第24話 英雄達の会議
「というわけなのよー。もー、晴明のやつ、何が『何人も異変に気づかぬ』なの。私が異変ありまくりよ!」
佐保理が晴明の非道を訴えると、ソウジと武蔵はそろって苦笑いしている。
今は、学校の帰り道。
昼休みは、一緒に弁当を食べようと押し寄せるクラスメートには逆らえず、屋上には、おそらくその存在を知って以来、初めて行けなかった。
授業終了後は、昨日の話を聞いていると掃除を手伝わないわけにはいかない気持ちになってしまい、全力で手伝った。
確かに気持ちいい。周りの視線や言葉だけでなく、自分で磨いた床の輝きがあれほどまでに美しいというのは大発見だった。
しかし、その代償として、全身はクタクタ、昨日の自分に文句のひとつも言いたくなるというものだ。
掃除を終えた後、放課後一緒に遊ばないかと誘われはしたが、「ごめん、どうしてもやらなければならないことがあるの」と強い意志を込めた目で言ってみたら、何故か「ヒーローは大変なのね、早く行ってあげて」と納得された。
虚勢を張るのだけは慣れてきたようだ。
そんなこんなで、ようやく学校から解放されて、校門で二人と朝以来の再開を果たしたのだった。
「
「それは、おつとめご苦労様だな」
ソウジの和やかな顔に、佐保理はとても癒やされた。
ちょっと変な例えだけど、大変な仕事をこなして帰宅した時に、奥さんに『おかえり、丁度ご飯できてるわよ』と暖かいお出迎えされたときの、サラリーマン旦那様って、こんな気分かもしれない。
「ありがと、ソウジ」
「しかし、おぬしが気がついた時に横にいた女子生徒は気になるのう」
武蔵が唸りながら言っているのは、あの保健室の女の子のことだ。
彼女は全てを知っているようだった。
『戻す』ことができるというのは、彼女も何か特殊能力の持ち主なのだろうか。
戻してもらえるものなら、戻してもらいたい気もするのではあるが。
「七人目の可能性も無くはないが、それだけの情報では何とも判断しかねるな」
「晴明に、為朝に、謎の女の子か。でも私的には明日の数学の授業の方が強敵だわ」
今日は幸運なことに、例のやりこめた数学教師の授業は無かったが、明日はあるのだ。
正直、数字と記号は大の苦手であるし、ハッタリで対応できるレベルを超えている。
佐保理としては頭が痛い。
と、そのとき思いがけない方向からそれにツッコミが入った。
「数学ごときに我が敗北させられるとは、不本意なのだがな。貴様もそう思わぬか、晴明よ」
「
目の前にいたのは、背の高い、スラリとした髪の長い男子生徒と、小柄で短髪で丸顔な、どことなく可愛いタイプの男子生徒。
そう、いずれもウチの学生服を着ている。
「そっちは、為朝よね。もうひとりは……えええええ、もしかして、もしかしなくても、晴明?」
彼らの台詞から、記憶を元に、確かめつつも彼女は驚きを隠すことができなかった。
一瞬中学生か? と見まごうほどに、そして思わず撫でたくなってしまうレベルで、可愛いかったのだ、晴明が。
「この体ではお初にお目にかかるのでしたね。お見知りおきを、特異点」
そう言ってぺこり頭を下げる、本当に晴明らしい。
「な、なぜに、撫でるのです」
「だって可愛いから……」
佐保理は我慢できなかった。
気がついたら、彼をよしよししていた。
女性にこうされるのは、慣れていないらしく、赤くなる陰陽師。
冷静に考えると、学校のことは全部晴明のせいだ。
でも、この外見を見てしまってはもう訴える気も失せる。
もう許すから、その分賞味させてもらおう。
佐保理の手に一段と力が入る。
丁度その時、
「お前達、何が目的だ」
「学生服を着ていることから、拙者達と事を構えようとしているのではなさそうではあるがな、その真意を問いたい」
すっかり忘れていた。
ソウジ、それに武蔵の二人にとっては、いずれも命のやりとりをしている相手なのだった。
「知れた事よ、特異点を説得に来たのだ」
「へっ?」
――――――――
「ふむ、このクリームソーダという飲み物は、誠に不思議な甘露よな」
為朝が関心したように、緑色の液体に満たされたグラスを電灯の光にかざしながら白いアイスを揺らしている。
異様な光景だった。
英雄四名で同じテーブルを囲んでいる。
