第101話 お嬢様の真実9 風紀委員
『たまには、屋上でお弁当を食べてみるのもいいものですね』
『そうだね、いっちゃん。こうして、レジャーシート広げてみるとピクニック気分になれるし』
『直ちゃん、ナイスあいであ!』
仲良く三人屋上でご飯。
おっとアタシもいるから四人だった。
友達という言葉を出したら、さおりんのお母さんは大喜びだったそうで、本当に四人分はあるんじゃないかという分量がそこにあった。
ニコニコしてるけど、持ってくるの大変だったろう、さおりん。根性あるな。
『こんなにあるから、透明人間さんだけじゃなくて、二人もめしあがれ~』
『いいのかな? あ、ありがと』
そうだった、とスケッチブックに、書く。
あ り が と う
お い し そ う
本当に美味しい。
ウィンナーも美味しかったけど、それ以上だ。
でも、これ……そうだな。
この三人とで食べるのが嬉しい。
うん、さおりんが二人と楽しそうにしてるのが嬉しいんだ。
『そういえば、昨日のノート、表紙にハルって書いてあったけど、あれ部活の先輩のだったんでしょ? 大丈夫だったの?』
アタシが勝手に書いてしまったあのノートは黒髪ロング先輩のものだったらしい。ハルっていう名前だったのか。
さおりんを救うためとはいえ、迂闊だった。
ごめんなさい、ハルっち先輩。
『あのページの前に、それらしい戦線布告な文章を書いておいたから多分問題ありませんよ』
『え? そんなことしたら先輩余計に怒るんじゃない?』
『あのノートは、元々そういう意図が込められていると思うので大丈夫でしょう。むしろ今日の部活で、いつもと逆に、私が目茶目茶にされそうで怖く思います』
『そ、そういうものなの? め、目茶目茶って、本当に大丈夫?』
ナオナオはきっと、目茶目茶の内容分かってない気がする。
どう、受け取ったら良いのか、その矛盾に悩んでる……。
『戦争に関わる内容ですので、直、穴山さん、あなたたちには詳細な説明はやめておきますが、歴史好き同士の阿吽の呼吸というものです。本当に大丈夫ですよ、私は先輩に愛されていますからね!』
『市花ちゃんて本当に凄いね。私全然わかんないや』
さおりんが尊敬の眼差しで、いっちーを見ている。
あれ、いつのまにか呼び方が……さおりんも打ち解けてきたってことかな。
よしよし、いいぞさおりん。
『でも、いっちゃんの字で大丈夫? 違う子が書いたって、わかっちゃわない?』
『筆跡はおそらく見破られると思いましたので、左手で書いたことにしました。とうめいさんの真似ができるようになるまで、骨がおれましたよ』
こ、この子はどれだけ恐ろしい能力持ちなんだ。
アタシは戦慄した。
『これで、安心だね。ポ……透明人間さん、良かった~』
そうなのだ。あの後、もう少しだけ問答は続いて、ヒミツは何だか悪いなって思ったアタシは、いっちーの以下の問いには正直に答えた。
お母さんのことを思うとこのままがいい……でもね。
とうめいになったのは最近ですか?
とうめいになったまま戻れないのですか?
……戻りたいですか?
結果として、いっちーとナオナオは、顔を見合わせて二人で同時に頷くと、協力を申し出てくれた。
姿の見えない、このアタシを信じて。
『いつまでも、その、キョウケンの部室にいられては困りますからね』
いっちーは無断でプライベートを見られたのだ。
普通なら友達でも絶交モノ。
でも、この一言で許してくれたんだ。
もちろん、こんな感じでアタシは約束させられた。
もう非常食の盗みはしないこと。
部活の時間は、部外者なので、申し訳ないけれど部室の外に出ていて欲しい。
あなたの分のお菓子や茶葉はわけておくので、自分の分を消費すること。足りなくなったら言うこと。
そして最後に、ナオナオとさおりんに向かって言ったんだ。
このことは、三人の中でだけのヒミツにしよう。
先輩に知られると、気にしてしまいそうなのでナイショにする。
実は結構ナイーブな方なので。
やっぱり、あのシーンは見られるとまずいんだな。
アタシはこの件に関し沈黙を守ることにした。
それからお昼は屋上で三人と一緒に食べることになった――
『穴山さん、さっきから、透明人間さんの前に何か言いかけてるけど、ポって何?』
ナオナオは意外にするどいんだなー。
『あのね、実はね……えっ!?』
ガチャリと音がした。
全員の視線がそこに集まる。
扉が開く。
ゆっくりと入ってきた。
誰も何も言えなかった。
そして彼女はそのまま歩み寄り、アタシ達の目の前で歩みを止める。
ちょっと明るめのブラウンの髪を三つ編みにして片側に降ろしている。リボンの色から、おそらく二年生の先輩。
優雅っていうのかな、綺麗な動き。
どことなく、お嬢様的な雰囲気があるっていうか。
育ちの良さってやつ? これ。
腕を組んでいる状態で、座っているアタシ達を見下ろしたまま、彼女はおもむろに口を開く。
『あなた達、屋上にいるのは校則違反だって、知ってるわよね?』
『……』
全員沈黙。
現行犯なのだ。
申し開きどころではない。
『ごめんなさい。驚かせてしまったみたいね。確かに校則違反は校則違反だけど、この場合は、あくまで生徒の安全を考えてのものだから。そこをわきまえてくれてれば、いいわ』
『『『!?』』』
彼女の口から出た意外に物わかりの良い発言に、全員驚いている。
しかし、その後続けられた言葉はもっと驚くべきものだったんだ。
『ええ、穴山佐保理さん、あなたには必要な場所だというのは、わかっているから。この場所を奪ったりはしないわ』
『えっ!? ど、どうして私の名前? っていうか私の考えてることわかるの?』
『こらこら、別にあなたのストーカーとかではないのよ。私は、この学校の生徒のこと、全員知ってるだけだから、変な想像しないで! そ、そこに一緒にいるのは、一年B組のクラス委員長の遠山直さんと、同じクラスで郷土史研究会の浅井市花さんでしょ』
なぜか必死に弁明している。
学校の生徒のことを全員知っているって!?
よく分からないが、二人とも、もう頷くしかない。
『ああ、そうね。私の名前は、
風紀委員。
だから、屋上のこと、注意しにきたのかな?
でも、特に先生にいいつけるという風でもないし、何が目的でここに来たんだろう? 普通は先生連れてくるよね?
『ここに来たのは他でもないわ。あなた達、行方不明の子のこと、知ってるんでしょ』
『し、知りません!』
『そ、そうですよ、先輩、どうしてそんなこと言うんですか!?』
完全に挙動不審の塊な、さおりんとナオナオ。
まあ……バレバレだもんね。
アタシと接するときに、何となく気に掛けてくれてるの、わかってる。
『二人とも、どうやら誤魔化しが効く相手ではなさそうですよ、この方は』
『『えっ?』』
一人冷静ないっちーが何かを悟ったように二人を制した。
『浅井さん、あなたは賢いのね……私を信じてくれてありがとう』
『ここまで把握されている方ですので、今単身で来られているところを見ると、先輩の行動原理は悪意なのではないと、そう思えたのです』
この二人の間では何かが通じ合っているらしい。
『大きな騒ぎになろうとしているの。このままでは私の力でも穏便には収められないかもしれない』
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