第8章 沖津鏡 ~先見る少女
第139話 伊勢瑞姫1 サマーキャンプ
「あー、また蚊に刺されてる~、かゆいよハルコー」
中学一年なのに、小柄、ショートヘアでこの言動。
小学生に間違えられても文句は言えなさそうだ。
正直、可愛い、ずるい。
「ヨッシー、虫除けスプレーちゃんとしてないからじゃないの?」
義美と対照的に晴子は黒髪ロングで背も高くて、お姉さんっぽい。
クラスの男子だけじゃなく、女子からも人気がある美人さん。
いいなって思う。羨ましい。
「だってこんなに虫いるって思わなかったし、持ってこなかったんだもん。ミズキ~スプレー貸して~」
「あいよっ、よっちゃん。はいどーぞ」
私は彼女に虫除けスプレーを渡す。
「ありがとー」
「ミズ、ヨッシーを甘やかしてはダメよ。もっともったいぶらないと」
「そ、そうだった、ごめん、はるちゃん」
「こらこら、それってイジメっていうんだぞ。シタシキ中にもレギンスありだぞ」
「それをいうなら親しき中にも礼儀ありでしょ。なんでレギンスがでてくるの」
「まあまあ、はるちゃん落ち着いて。よっちゃんなりに一生懸命頑張って考えた冗談なんだよ、きっと」
「冗談に思えないから言ってるんじゃない!」
いつもながら賑やか。
ここはとある山奥のキャンプ場。
三人がいるのはその一角にあるバンガローの中。
幼馴染三人の親がそろいもそろって親だけで遊びに行きたかったらしく、このサマーキャンプに送り込まれたのだ。
「べつに家で独りにさせといてくれてもいいのにさー」
「ヨッシーが一人だと親御さんが心配するの分かる気がする」
「うんうん私も私も」
「どーいう意味だよー!」
どーいう意味もこーいう意味も無い。
君がひとりで家にいたら、帰ってきた後、君か家のどちらかが無事じゃないか心配になるよ。
この前は変なお兄さんに話しかけられてたのを二人でガードしたでしょ。
その前はホットケーキつくってくれるっていうから待ってたら、焼いてる間に漫画に夢中になって黒い煙がもくもく。
待ってる私たちの部屋まできたし。
火事にならなくて本当によかった。
あの後親御さんにバレてとても怒られたらしいけど、良い薬になっているといいと本気で願う。
正直、私と晴子がキャンプに参加させられたのは彼女のとばっちりな気もしなくもない。
まあ、この二人となら何でも楽しいからいいのだけれど。
「とりあえずヨッシー、旦那さんはしっかりした人選ぶのよ。仕事も料理も洗濯も子育てもできる人」
「はるちゃん、それはなかなか高望みだよ。よっちゃんがすること何も残ってないよ」
「当たり前じゃない。この子におうちの何をやらせるというの?」
「……家計簿つけるとか?」
「ヨッシーの数学の点数知ってる?」
「そうか、まずは進路をどうするか考えないと。よっちゃん何が得意なんだっけ? 体育?」
「二人ともあたしの保護者かっ!」
「「あんたがしっかりしてないからだ!」」
しゅんとする
言い過ぎたと思ったのか、
まるで仲の良い姉妹のようだ。
「ミズ、私の顔に何かついてる?」
私の視線に気がついた晴子が尋ねてきた。
「ううん。二人とも仲良しさんでいいなって」
「変なこと言うのね、ミズもいてこそじゃない」
「そうだよ、三バカトリオじゃないか」
「「私たちはバカじゃない!!」」
義美は可愛いし元気、
だから二人のこといいなって思うんだけど、さすがにそれは言えない。気後れって言うんだっけこういうの。
私、
毎日鏡を見てはため息をつく始末。
せめて成績が良ければ……残念ながら普通だ。
同じ中学一年なのにどうしてここまで違うんだろう。
格差社会、神様は本当に意地悪だ。
現在負け組の私はみにくいアヒルの子であることを祈るしかない。
子って何歳までなんだろうというのは考えない、考えてはいけないのだ。
「ねーねーそういえばさ、近くに洞窟みたいなのあったじゃない。行ってみない?」
ふいに思いついたかのように、義美が提案してきた。
「仕方ない、行くしかないか」
すくっと立ち上がる晴子。
「えっ? はるちゃん反対しないの?」
「この子反対してもどうせ目を離した隙に行くタイプだからね。それだったら、一緒に行って気をつけてあげたほうがいいでしょ」
「そ、そうかあ」
これは一本取られたよ。男前すぎるよ、イケメン女子だよ。
何でも出来る晴子が義美と結婚すればいいんじゃないかなって私は本気で思っちゃったよ。
「そうと決まれば善は急げだね!」
「多分大丈夫だとは思うけど、一応懐中電灯は全員持って行きましょ。それから、後は緊急時の食料として、各自クッキー持って行きましょう」
「はるちゃん、どこに探検にいくの?」
「念には念を入れて、よ」
彼女の石橋はきっと渡る前に彼女によってたたき折られると私は思った。
頼もしすぎる。
……
その洞窟は、キャンプ場から山道を少し歩いたところにあった。
緑に覆われて分かりづらいが、切り立った崖のような角度のある山肌にぽかりと開いた横穴。
特に立て看板とかは出ていない。
サマーキャンプのお兄さんに教えてもらわなければ知ることもなかっただろう。
もちろん、行ってはだめだとは言われていたけれど、そう言われると行きたくなるのが人情である。
人の出入りが多少あるのか、獣道よりは人の通れる道らしい道が、入り口まで続いている。
洞窟の入り口は、私たち子供三人が両手を広げたくらいの幅で、高さは学校の教室の天井くらいか。
入り口から恐る恐る中を窺う。
とくに獣の声とか、何かの気配とかは無い気がする、うん?
近くで草ががさごそする音がした。
三人とも身構えたが、そこから顔を出したのは、女の子が二人。
義美と同じような短髪おかっぱの子と両側おさげの子。
私たちよりも一回り小さい感じだから、小学生だと思われる。
「びっくりしたー」
「ヨッシー、気持ちはわかるけど、この子達のほうもびっくりしちゃうから、もっと声のトーン落としなさい」
「あ、ごめーん」
この時はさすがに義美も謝った。
「あなたたちも探検にきたのかしら?」
「は、はい……気になっちゃって」
おさげの子が答えた。
「じゃあ一緒にいきましょうか」
「ありがとうございます」
これもおさげの子。おかっぱの子は彼女の後ろで、彼女を盾にしているかのようだった。引っ込み思案なのかな、何となく親近感。おっと。
「はるちゃんいいの? 小さい子達も一緒にとか」
「道があるくらい人が入ってるんだから、多分大丈夫でしょ。お化けよりも人の方が怖いけれど、いざとなれば防犯ブザーもあるから、その時は音でビックリさせてるうちに逃げましょう」
冷静な上に、用意周到すぎるよ、と私は思った。
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