片思い

 家族で買い物にきていて、私は離れたところで中古のゲームを物色している。両親はどこかにいると思う。妹のアンナは今日はだれかと遊びに出かけているのでこの買い物には来ていない。

 すると母が人を四角くデフォルメしたようなカードを沢山抱えてこっちにやってきた。

「今日アンちゃんは処女喪失なのよ」

「どゆこと?」

「今日彼氏の所に泊まるっていってたでしょ」

「たしかにそんなことを言っていた気もする」

「だからこれはお祝いなの。あなたこれ買っといて。母さんもう行くから」


 差し出されたカードを受け取ると、さっきまでデパート的な室内だった店は、公園の一角の大きなで店のようになっている。でも並んでいるものはそのままなので引き続きゲームを探す。


 目に留まったのは3DSのソフト箱なし、説明書なしのカセット二本セット。片方は気まぐれ写真館というソフトで、もう片方はゲームボーイコレクションというソフト。二本セットで3980円。


「高いな」


 ゲームを買うのは諦めよう。隣はCDショップになっているため、そちらを物色しつつ公園の端にある低い丘の上に設置されたレジに向かう。

 

 レジの横には小汚い公衆トイレがある。できれば使いたくないなと思った。


 レジに母親から受け取ったカードの束とジェンガを渡すと、遠くから装甲車に乗った若い女がメガホンで屋根から顔を出して喚いている。


「ナツコ~! 出て来い! いい加減にしろ!」


 そう言えば前もこの公園に来た時あんな風に喚いていた連中がいたことを思い出した。


 ナツコは今なにをしているのだろうな。


 あいつのことを片思いしていた時期のことを思い出して、少し恥ずかしくなりながら家路についた。


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自動書記的散文、あるいは記憶の無意識的整理現象 浅川多分 @aka0629

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