第166話 穴山佐保理は覚醒する3
事態は私の思い通りに推移した。
大狐を倒したところで、
そして私は、タオルを持って彼女に向かう細川
「そうはいかぬよ。黒髪の娘はいただかねばならぬのでな」
威圧する。
驚いた顔をしている。
だが、後ろにいる他の者を見ると、それだけでは足りない様子だ。
面倒だが仕方ない。
「ふん、我が自ら戦うしかないとはな」
なおも、私に向かって、わけのわからないことを言う細川乾だったが、ダーリンがその前に立った。
そして
「佐保理がこんなことするわけないだろ」
どうしてそんなこと言うの、ダーリン。
……私は佐保理だよ?
あなたと一緒にいたいから、こうしてるんだよ。
悲しいよ、ダーリン。
私の口が、勝手に、動く
「……なぜそれをお前が言える」
「何……」
「主の心をお前は知っておろう。その主にお前は応えたか?」
口ごもるダーリン。
ごめん、こんなことは言いたくない。
でも……。
こう私が戸惑っている間に、目の前では信じられない光景が繰り広げられた。
生駒徳子が……ふらりと動き……ダーリンの前にたつと……その肩をつかんで……
キ ス を し た
……動けなかった。不覚にも。
蒲生冬美の時とは異なり、あまりにも動作に意図が感じられなかった。
挨拶するために近寄る、中性的な、まさにそんな雰囲気だった。
一瞬の後、自分を取り戻せてからも言えたのはこれだけ。
「な、何をやっているんだお前らは!」
「あら、あなた、どうして狼狽しているのかしら?」
核心をついてくる。
今の私はヤマトタケル、ヤマトタケルだ。
「それは……目の前で、あ、あんなことをされれば当然であろう」
私のこの台詞を聞いているのかいないのか。
気にしている様子は無く、彼女はそのままダーリンに向かって言った。
「そうだ、秋山君、これだけは言っておくけれど、私あなたに全く興味も関心も無いから」
絶句……するしかない。
小賢しいこいつは私のターゲットが向くのを防ごうという算段なのだろうか? 全く意図が読めない。
ただ……彼女がダーリンに言う言葉の数々が、何かを私の心に引っかけてきた。
「……女の子からの好意に無理に応えようとしてはダメよ。穴山さんはそんな好意を要求する子だったかしら? あの子が欲しいのはおかえしじゃないのよ」
余計なお世話……
おかえしでも私はほしい
……ほしい
ほしい……のかな?
「何度も言ったけれど、あの子を信じなさい」
私を……信じる?
こんな黒い私を信じる。
ダーリンが……
信じて欲しい
信じてほしいけれど
信じてくれるのかな?
私と繋がってくれるのかな?
繋がってよ、ダーリン……
ダーリンが
「ふん、茶番は終わりだな。ならばこちらも本気を出させてもらおう」
そして私は、
皮肉なことだけれど、ダーリンと斬り合わなければならない。
ためらいが無かったとは言えない。
けれど、何故かこの時の彼の真っ直ぐな顔が、あの時の、初めて会ったあの日の事を、私に思い出させたのだ。
……
人の心って本当に不思議。
最初に屋上で守ってもらったときは、単なる一人の男子としてしか見てなかった。
確実に惚れてしまったと言えるのは、あの階段だったと思う。
だけど、そこに行くまでには、やはりあの、私の中の無数の沖田総司との斬り合いが無ければならなかった。
斬り合う……
結局その繰り返しか
でも、これがダーリンと私の愛の形なのかもしれない。
彼の思いを剣であっても私は受け止めなければならない。
そう思えた。
「どんな武器だって関係ない、佐保理を、キョウケンの皆を返してもらうぞ!」
嬉しかった。
顔に出ていなかっただろうか。
私の名前を呼んでくれた、一番に。
そして私は受け止める、払う、弾く、彼の剣を。
正直斬られても構わないと思っていたけど、私の愛は、受け止める愛は強いものらしい。あの八握剣すら弾いた。
最初は戸惑っていたダーリンが、それでも自分を失わないで真っ直ぐに向き合ってくれるのが、とても嬉しかった。
「迷いの無い良い目になったな。だが、それだけでは我には勝てぬ」
しかし、この私の喜びの言葉が、却って彼の心を乱してしまったらしい。
八握剣が宙に舞う。
……終わってしまった
楽しかったよ、ダーリン
……
「勝負あったな。では、黒い髪の娘とそこの片おさげの娘はいただいていく」
逃しはしないぞ、生駒徳子。
先ほどは不覚を取られたが、お前は、キョウケンの部室を奪った時から私の敵のままだ。
そう、ダーリンへの思いゆえか、私は忘れていた。
もうひとりの私の存在を。
「待て! 主は、特異点はこんなことは望んでいない」
私と同じ格好の色違い。
白のヤマトタケル。
間をおかず斬りかかってきた。
それを私は剣で受け止める。
さすがはもうひとりの私だ。容赦がないな。
だが、これだけは言わせてもらう。
「今の今まで使命を忘れていたものが、よく言う」
「忘れてたんじゃない。ボクは、彼女の心に従っていただけだ」
そうだろう、そうだろう。
お前も私だからな。
だがお前だけが私のような顔をするんじゃない!
「彼女の……心だと……くっ」
私の台詞の途中で斬りかかってきたため、最後がしまらなかった。
流石に同じ力同士。全力で戦えばこうなるか。
「そうだ、あなたとボクは……私は、元は一つ、それが分かたれたモノ」
いけない、まずい、力を消費しすぎている。
これでは互いに、形を保て……ない
……下方で、ダーリンたちの驚く声が聞こえる。
バレてしまった……
醜い私の、穴山佐保理の本性が、よりによってダーリンに……
「あなたは、彼女の迷いの部分が私から分離したもの。でもそれは迷いであって本心ではない」
この一言に怒りがマグマのように湧いてきた。
全部お前のせいだ。
自分だけが私だというのか。
私は、私だ。
私なんだッ!
「言いたいことを言いやがって! 元が一緒なら私も本心でしょうがッ!」
それから私は白い私と打ち合った。
斬り合った。
これはダーリンのときとは違う。
互いに互いを認められないから、私は私と斬り合うのだ。
認められるわけがない。
こんな黒い私が……あれ?
迷いがあるのはこちらだけではないようだった。
白の斬撃は、致命的な場所に撃ってこない。
何を考えているかは知らないが、私を斬るのを躊躇っているのか。
ならそれを良いことにこちらは殺らせてもらう。
私は完全に忘れていた。相手も私だということを。
考えることは同じ。
むこうは覚悟とでも言うのだろうが。
互いの斬撃は激しさを増した。
そして、どちらからともなく、宣言する。
「「次の一撃で決める!」」
……醜い私
……黒い私
……だから選ばれなかった
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