第128話 ひとりごと 4 武田松莉
それからは、四人で部活をする楽しい日々が続いたの。
休日には、四人でお出かけしたりもした。
習い事をさせたがるうちの親は渋っていたけれど、部活の延長だと言って私は押し切った。
化石の展示のある科学館に行ったり、ちょっと遠出してアウトレットモールに行ってみたり、時には真面目に地域の史跡めぐりをしてみたり。
ハルのお兄さん、
無口なのが玉に瑕だけど、余計な事を何も言わないストイックな人柄はうちの親と比較して、私的には逆に好感がもてた。
何よりも、現地に到着すると、基本放置なのが素晴らしい。
これは私達のことを信じてないとできないこと。
大人はすぐに干渉したがる。
けれど、それは理由あってのことで、私達子供だけで事故など何かあったときを気にしていて、それが無いようにと考えているのだ。これくらいは私でもわかる。心配ではあるだろうと思う。
でもそれは、何というか、この年になると自由にできなくて不満でいっぱいになる。だから、ハルのつてで政さんにお願いできて本当に幸運だと思ってた。
もっとも政さんが信じているのは、ハルなのだろうけれど。
部活で一緒に行動するようになってわかったのだ。
彼女は、チューの言っていたとおり、自分から進んで人と交流していなかっただけで、本人自体はとても優秀。
私には無い知識をたくさんもっているし、要所要所で見せる判断力も優れている。
そのあたりで、政さんに彼女の自由にさせても問題無いと考えられているのではないだろうか。
このように平日休日共に充実していた。
それは、私がずっと望んでいたものだった。
いつまでも続いて欲しいとそう思っていた。
そんなある日、部室でハルが提案したのだ。
「今度の休み、遊園地行かない?」
「遊園地!?」
思わず声を大きくしてしまった。
私は小さい頃から習い事ばかりで過ごしてきたため、遊園地と名の付くものには一切行ったことが無い。
この言葉はとても魅力的な響きをもって聞こえたのだ。
「レトロだからユルい感じで、あんまり期待しちゃうと後悔することになるかもだけど……」
私のあまりに激しい目の輝きに臆したのか、ハルがちょっと弱気な発言になった。
「ああ、ワンダフルランドか。それなら、妹も連れてっていいか? あそこなら危ない乗り物は無いから、子供だけでも親の許可が出るはずだ」
思いついたように横から言ってきたのはジョー。
「そういえばジョー、妹いるって言ってたわね」
チューとの話で時々登場していたのを聞いてはいたけれど、話題にしたのはこの時が初めてだった。
「そりゃいるさ」
「そりゃ、って言われても想像つかないわよその顔からじゃ」
「顔は関係ないだろ! 妹がいることで、他の男とはちょっと違う女への優しさに溢れてるっていうか、ジェントルマンだろ、俺?」
「……」
「何で静かになるんだよ!」
「どうツッコんだらいいか考え込んだからに決まってるでしょ」
「考え込まんでいい!」
「まーそれはどうでもいいとして、重要なことを一つ聞いておきたいわ」
「な、何だよ?」
「ジョーに似てるの?」
「それは大丈夫。似ても似つかない可愛い子だ。本当に似なくて良かった。きっと兄の方は川から流れてきたんだろうな」
これはチュー。そうか、二人は幼馴染だったんだと改めて気付く。
「何てこというんだよ、チュー。お前俺の親友じゃなかったのか? 俺は浦島太郎じゃないぞ」
「ちょっと待て、浦島太郎は川から流れてこないだろう。海にいくんだぞ、海に。竜宮城の奴だ」
「岐阜には海無いからいいんじゃね」
「くっ……貴様いつのまにそんな論戦スキルを身につけたんだ」
いつもどおり、本筋からどんどんズレていく二人。
面白いのだけれど、軌道修正しないと延々と続くのだ。
「はいはい、わかったから。じゃあ日曜日九時にいつもどおり駅の所に集合で」
ハルの鶴の一声。男子二人は、無駄口をやめてこくりと頷く。
「ありがと、ハル」
「気にしないで、ノリ。私が言い出しっぺだし。そうそうジョーの妹さん来るなら、政に車六人乗りでって言っておくね」
頼もしいのだった。
……
「こんにちわ、よ、よろしくお願いします」
可愛らしい声でお辞儀をしたのはジョーの妹。
声だけでなく、外見も相当可愛いと思う。
チューがジョーに似ていないとあれほど訴えていた意味がわかった。
「おいおいお前、自己紹介自己紹介」
ジョーが兄らしく、注意する。
「あ、そうだった、名前。じゃーもう一回……
ぺこりともう一度お辞儀。彼女のこの素直な可愛らしさは三人のお兄さんお姉さんの心に響いたらしかった。彼女を囲んで挨拶合戦が始まる。
「松莉ちゃん、よろしくね。私は
「私は
「俺は
「チュー兄ちゃんは大丈夫でしょ。ええっと、徳子さんに、波瑠さんかあ」
「あーノリとハルでいいぞ」
「お兄ちゃん、そういうわけにはいかないでしょ、もう。じゃあ、ノリちゃんに、ハルちゃんで……いいですか?」
「もちろんいいわ。あー妹ってこんな感じなのね。私も欲しかったなー妹。ジョーあんたにはもったいないから松莉ちゃん頂戴」
彼女をよしよし撫でながらジョーに言ってみた。
「松莉は男女関係無く誰にもわたさん。しっしっ」
妹を私の手から引き離し、ガシッと抱いてガードすると、ジョーはまるでハエを払うかのように手を振った。
「俺はいいよな、幼馴染特権で」
何故かここでチューが割って入ってきた。
「俺以外男は特にダメに決まってるだろう!」
「何だと、姫、お救いいたしますので、今しばらくお待ちを」
「チュー兄ちゃんがんばって!」
駅前で、この微笑ましい光景が繰り広げられていた。
そしていつまでもいつまでも繰り広げられそうだったので、諦めて既に助手席に乗っていたハルがまた鶴の一声。
「そこの三人、早く乗らないとおいてっちゃうよ」
「「「ごめんなさい」」」
車のドアに手を掛けていた私はもちろん数えられなかったのよ。
それから、車に三十分ほど揺られてついた遊園地はワンダフルランド。
ハルの手前我慢したけれど、正直インパクトのありすぎる名前の看板を見ただけで私は吹き出しそうになった。
でも、遊園地が初めての私としては、どれも乗り物は、新鮮で何を見ても乗っても楽しかった記憶がある。
ジョーとチューがいるのも、ちょっとだけデートっぽくて、幸せだった。
私は一人っ子だから、妹の松莉ちゃんの存在も新鮮で、隙を見ては撫でてジョーに注意されていた気がする。
でも、私も女だから何となくわかってた。
彼女が兄しか見ていないことに。
彼女と二人きりになったタイミングでふと聞いてみたのだ。
「松莉ちゃんはジョーのこと好きなのね」
「はい、私、ジョー兄のこと大好きです。今でも、その……お嫁さんになりたいって思ってたりします」
「ええ、そうなの!?」
ちょっと衝撃的だった。
小学生ならまだしも、中学生で? そう思ってしまった。
「へ、変ですか?」
「ううん、ジョーみたいな優しいお兄ちゃんが好きっていうのは、わかる気がする」
「ひょっとして、ノリちゃんも、ジョー兄のこと、好きだったりします?」
私は怖かった。この時私を見た彼女の目に、何か別のものが灯っているのを感じて。だから言ってしまった。
「そうね、同じ部活の仲間として、ね」
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