第108話 消えた剣姫
「どうしてだ……」
口に出して言わざるを得ない。
しかし、今度こそ本当に、誰も答えてくれる者はいない。
放課後の社会科準備室。
自分以外はキョウケンの仲間は誰もいない。
今日は朝からそうだった。
厳密には昨日から、独り。
生徒会室から戻った後、進展しない状況に我慢ならなかったのか、心当たりを探ってくると言ったつや様をひきとめていれば……。
あの時は、
彼女は戻らなかった。
しばらく待って、戻ってこないので、勘違いでつや様に怒られることは承知の上で、
そして、残っている全校生徒の力を借りて探してはみたのだが、見つかったのは、短くなった竹刀だけ。
屋上にあったそれは、まるで鋭利な刃物で斬られたかのように、先端側を失っていた。
せめて、
「とらきち、独りで悩んでたらダメだぞ」
気がつけば目の前に、乾!
「乾がどうしてもと言うので、波瑠や他の子を探す時間を割いて来たのですからね……まったく」
「会長は、こうおっしゃいますが、秋山君のことも、本当は心配しているんですよ」
生駒会長に、蒲生!?
「会長はツンデレだからな~まったく」
「乾!……と。とにかく秋山君、いなくなっているのはいずれも君の周囲の女の子よ。調査に協力なさい。情報を整理したいから、最初に穴山さんがいなくなってからのこと、全部教えて頂戴」
突然三人に囲まれ、反応に困っていた虎であったが、生駒のこの話に、己が成すべき事を悟り、素直に頷く。
それから話した。
会長の家からの帰り道の佐保理の様子から、目に焼き付いているあの、つや様の背中のことまで。
思いつく限り、洗いざらい。
もっとも、会長の自宅でのことは一部、乾にお願いされていたこともあり、秘密にしたこともあった。
その本人がいるのだから、会長には話さずとも調査に問題はないだろう。
秘密にするのが不思議な内容ではあったが、漢として約束は守る。
「……なるほどね、全校生徒の視野を借りるよりも、もっと早くあなたに聞くべきだったのかもしれない、波瑠のことに限らず。まあ、それは、ここまで事態が進展しているから言えるのかもしれないけれど」
「どういうことです!?」
「会長、行方不明の法則が見えたのですか?」
蒲生も驚いた表情。
乾は、黙って話を聞いている感じだ。
もしかして、彼女は、わかっているのか?
「秋山君の今の話に出てきた情報から、被害者について一致する条件を考えるとね、自ずとわかるはずよ」
一致する条件?
キョウケンの女子である以外に何かあるだろうか?
生駒会長に今まで聞いた内容も踏まえて考えてみる。
佐保理――
乾、もとい生駒会長宅からの帰宅時に行方不明。
親御さんから担任の先生にかかってきた電話により、あの日帰宅していない事が判明している。
生駒会長により、家族の彼女に関する記憶は一時的に消されている。
波瑠先輩――
佐保理宅からの帰宅時から、翌日までの間に行方不明。
彼女の不在は、会長自ら先輩宅へ行き、確認したとのこと。
現在唯一の同居人である先輩の兄が長期出張中のため、保護者からの連絡も確認も無いので正確なところが不明だそうだ。
市花――
彼女も、親御さんから担任の先生にかかってきた電話の内容により、あの日帰宅していない事が判明している。
放課後、社会科準備室で既に行方になっていた可能性もある。
生駒会長により、家族の彼女に関する記憶は一時的に消されている。
そして、つや様、いや直――
言うまでも無い。状況から、学校で行方不明になっている。
不本意ではあったが、生駒会長と一緒に直の家に行き……。
このまま彼女達をいない存在のままにするわけにはいかない。
必ず、取り戻す。
しかし、そう意気込んでも、やはりわからない。
全員に共通するのは、キョウケンの女子であること。
会長にも聞かれたが、ここ最近特に、全員で校外の特定の場所に行ってはいない。
ということは……。
