第64話 生徒会活動・再開

 ゴールデンウィークの色々とを終えて再びアトラス学院での日常へと戻っていたアクア達。そんな彼女らは再び学業に精を出す日々を行っていたわけであるが、それも夕方まで。夕方からは基本的には生徒会活動に精を出す事になっていた。


「ああ。それで今年のカミーユを除く一年生には今回の生徒会新聞に関する活動を頼みたい」

「新聞ですか?」

「ああ。ゴールデンウィーク前に言っていたが、元々生徒会では会報を出す事にしている。当然だが、生徒会活動については周知しておかねば何をしているか、と理解がされなくなってしまうからな。無論、読む読まないは各自の自由だが」


 アクアの問いかけに、クラリスは一つ笑った。とはいえ、アクアが首を傾げた理由は別にあった。


「いえ、それはわかりますが。確か会報を出すのは偶数月では?」

「ああ、そっちか。言ってなかったか? 今回はここしばらく出せていなかったので、臨時で会報を出す、と。何より、表彰式もあった。これで会報を出さねば何時出すんだ、という所だろう」

「ああ、そういえば……」


 クラリスの返答に、アクアもそう言えば言われていたな、と思い出す。やはりここらはゴールデンウィーク前に言われていた事だからだろう。彼女も失念してしまっていた様子だった。というわけで、そんなクラリスの指示を受けていざ会報作りに取り掛かるか、という所でクラリスが待ったを掛けた。


「あっと……そうだ。少し待ってくれ。カミーユも一度手を止めてくれ」

「「「?」」」


 クラリスの言葉に、アクアらは作業に取り掛かるべく動かし始めた手を止めて彼女の方を見る。それを受けて、改めて彼女が口を開いた。


「こちらもゴールデンウィーク前に言っていた事だが、ゴールデンウィーク前に出していた生徒会の増員。覚えているか?」

「? 増員……ああ、そういえば」


 クラリスの視線を受け、アクアが一度記憶を手繰って一つ頷いた。そもそもリアーナもカミーユもどちらも先行して受諾の意志を示しただけだ。

 まだ数人声を掛けていて、その者たちについては加入を承諾すればゴールデンウィーク明けの加入になる、との事だった。そしてそれを以って、今期の生徒会については完成となるのであった。


「そちらについても明日の昼に締め切りになっていてな。すでに一人は先程返事が来ていて、承諾の旨が記されていた。後二人だが、それも明日には返事が来る。来なければヴァレリーが行ってもらうが……そこまでズボラな生徒ではないから、明日には……っと、今一通来たか」


 どうやら噂をすれば影が差す、という所だったのだろう。返事を記したらしいメールが来たらしい。これについてはひとまず待機にしておいて、クラリスは話を元に戻した。


「まぁ、言っている内に一人来たので後一人だが、そちらも返事が来たら明後日の朝一番の挨拶活動から参加になる。なので明日の放課後には一度こちらに顔見せに来てもらう事になる」

「では、その方もこちらに?」

「ああ。基本的にリアーナとカミーユは特別に先行して翌年以降の活動について行ってもらっているが……二人共、来年以降も参加の以降を示してくれているからな。基本的には、アクアと同じく総務で来年以降の専門的な業務の勉強をしてもらうのがアトラス学院生徒会の方針だ」


 アクアの問いかけにクラリスは一つ頷くと、改めて生徒会活動に関しての説明を行う。所属当時にも言われていたが、これについては代々の方針なのでこれからも変わらないのだろう。そしてある程度の下積みが必要だ、というのはアクアにも理解出来る話だ。なので異論は無く、この話はこれで終わりとなる事になった。


「では、悪かったな。仕事の手を止めてしまって」

「いえ……では、業務に取り掛かりますね」

「ああ、頼む。ああ、一応言わないでもわかるとは思うが、別に急がなくても良い。会報は来週の頭に発刊予定だ。一週間ある。急いで作って不出来な物が出来るより、金曜日ぐらいに出来上がって完璧な物を出せた方が良い」


 アクアの言葉に一つ頷いたクラリスであるが、笑いながら一応の助言を行っておく。この会報であるが、一応紙ベースでの印刷も行うが大半は学内のネットワークを通じて配信される形式だ。

 この時代、アトラス学院に限らず教育機関では初等部から基本的には一人に一つ学生活動用のアカウントが学校から割り振られ、そこに公的なメールなども届けられる。そこにこの会報も届けられる事になるのであった。と、そんな事を告げたクラリスであったが、そこで思い出したかの様に告げた。


「ああ、そうだ。うっかりしていた。アクア」

「はい?」

「一週間あるのは何もそれだけの為ではなくてな。この会報は一応、初等部の生徒にも配信される。そこを踏まえて、作る事になる」

「初等部にもですか?」

「正確には大学院までの学院全てに、だな」


 驚いた様子のアクアに対して、クラリスははっきりと明言する。これは途中からの入学でなければ全員が知っている事であったのだが、アクアは途中から入ってきた口だ。なので危うく彼女が知らない事を忘れて話を進めてしまう所だったのである。


「流石に中等部まで行けば、多少難しい言葉を使っても問題無い。高等部以降と同じ内容での配信になるのだが……初等部だけは流石にな。低学年の子達が読む事を考えれば、漢字や難しい言い回しはできん」

