第168話 穴山佐保理は覚醒する5
こうして、白い私と黒い私は、私の中に戻り、今の私がある。
最初は、自分の犯してしまった過ちに気が狂いそうだった。
黒い私がしたことを、したときの想いを、私は全部覚えている。
あれが私だったのだと思うと、申し訳無いどころではない。
サイコパスで犯罪者だ。
誰も私のことを責めなかったことが、逆に私の心を締め付ける。
せめて、叩いてくれてもいいのに。
失礼だけれど、こういうことに一番期待できると思っていた
『自分で自分を許すのは大変よね。私も身に覚えがあるからわかる。彼女が悩んでいたらこう伝えなさい。自分が悪いと感じている分、何かをしてもらったと思う分、誰かに良いことをして返せばいいのよって。貰った相手じゃなくてもいいの。自分のできることをして、誰かに喜んでもらえばいいのよ。これに遠慮はいらないわ』
彼女によると、あの先輩も相当苦労しているとのこと。
確かにそうでなければこの台詞は言えない。思いつけない。
生駒先輩に何かもらってるみたい。
そして、彼女は私にこうしてくれた。
皆つながってる。
ちょっと心が楽になった気がした。
ただ、人間そう簡単には行かないもので、学校に行かなくてはと思ったのだけれど、最初は足がすくんだ。
なんとか来れるようになったのは、やっぱり
学校で過ごせるようになったのは、彼女と
屋上でこの四人でいるのは何だか初めてな気がしない。
そう思えるほどに、楽しい、息があってる私たち。
……ダーリンには申し訳ないけれど、もう少し、待って欲しい。
逢えないの、本当は寂しいの。
何がひっかかってるんだろう私。こんなに逢いたいのに。
タイミングなのかな?
「さおりん、まーた変なこと考えてないか」
「か、考えてないよっ」
「幸いなことに、今はいっちーもナオナオもいない! さあ、とらきちへの想いを存分に語り合おう」
そう、先ほど北条先輩が話があると連れて行ったから、市花ちゃんと直ちゃんは今は屋上にいない、
彼女の好きは私のとちょっと違うんだ。
とっても綺麗、綺麗なものだけど。
でも、同じ人物への想いを語り合うというのは如何なものか。
それを提案できてしまう彼女は本当に眩しい。でも、ごめんね。
「だから、そーゆーのじゃないから。もう
「さおりんは可愛いからな、ついついイジりたくなるんだよ」
「もーポチ姉って呼ぶよ、呼んじゃうよ?」
「さおりん、それはアタシに滅茶苦茶にされたくて言ってるのか?」
「先輩方は、やっぱり変わりませんね。何だか癒やされます」
「「えっ!?」」
気がつくと目の前に知らない女の子がいた。
左右の三つ編みのおさげが屋上の風に揺れる。
菊理ちゃんと同じリボンの色、彼女は一年生……なのだろうけれど、この口調はどういうことなのか。
向こうは明らかに私達のことを知ってるような口調。
「
「いいや、初めて見る」
二人とも知らないのにこの子は私たちのことを知っている。
となると、キョウケンか生徒会の他のメンバーの知り合いなのだろうか?
戸惑う私たちに、彼女は驚くべきことを言ってのけた。
「驚かせてしまいましたか、申し訳ありません。私は
「ええええええ」
私は思わず叫んでしまう。
だって驚きがたくさんある。
まず、この子は私たちが十種神宝の所有者だと知っている。
そして彼女も十種神宝の所有者だという。
……そんなに無かった。
でもでも、びっくりだよ。
あれ?
気になって隣を見ると、
「どうして知ってるんだ? 十種のこと」
真面目モード。おさげの子、小木曽さんを警戒してるみたいだ。
「そうですね、北条先輩つながりですと言えば信用していただけますか?」
「その証拠は? って言ったら出せるの?」
「はい、これです」
「な、そ、それは……」
彼女が手のひらにのせて見せてくれたものは、銀の円盤。
紛れもない『
北条先輩の十種だ。
なぜそれがわかるのかは、見せてもらったことがあるから。
私のと似ているけれど微妙に違う。
これを見せられては信じないわけにはいかない。
北条先輩が自分の十種を託せる程に信頼できる人物ということなのだから。
「わかったよ、疑って悪かった」
「いえ、こちらもお二人の幸せそうな雰囲気にやられてしまったといいますか、ご無礼をお許しください。私のことは『マリリン』とでもお呼び頂ければ幸いです」
「なんだと! お前、心が読めるのか!?」
私にはよくわからないけれど、今
「
「そうか、考えてみると十種の所有者相手には効かないか……」
「そう、思いますか?」
尋ねるマリリンちゃんは意味ありげな表情。
「どういう意味だよ。知らないのか? 十種神宝の力は、他の十種の所有者には効かない。ノリスケ会長はアタシの心を操れないし、アタシは他の所有者を透過できない」
これは私も知ってる。今までの戦いで何度も体験しているから。
「それに北条先輩は接触予言できないし、秋山先輩は蒲生先輩の変身解除はできない、といったところですか」
「わかってるじゃないか、何で変なことを言うんだよ」
そう、私もこの子がまるで私たちにイジワルしてるみたいに思うんだ。
「二点あります。一点目は、所有者そのものに対して働く十種でない場合、間接的に影響を及ぼす場合があります」
「それくらいはアタシでもわかるぞ。
なるほどと思ってしまった。
実は
いけないいけない、また黒佐保理になっちゃう。
「私の言わんとするところをご理解いただきありがとうございます。では二点目なのですが、他の所有者に直接の効果は無いというルールは全ての十種にあてはまるのでしょうか?」
「所有者に直接力を及ぼせる十種もあるっていうのか?」
「可能性としてですよ、先輩」
「まさか、お前の十種がその類ってこと?」
「いいえ、違います。私の十種は他のものに比べさらに特殊ですので。申し訳ありませんが、私の力は今のところ秘密でお願いします」
「秘密主義者だね。まあ無理に教えろとは言わないよ。ハルっち先輩がお前を信用してるならそれでいい」
「疑わないんですね」
「「えっ?」」
思わず声をあわせてしまった。いや、あってしまった。
「例えば私が十種で北条先輩を攻撃、脅迫して奪ったとか思いつかれないんですか?」
「まさかお前!」
「
私は隣から抱きついて彼女を抑える。
「怖い顔はしないでください。謝ります。ただ、ここからの戦いのことを思うと、油断はしないでいただきたいのです」
「戦い……お前がアタシ達の前に来た理由はそれか?」
「はい、先輩方お二人に、ご協力いただきたいことがあるんです」
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