第94話 お嬢様の真実2 女子の部屋?

「ここだ、ここ」


「ここって……どういうことだ?」


 表札には『生駒いこま』と書いてある。

 何度見ても変わらないものは変わらない。

 虎は戸惑う。


「どういうことだ、って、どういうことだ?」


「質問に質問で返すのな、いぬい……つまり、何で会長の家に来たのかってこと。お前の家に連れてくって、そういう話だと思ってたんだけど、俺」


「あー、とらきち。そーゆーことか。アタシは会長と一緒に住んでるんだよ。だからここはアタシの家で間違いない!」


「な、何だって~」




 今日の会議は、結局、七不思議の解明としては何の進展もなかった。


 新たにわかったこととしては、『クラスの人数があわない』という最後に残された七不思議は、目下生徒会が調査中であるということ。


 事態を慎重に運びたい、だから、キョウケンは動かないでほしい。

 生駒からそう釘を刺された。


 意外なことに、波瑠先輩は生駒のその言葉に、大人しく頷いていた。

 ただしと呼ばれた生徒会副会長の件といい、二人のやりとりには、彼女達にしかわからない符丁があったように思える。

 最初はどうなることかと思っていたから、この関係の変化は喜ばしい。喜ばしいのだが、やはり波瑠の変化が不思議に思えてならない。


 だが、波瑠先輩の思いに口出しするのも野暮というものだ。

 キョウケン部員は全員ここは一致している。

 少なくとも、市花、直、佐保理の様子を窺ってみたが、不満そうにしているものはいなかった。


 というわけで、することがそれ以上無くなり、そのままお開きとなった。


 波瑠先輩は、折角だから徳子と話すと言って生徒会室に残った。

 二人で積もる話があるのだろう。


 他の面子は外に出るしかない。



 市花は、手を振ると、菊理と一緒に仲良く去って行った。

 まったく似合いの二人である。これからデートだと言われても違和感がない。

 図書館で隣に座ってページをめくる姿が容易に想像できる。



 蒲生は、意外にも直を誘っていた。

 いったい何の話なのだろう。

 ひそひそ声で良く聞こえない。

 「長くなりそうだから先に帰って」と一言こちらに断ると、直はそのまま彼女についていった。

 不思議な二人だ。



 さて、生徒会室の扉の前に、残ったのは虎と佐保理、そして、乾。


「とらきち、よかったらウチに来るか?」


 突然のお誘いに驚く。


「え、ちょっと待て、こ、心の準備が……」


「あー、何か勘違いしてるなー。折角だから昨日録画した『デスティニー・ドリーミー・ナイト』を一緒に見るのはどうかなーと思ったんだよ」


「……だろうと思ったよ」


 ちょっと何だか悔しいのはなぜだろうか?


いぬちゃん、私も行って良い? そのアニメ気になるんだ」


「布教もファンの務めってやつだな。もちろん歓迎するよ、さおりん。どうせなら、最初からマラソンしようか」


「さ、さおりん……」


 急にアダ名で呼ばれて、照れたのだろう、佐保理の顔は赤い。

 もじもじしながらの「ど、どうしよう『ポチ』って呼んだら怒られるかなあ?」という独り言は、いかにも彼女といったところか。


 それを知ってか知らずか、乾は、「じゃあ、ついてきて」というと先に立って歩き出した。


 そして、生駒邸に辿り着いたというわけだ。

 


「聞いてもいいのかわからないから、嫌だったら答えなくてもいいけどさ……」


「じゃあ答えない」


「即答するな!」


「とらきち、からかうと面白いからな。で、何?」


「どうして、生駒会長の家に住んでるんだ?」


「それはな……そうだ、あまり表で騒ぐと会長に怒られるから、とりあえず入ろっか」


 ハッと気付いた表情をして彼女はそれだけ言うと、扉の中にすっと消えた。


 後に残される二人。


「……」


「……」


「ちょっとまてーい!」


「何だよーウルサいな、騒ぐとアタシがノリスケ……会長に怒られるだろ」


 またすっと目の前に現れた。


「お前は十種で体を透過できてそうだけどな、俺らはそうはいかないんだよ」


「あーそういえばそうだった。むーどうするかなー、この力があるから鍵持たされてないんだよね……そっか」


 ピンポーンとチャイムを鳴らす乾。

 そして、インターホンに向かって叫ぶ。


「タケル~いるんでしょ。扉あけて」


 しばらくたつと、中からドタドタ音がして、カチッと音がすると扉が開かれた。


 首を出したのは小学校高学年くらいの男の子。

 この子は、乾か、生駒会長の弟……なのだろうか?