「ということは、二種類作れば?」

「そういうことだ。中等部になって難しい物が配信されているのを見た時、そこで大人になったのだと思ったものだよ」


 アクアの問いかけに頷いたクラリスは、少し懐かしげに目を細める。そういうわけなので、実際には一週間あると言ってもさほど余裕は無いらしかった。


「いや、それは良いな。そういうわけなので、一週間あっても時間は無い。そして三人だけで二種類作れ、となっても時間は足りない。会報を作るだけが仕事ではないからな……というわけで、新しく入ってくる戦力に期待、という所でもある」

「その方に初仕事がこれになることは?」

「もう伝達済みだし、彼の方もそれを読んで表彰式は見てくれていたそうだ」


 どうやら大凡は理解した上で入ってくれるらしい。アクアはそれを理解し、一つ頷いた。とはいえ、だから何が変わるか、と言われるとそうではない。なにせアクアも新入りは新入りだ。何をすれば良いか、なぞさっぱりである。というわけで、アクアはひとまずリアーナの指示に従う事にした。


「それで、まずは何をしますか?」

「そうですね……まずはどの記事を書くか、と決めるべきなんですが……今回ばかりはまずは何をするか、が決まっています」

「まずは表彰式と……なんですか?」

「ゴールデンウィークに行われた各部活動の新人戦。こちらの写真が報道部から提供されていますので、それが一つ。後は入学式も勿論ですね」

「そう思えば、意外とありましたね……」


 何も無いかと思ったアクアであったが、言われてみれば意外と広報として報道する事が色々と――と言っても新人戦は知らなかったが――あるものだ、と思った様だ。僅かに驚いた様に目を見開いていた。


「はい。まずはそれにどれぐらいのスペースを割り振るかを決めて、それから写真を、という所ですね」

「どれをどこに……メインは何にしましょう」

「メインは多分、入学式と表彰式の二つにした方が良いんじゃないかしら。どちらも学院にとって大きな出来事だったし……」


 アクアの提示に対して、アリシアが一つ提案する。それに、リアーナは少しだけ考えた。


「そう……ですね。確かにどちらもメインを張る事の出来る話題ではありますが……」


 どうなのだろうか。確かにどちらも大きな話題と言える。が、二つの話題にするとどちらも目立たなくなってしまう可能性があった。


「……そうですね。表彰式メインで良いでしょう。各学、入学式は4月の時点でメインになっているでしょうから……」

「でも4月に無い分、しても良いんじゃないかしら」

「それは確かにそうですが、一応体裁としては臨時発行としているので、敢えてそちらをメインにする意味はさほど無いかと」


 アリシアの反論に対して、リアーナは自身の考えを述べる。そうして数度の議論の後、結局はリアーナの意見が通る事になる。


「……そうね。それだと、確かに……」


 結局としてどちらもメインにしてしまうと、視線が分散してしまい、どちらも記憶に残らなくなってしまう、というリアーナの指摘にアリシアも納得出来たらしい。


「はい。それに加え表彰式だと映像が映えますから、メインに置くには丁度よいかと」

「なるほど……映像の映えも考えた方が良いのね」

「はい」


 アリシアの理解に、リアーナがはっきりと頷いた。やはりここらは報道関係者の娘という所なのだろう。映像の見栄えなどを考えている様子で、それを踏まえて意見を述べている様子だった。

 というわけで、ひとまずメインとなる記事を考えたわけであるが、その後は実際にどういう割り振りで記事を書くのか、というおおまかなスペースを考える事になった。


「ふむ……メインとなる記事は三つ。一番大きな物は右上に大きく配置して、というのが古来からの基本ですね」

「右上……そういえばカインの読む新聞も右上に新聞の名前があり、その横に一番大きな記事がありましたっけ」

「そうですね。詳しくは知りませんが……古来よりそうなっていたかと」


 ふと思い出したらしいアクアの問いかけに対して、カインが一つ頷いた。何度か言われているが、カインは古くからの紙媒体の新聞を読んでいる。

 なので必然としてアクアの目にも入っており、そこから彼女も記事の配置については知る所になったようだ。とはいえ、電子媒体になればこそ、という事もあった。というわけで、リアーナが問い掛ける。


「確かカインさんのは紙媒体……でしたよね?」

「はい」

「でしたら、紙媒体とは違って電子媒体では画像を拡大したり出来ますから、そこまで大きさには拘らなくて良い事は良いですね。勿論、基本的に最初は全体で把握しますから、大きい方が目を引く事は目を引く事になります。ですので先のお話になるわけですね」

「なるほど……」


 やはり一言で会報を作る、と言っても色々とあるのだな。アクアはリアーナの言葉を聞きながら、そう思う。


「となると、表彰式の記事は全体の三分の一ほど……の方が良いでしょうか」

「いえ、もう少し大きめで……このぐらいでも良いでしょう。他の記事は文章量も少なめだったり、文章だけで終わらせる所もありますから」

「となると、入学式はこれぐらい……」

「そうですね、これは……」

「じゃあ、これは文章だけで……」


 三人の少女らは、相談しながらどの記事をどの位置の配置し、どういう風にするのか、と話し合う。そうして、この日は一日場所を決めてどういう風に記事を書いていくのか、を決めるだけで終わる事になるのだった。

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