(4)夕焼け空の下で
しばらくして、ウサギを飼い始めた秀は、家の中だけで飼っている壮と違い、ウサギにリードを付けて小型犬のように散歩に連れ出し、河川敷を歩いていた。
そこで、ウサギ好きな女子高生と出会い、付き合うようになったのだった。
「だから、当分、シュウは遊びに来ないんだよ」
アパートで、壮はブラッシングをしながらウサギに語りかけると、大きくため息をついた。
それが終わると、ウサギは、さびしそうにボケッとテレビを眺めている壮のシャツの袖をくわえて、引っ張った。
遊んでやる気分になれなかった壮が、テレビから目を離さないでいると、ウサギはますますムキになったように引っ張り続ける。
小さい身体を目一杯使って引っ張る姿に思わず壮の目が緩むが、知らん顔を続けていると、痺れを切らしたのかウサギは後ろ足をダン! と踏みならした。
「わかった、わかった! 一緒に遊ぼうな!」
可笑しそうに壮が笑いながら、買ったばかりの布のサッカーボールを転がすと、ウサギもぴょんぴょん跳ねながら、頭でボールを転がした。
そんなウサギを見つめて、壮は自然と話しかけていた。
「お前がいてくれて良かったよ」
スーパーで急きょ仕事が入った壮が、帰り道、トボトボと河川敷を歩き、自宅に向かっていた。
夕焼け雲の浮かぶ空を見上げる。
その時だった。
正面に歩いてきた女子が足を止め、思わず、壮も立ち止まる。
栗色のサラサラした肩につくくらいの髪に、両耳のあたりにピンクの楕円形のピンを留め、ブルーグレーの瞳、明るいベージュ色のファー付きカーディガンを着ている。
俺と同じくらいの年の子か?
激カワ!
心臓はドキドキと高鳴り、壮の頬に赤みが差していく。
目の前の女子の頬も染まり、はにかんでうつむいた。
ぽこーん
一瞬何の音かわからなかったが、すぐに思い出した。
あのアプリの通知音だ!
突然消えたはずが、ブーブーとバイブの振動が止まらない。
「す、すみません、ちょっと待って……」
そう言うのもおかしいとは思ったが、壮は慌ててスマートフォンをポケットから出した。
『おめでとうございます! ゲームクリアしました!』
勝手に開いたアプリの画面には、そう書かれていた。
『もふもふちゃんは、理想の姿となって、あなたの前に現れました! これで、ゲームはコンプリートです!』
「……え?」
画面と目の前の女子を交互に見る。
見れば見るほど、その女子は、飼っているウサギに思えてきた!
「……ウサギ……なのか?」
うつむいた彼女は、口を開いた。
「はい」
確かに、見た目や仕草はすっごく好みだが、なんだか思ったよりも声が低い。
「ボクです。ウサギです」
「は!? ちょっと待て、まさか、……オスだったの?」
目を見開いていく壮を上目遣いで見ると、女子は頷いた。
「はい」
「えええええ!」
壮はガクッと地面に手をついた。
「頼むから、元のウサギの姿に戻って! もふもふのままで!」
どんなに可愛くてもダメなんだ!
もふもふの方で、いて欲しい!
壮の切なる願いだった。
DDもふもふライフ! かがみ透 @kagami-toru
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