「社会科準備室に出入りしている人間、ということですか?」
「それだと、資料を取りに来る先生や他の生徒も行方不明になってもおかしくはないでしょ。私も含めて」
有無を言わさず、バッサリ一刀両断。
こんな時でも、明らかに傷心状態の相手に対しても、彼女は容赦無かった。
「すみません、俺じゃ思いつきません……」
「とらきちは、本当に、わからないの?」
いきなりの乾からの口撃。
どうしてだろう。彼女は、何だかとても、悲しそうな顔をしている。
「ぬい。秋山君をそんなに責めないで。私もわからないのよ」
横から蒲生が援護射撃してくれた。
「冬ちゃんがわからないのは何となくわかるんだ。だからこその冬ちゃんだからな。でも、とらきちには分かって欲しいよ」
そう言われても……。
「乾、もういいでしょう。こんなことに時間を掛けても無駄。だから教えてあげるわ、秋山君」
会長のこの言葉に、乾は不満そうな顔でそっぽを向いた。
蒲生がその頭を撫でている。
「単純よ……『あなたと二人きりになった女の子』」
「ええっ!」
……確かに、当てはまる。
佐保理とは、行方不明になる前に、会長宅からの帰り道で二人きりの状況があった。
波瑠先輩とは、佐保理宅で会長と分かれた後に、二人きり。
市花とは、社会科準備室で二人きり。
直、つや様とも同じだ。
先ほど、話している際にしつこく他に人がいなかったか聞かれたのは、そういうことだったのか。
だが、疑問が残る。
どうしてそれが条件になるのだろうか。
「なぜこれが条件になるのかわからない、って考えてるわね」
会長のこの言葉に、動揺する。
彼女の力は自分には効かないのではなかったのか?
「えっ!? 会長、俺の心、実は読めるんですか?」
「とらきちはわかりやすいからな、アタシでも考えてることわかるんだぞ」
「こらこら、ぬい、めっ! ……でも、秋山君、そうかもしれません」
ここまで言われてしまうと、認めざるを得ない。
「わかりやすくて……すみません」
なぜか謝ってしまう。
生駒会長は、この謝罪にまったく心を動かさない様子で話を続けた。
「起きた事象には必ず原因がある。行為者がいれば何らかの動機、もしくは
難しそうだけど、つまり、原因が何かあるはずってことだろう。
行為者って、犯人か……今回は、どうなんだろう?
「今回は、あの屋上の竹刀の切り口から、何者かが関与していると推測されるの。あれは明らかに抵抗の跡。四人をさらった行為者が存在する。なら、動機があるはず」
なるほど、犯人は確実にいるはずだ。
会長のこの論理的な思考には舌を巻くしかない。
「動機というのは、事象により得られる直接的な結果そのもの、もしくはそれによる間接的な利益を望むもの。今回起きている事象は、キョウケン女子四名の行方不明。それによる利益は……考えたくは無いけれど、私も女だから、ね」
意味ありげな目をしてこちらを睨みつける会長。
責められている?
どういうことなのだろう。
「本当に鈍感ね。つまり、『秋山君』としか思えないのよ」
「お、俺?」
「そう、犯人が邪魔者を排除していると考えると全ては通るわ」
「……」
乾がやれやれと深いため息をついている。
その横では、蒲生が難しそうな顔。
「だから、条件は『秋山君と二人きりになること』」
「で、でもそれなら、キョウケン女子でも一緒じゃないんですか?」
最後の抵抗を試みた。
「もしそうであれば、一網打尽にすれば良い話でしょ。竹刀をあの状態にできる者が、わざわざ一人一人相手にするとは思えないもの。それにタイミング的に考えても、全員二人きりになった直後の行方不明だから関連性を疑わざるを得ない。まだ何か質問があるなら受けるけれど、いかがかしら?」
ぐうの音も出ない。
「納得したようね。では、話が早いわ。あなたには囮になってもらう」
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