第160話 武田松莉の思い出3

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松莉の本気に作者も頑張らざるを得ませんでした。

今回常人の食欲をかなり削ぐ内容の可能性が高いです。

食事中、食事の直前直後は避けてお読み願います。

何だか薬のようですが、おそらく毒の類です。

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 私が手に入れた力は、生命を蘇らせる力。


 なんて素敵なんだろう。

 ジョー兄からかと思っていたが、これは神様からの贈り物に違いない。

 私は有頂天だった。


 この力さえあればジョー兄を生き返らせることができる、そう思ったからだ。


 しかし、問題は効果の持続時間。

 あの猫は、翌日は再び屍となっていた。

 ということは、一日もたなかったことになる。


 それでは困る。


 ジョー兄に抱きしめられて寝たら、次の日は白骨死体というのでは……。

 もちろん、たとえ骨でも私の愛は変わることはないけれど、やはり兄の肉体を朝まで感じたい。


 ならば確かめなければならない。

 この持続時間が伸びるものなのかどうかを。

 伸ばす方法があるのかを。


 私はこの石により、力を得たが、まださほど力を使いこなせているとは思えない。

 修行と言うのも不思議ではあるけれど、繰り返すことで力の上限が増えることは、何でもありえることで、期待して悪くはないはずだ。



 それから、私は、殺した。



 小動物をたくさんたくさん殺した。



 そしてたくさんたくさん生き返らせた。



 慣れというのは恐ろしいもので、良心の呵責があったのは最初だけだった。さらに、止めを刺すのも私は上手になった。


 だけど、そんなことばかり上手になっても仕方ない。

 目的はジョー兄の完全復活なのだから。


 練習回数をこなして分かったこととしては、どんなに頑張ったところで、生命がもつのは長くて三日間程だと言うこと。


 私は落胆した。

 これでは、ジョー兄を生き返らせても意味が無い。

 都度生き返らせればいいのかもしれないが、その度に私はジョー兄の死を見ることになる。耐えられない。


 そんなときだ。

 偶然とは恐ろしいもの。


 ケージの中に偶然入れていたつがいの鳥はなぜか三日間以上もったのだ。

 復活させた鳥と、まだ殺していない鳥の組み合わせ。

 但し、生きている方は、元気が無く、日に日に弱っていった。

 試みに別のケージに移してみたところ、すぐに元気になった。

 そのままにしておいたら、復活鳥は間もなく死骸となった。


 私は、喜びに満ち溢れた。

 

 どうやら、私が復活させた命は、生きている者の生命エネルギーを吸うことで、命を長らえることができる。

 しかも、見た目も命を保っていた頃に近い、まさに生き生きとした印象になるのだ。



 しかし、まだ課題は残っていた。

 ジョー兄は既に火葬され、骨になっているのだ。

 骨の状態からの復活は果たして可能なのか。


 ここからの実験は、さすがの私も家の中でするのは躊躇われた。

 いくら離れでこっそり行っており、両親が私を恐れて近寄らない状態を保ってはいても、処理する際の臭いでバレてしまったら、施設に送られて閉じ込められることはありえる。

 私だって、ジョー兄のためだと考えて頑張ってはいるが、それでも空気が悪いのには耐えられない。


 試みに、夜外に出て、人に見つかりにくそうなところを選んで小動物の死骸をこっそり放置してみたが、すぐに無くなっていた。

 死骸でも捕食者は放っておかないらしい。

 食い散らかしていいから骨だけ残してくれればいいものを。


 焼却して骨だけにするのは事情で難しく、野ざらしで骨のみにするというのも現実的ではないことがわかった。


 でも、そこまで悩むことではなかったのだ。

 夕食に並んだ鮎を見て、私は閃く。


 その夜、両親の目を盗んで私が鮎で試したのは言うまでもあるまい。 自分のお腹に入っている分はどうなるのだろうと考えると複雑な気分ではあったが、ともかく実験は成功した。

