十種全員で同時に攻撃する。それをしないのは、それに勝る何かがあるとしか思えない」
「それに勝る何か……ですか。表面だけ見ると、こちらの二勝ですが、穴山先輩の離脱を考えると、二勝一敗、私の能力が既に使用不能だと思えば、二勝二敗です」
「こちらの戦力を徐々に削り、消耗させる作戦か」
「もしかするとヤチも全ての状況を把握しているわけでは無いのかもしれません。火力最強の
ヤチの思考を分析しているらしい。
納得できる、納得できるだけに、それを編み出せる真理奈にはやはり、どこの軍師だ、とツッコミをいれたくなってしまう。
「なるほどな。となると、先ほどの戦いで、こちらに『
「おそらく。ですが、私が既に能力を使用不能であることまではわからないでしょうから、警戒を煽ることができたと考えると、悪いことばかりではありません」
「そうだな、大いにハッタリとして利用させてもらうとしよう」
波瑠先輩は、やはり波瑠先輩だけど、この二人の思考は本当に真似できない。自分と比べると、どうしても自己嫌悪に陥るから絶対にやらない。
「問題があるとすると、人質に対し、非情になりきれないことが、わかってしまったこと、です」
「私もそれは思っていた。こちらが積極的に所有者を攻撃しないことも容易にわかるだろうから、ここからはそこをついてこられる可能性があるな。厄介なことだ」
これは自分もうっすらと思っていた。
こちらは『
操られているとはいえ、その体は、自分達にとって大事な人のものだから。
むこうは容赦ないとなると、必然的にむこうに有利。
「プラスの情報としては、ヤチが結界の中に入ることができないであろうことと、結界の中でも十種の力は、十種によらず問題無く発動できることが、確定したことです」
「こうなると、結界はやはり死守しなければならないな。ここに寝ている四人の身の安全のためにも」
「そうですね……」
「次は、
「北条先輩、松莉のゾンビには合気道はおやめください」
「なぜだ?」
「『
「そうか、では、いざとなったら、あれを使うしかないな」
波瑠先輩はそう言って、床の間に据えられている刀を指さした。
「あの刀、模造刀ではないのですか?」
「おばあちゃんが残してくれた対魔刀なんだよ。『
「北条先輩、その剣の名は……」
「私だってわかってるんだが、そんなものが家にあるなんて信じられるわけがないだろう!」
波瑠先輩がここまで取り乱すとは、一体どんな凄い由来の剣なのだろう。
聞いてみたいけど、多分歴史の話になるんだろうな。
やめておこう……。
「ともかく、ゾンビには有効そうです。私か、北条先輩で使うことにしましょう」
「いや、私では役にたたないかもしれない。だから、お前が持っておいてくれ」
「それって……先輩……」
「そういうことだ。気にしないでくれ、頼む」
最後の、謎めいたやりとりの意味はよく分からなかったが、役割を決めておくのは良いことだろう。
墓場の時のことを思うと、真理奈は剣の扱いに長けているようだったし、適任。
波瑠先輩は、司令塔として、全体を見てもらうべきだ。
そんなことを考えていた時だった――
ドン。壁に何かがあたる音。
ガン。これはガラスか?。
ドン。また……
「来たようだな」
「投石のようですね」
二人はあくまで冷静。
しかし、これは冷静にしていて良い事態なのだろうか。
そもそもなぜ――
「と、投石? 石なげてるんですか? どうして?」
「考えてみろ、秋山、結界で近寄れないんだから、石をなげるしかないだろう」
「いや、それはそうなんですけど」
当たり前のように言われても困る。
「あの武田信玄の軍にだって、投石部隊があったんだぞ。徳川家康を相手とした三方ヶ原の戦いでは……」
こんな時にスイッチが……さっき頑張って回避した意味が無い。
いけない、これはとってもいけない。
「北条先輩、わかりました、わかりましたから、対応を考えましょう。そのお話は後でゆっくりと聞きたい感じの内容ですし」
必死が何とか通じたらしい。
「し、しかたないなっ。後でじっくりだからな」
最後の一言が聞いたのかもしれない……後で一時間は覚悟しておこう。いや二時間かも。
「投石ということは、おそらく相手は松莉のゾンビでしょう。生駒先輩の十種で人を操るなら、鍵屋を連れてきてピッキングさせるとかくらいはするでしょうから」
その発想はピンポイント過ぎる気がするが、ともあれ、生駒先輩の十種ならもう少し人間の智恵を使って来そうな気はするから当たってるだろう。
「このまま籠城と行きたいところだが……皆も分かってると思うが、この家は物理攻撃に弱い。このままだと壁もガラスも崩壊することはあり得る。一応強化ガラスだが、こんなに石をぶつけられることは想定してないだろうからな。だから、迎え撃つしかない!」
築何年、ということは考えてはいけなそうな家。
でもそれだけじゃない。
波瑠先輩の家であり、今やキョウケンのホーム。
守るのが部員の務めだ!
「秋山、そこにある足が折りたたみのちゃぶ台を持って行け」
「あの……どういうことですか」
「お前はウチの、キョウケン部隊の先駆けだ。銃弾の飛び交う中に特攻するようなものだから、親心というやつだな」
つまり、あのちゃぶ台を楯にしてつっこめということらしい。
なる……ほど?
すぐに色々なことを諦められるようになった自分は、大人、なんだろうか。
「まあ、何も無いよりはマシです。最初だけでしょうから」
一つだけ足を立てて持ってみる。
うん、意外に、なかなか、楯っぽいぞこれ。
「小木曽は、『
「はいっ! お借りします。」
頷く真理奈。床の間にタタッと駆け寄り、刀を手にする。
そうか、いつのまにか銃弾になってるのには、つっこまないんだな、お前。
「遠山は、今回もすまないが、ここで皆の介抱を続けてくれ」
「はい!」
心は一緒に戦っているということなのだろう。これは、絶対に負けられない!
「私は、松莉の位置を探ってみる。あいつの能力の範囲はそんなに広くはないと思うから、近くにはいるはずだ」
「わかりました。見つけたら、教えてください」
「うむ、では、二人とも頼んだ」
「了解!」
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