片側には、ソウジと武蔵、もう一方には為朝と晴明。
佐保理は、彼らを左右に見渡せる端の席、いわゆるお誕生日席に座り、その様子を眺めている。
いや、眺めているという言い方は不適切かもしれない。
彼らの目的は、どうやら、彼女の説得のようであったから。
彼女も当事者である。
ここは、マウンテンバーガー。
学校に最も近いハンバーガー屋。
そのため生徒の利用もそれなりにあるが、今日は中途半端な時間であることもあり、他の生徒はいないようだ。
往来で、話していたら、周りの視線が気になったので、彼女が発案し、ここに彼らを連れてきたのだった。
「しかし、大丈夫なのか、佐保理。俺たちは無一文なんだが」
ソウジがお金の心配をしてくれている。
普通の男性だったら、細かいことを気にしないで、と思ってしまうところではあるが、彼の場合には本気で心配してくれているのがわかるので、悪い気がしない。
「最近お母さんが、デート費用だってお小遣い奮発してくれているから大丈夫!」
意味ありげにウインクしてみせる。
ちょっと強引だったろうか。「そ、そうか」とソウジにしては珍しく赤くなっているから、成功と考えたいが。
「こ、コーヒーの苦さも慣れるとこれはこれで美味しいもんだな」
誤魔化そうとしているのか、ソウジはあきらかに無理をしてブラックなまま、かけ込んでいる。
「このコーラという飲み物は刺激があるのう。拙者は負けん、負けんぞ!」
剣豪は、やっぱり戦うのが好きなのだ。
コーラの泡が相手でも変わらない。
ふと、その斜め向かいに目をやると、晴明がミルクを美味しそうに飲んでいる。
「この時代のせいそもなかなかですな」
「せいそ?」
「このミルクというものの、私の時代の名前です。滋養強壮剤だったのですよ。贅沢品で世間には出回っておりませんでしたが、宮廷ではいただけましたので」
「なるほどー、勉強になります」
「ところで、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか、特異点」
コップをテーブルにおくと、彼が告げた。
「そうだったわね」
晴明の言葉に、全員がここに来た目的を思い出したようだった。
口火を切ったのは、やはり為朝。
「端的に言おう。我は明日、この四人での決闘を提案する。特異点はそれを邪魔しないでもらいたい」
「何!?」
「拙者としては願ってもない。しかし、おぬしの攻撃であまり派手にやると、この地に住む者に多大な犠牲が出るのではないか?」
驚くソウジに対し、武蔵の方は冷静だった。
確認するように言葉を選んでいる。
おそらく、見切りで既に為朝の意図を知っていたのだろう。
「私の結界内で行えば問題ありません。結界の中であれば、どのような破壊が行われようと、外の世界に影響を与えることはありませんので。もちろん、私が途中で倒れたとても、勝者が出るまでは開くことはないようにしますので、ご安心ください」
「しかし、おぬしの結界ということはおぬしに取って有利なのではないのか」
「それも問題無い、我が貴様達全員を倒すゆえな。全員で掛かってきて構わぬぞ。それくらいの有利はくれてやる」
この大英雄の一言が、全員を黙らせた。
既に彼は三人分の力。
元々破格の力であることを考えると、三人がかりでも余裕があるのではと思われる。
「ま、まだ一人残ってるんじゃないの? 決闘には早くない?」
この雰囲気に抵抗する。
自分としては戦ってほしくないのだ。
「六人分の力を得れば、もう残りの一人は問題にならぬ。それでは我らを止める理由にはならぬぞ、特異点」
「私たちに、どうか戦わせてもらえないでしょうか」
為朝の発言はもっともであり、何も反論できない。
晴明には、あの済んだ目で懇願されてしまった。
これに不躾にノーということもできない。
武蔵は無言なまま腕を組んでいる。
先の二人と同意見なのだろう。
そして、考え込んでいた風のソウジも、この時口を開いた。
「佐保理、俺たちに戦うことを許して欲しい」
もう、明日の結界内での戦いを認めるしかなかった。
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