「よしよし、よくできたぞーえらいえらい」


 乾は彼の頭を撫でている。

 ふと別の疑問がわく。


「なあ、別にお前が中入ってあけてもよかったんじゃないのか?」


「!」


 この反応、気付いていなかったらしい。

 考えるだけ無駄だったようだ。

 彼女は、蒲生とはまた別の意味で天然なのだろう。



 ともかく、中に入るように促されて、虎と佐保理は会長宅へ足を踏み入れた。


 外から見ても、虎の家よりも倍くらいの広さがありそうだが、中もそのままだった。

 一見してわかる。

 廊下が長い。


 しかし、人気ひとけが全くない。

 広い家なだけに少々不気味だった。


 こっちだ、と案内されて二階にあがる。

 そのまま廊下を進んで一番奥にその部屋はあった。


 一足踏み入れると、天井と壁を埋め尽くすアニメのポスター。

 足下には複数のゲーム機。

 山積みのゲームソフトの箱、そしてブルーレイにDVD……。


 左側には、漫画がこれでもかというほどにつっこまれた本棚。

 奥には、大きな液晶ディスプレイにパソコンやゲーム機のコードがたくさん繋がっている。


 右方向には、鍵盤の多い電子キーボードが置かれたデスク。

 その隣に縦に複数積まれた銀色の機器の両脇に大きなスピーカー。

 周りのCD、レコードの山を見るに、これは、オーディオ機器なのだろうか?

 その脇に申し訳程度ではあるが、衣装棚と一体化したハンガーラックがあるのが安らぎに思える。



 とにかく、まさに、カオス!



 申し訳程度に、ひとりぶんのスペースが真ん中にあったが、さすがにそれでは三人は無理なので、虎と佐保理とで床に置かれたものを片付ける。片付けるといっても、何しろ空いた場所がないので、整理して再配置が限界だったが。


 どうしても思い浮かぶのは、あの、八重の部屋だった。

 ぬいぐるみの山に、整理された本棚。

 比べてはいけないのだろうが、全てが違いすぎる!


 ともかく三人分の足場を確保することには成功した。

 佐保理は疲れてしまったのか、ややぐったりしている。

 借りたクッションに突っ伏したままさっきから動かないから、もしかしたら寝てしまっているかもしれない。



「何だか自分の部屋じゃないみたいだ。とらきちと、さおりんが帰ったら絶対もどそう……」


「こらこら、俺と佐保理の努力を無にするのかお前は! 佐保理とかもうこれだけで魂が抜けそうな程疲れてるんだぞ」


 傍らに倒れている佐保理を指さす。

 動かない、反応がない。

 やはり、疲れのあまりに寝てしまったのか。


「一応全部置き場所は決まってるんだ。ノリス……会長も何がどこにあるのかわからないって言うけど、アタシにはわかるんだよ!」


「それ、片付けができないやつが絶対言う台詞だぞ……しかし……聞いて良いのかわからないけどさ……」


「じゃあ答えない」


「お前どこでねてるんだ?」

 

「とらきち、ごういんになったな」


「気になるんだよ!」


「断言しよう、アタシはどこでも、どんな体勢でも眠れる! ちなみに目を開けた状態だっていけるんだぞ」


「聞いた俺が馬鹿だったよ……」


 もしかしたら乾は、今日の会議も途中動いて無かった間はぐっすりだったのだろうか……恐ろしい。


「ふっふっふ、勝利!」


「いや、もう負けでいいけどな……そうだ、ついでに表で聞けなかったこと、今教えて貰えるか?」


「……アタシがどうして会長の家にいるか、ってこと?」


 頷くと、少し考え込んだ後、彼女はこう言った。



「まあ、とらきちにならいいか……デスティニー・ドリーミー・ナイト好きに悪い奴はいないもんな。いろいろありすぎたから、何から話したらいいかわからないんだけど、アタシは会長に救われて、ここにいる」

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