 タライの中でピタピタ跳ねる鮎に私は歓喜する。


 但し、肉を補うには、通常以上に力を使うことがわかった。

 ジョー兄のためだ、全ての力を使い果たしても構わないが力が足りないのは困る。

 私は日々の鍛錬を怠らないことを誓い、母親にDHA摂取のために毎日夕食は魚にするように頼みこんだ。



 これで、普通の人間の姿で三日以上持たせる目算はついたが、まだ課題は残っていた。


 ここまで私が試していたのは小動物まで。

 人間で果たして可能であるのか。


 ジョー兄を復活させてからのことを考えると、殺人はダメだ。

 二人で幸せに暮らす未来が遠くなる。


 私が墓地に向かったのは必然だった。

 ここなら練習におあつらえ向きの実験体が沢山ある。


 ただ、それでも好き勝手に個人の墓を掘り起こせば、面倒は避けられまい。いちいちひとつひとつの墓をあたるのも手間がかかる。練習には数が必要。


 だから、私は合同墓を狙った。


 合葬、合祀という言葉を知ったのは、とあるテレビ番組を見たとき。何でもお墓を守り供養する子孫がいないときに、個別の墓は無理なため、共同の墓に埋葬し供養するのだという。


 誰の墓ではない、皆の墓。

 眠っているところを申し訳ないが、一時的に起こすだけだから良いだろう。後で元通りにはする。もっとも自分達でして貰うのだが。


 今回も実験は成功した。


 一人と言わず多くの集団が一気に蘇ったため、私が逆に慌てたほどだった。


 地面が割れてそこから人の形をしたものが、何体も出てきた。


 ただし、やはり、人数が多いと、それぞれに注げる力が少なくなるため、映画でみたゾンビのように彼らに知性は感じられなかった。


 それでも、私が主人であることはわかるらしく、私の命令には絶対服従。さすが人間同士、言葉が通じるのだ。


 静かにして、と言った途端に静謐が訪れた時には私自身が爆笑してしまい困った。

 相手がゾンビでも関係無い、何だろうこの優越感は。


 そんな中、死体の群の中に、小柄な女の子を発見した。

 私と同じくらいの年だろうか?

 あまりにボロボロで可愛そうになったので、依怙贔屓にはなるが力を余計に注いだ。肉付きが良くなり、骨が見えなくなり、ふっくらとした可愛い女の子の姿となる。


 私は話しかけてみることにした。

 もちろん、これはジョー兄復活に向けた予行演習だ。


「こんにちは、こんばんわかしら」

 

「ここ……、どこ……」


「墓地よ」


「墓地?」


「あなたは一度死んだの、わかる? 私が蘇らせてあげたのよ」


「えっ……」


 戸惑っている。それはそうか、私がその立場でも困るだろうし。

 まあ、彼女が今の自分をどう思っているかなんてどうでもいい。

 会話が成り立つかを調べなくては。


「あなた名前は?」


八重やえ……長尾ながお八重やえ


 言葉は明瞭。大丈夫そうだ。

 では次は生前の記憶。


「自分が死んだときのこと覚えてる。覚えるなら教えて」


「……言いたくないです」


 この言葉にカチンと来た私だったが、そうか、と思いを改める。

 言いたくないということは覚えているということだ。

 多少頭が悪いのは、蘇ったばかりなのだ、勘弁してやろう。


 いや、待てよ。これで重要なことがわかった。

 意思だ。彼女には意思があるのだ。


 さっきのゾンビ達を見ていて私は不安になっていた。

 私はジョー兄が生前のジョー兄であってほしい。

 ジョー兄がジョー兄でなければ意味が無い。


 自分の意思で私のことを好きだと言って欲しいのだ。


 だから私は上機嫌になる。彼女に優しくなる。


「なら言わなくていいわ。今日はね、私とってもいい気分なの。だからあなた、ウチに来なさい」

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