記憶の瓶詰

雅 清(Meme11masa)

男は自分の記憶を瓶に入れた

 私はとある店に来た。中はそれほど広くなく棚には沢山の瓶が並んでいる。この店は人の記憶を瓶に詰めてくれるという。蓋を開け香りを嗅げば誰でもその記憶を体験出来るというものだ。そうどんな記憶だって体験できる。

ただし注意点が一つだけ、瓶詰にした記憶は元には戻せない。元の持ち主はその香りを嗅いでも何も起きない、どんなに強烈であっても鮮明であってもぽっかりと穴が開くように記憶が抜けてしまうという事だ。しかしそんな事は構わない、私は契約書に迷わずサインした。

 夢見た未来は少し違っていた。何もかもが発展しすぎて誰もかれもが冒険を忘れてしまった。私は思い出して欲しいのだ。宇宙で感じた無限にも思える孤独、寒さと恐怖に震えたあの白い雪山、未知への探求心と好奇心、そして希望と挑戦。あの興奮と驚きと喜びを皆に体験して欲しいのだ。人類にまた冒険を思い出して欲しいのだ。

 瓶詰作りは驚くほど簡単で椅子に座っている間に出来てしまった。もう少しもったいぶっても良いものだ。少しも思い出せないのは寂しいが私の心はいつになく燃え上がっている。そうあの太陽のように燃えているのだ。

この夢の瓶詰を出来るだけ沢山の人に見せよう、私の記憶に開いた穴は今や未知の領域。私の新しい冒険が始まったのだ!

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記憶の瓶詰 雅 清(Meme11masa) @Meme11

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