第8話 魔界の王子、9番目


…リエルが神気結界を穿とうとした、その直前。

その向こうから、低い地響きと、次いで何かが崩れる音と―――肌で感じられる程の魔力の波動が、彼らを襲った。

「…宙矢…っ!!」

恐ろしい予感に血の気がひく。

守護が無理やり融かされていくのが分かる。

脳裏には、考え得る限り最悪の事態…!

目の前の結界は、魔力に耐えきれずとうとう崩れる。ただの神気に還り、魔力に塗り潰されていく。

たまらず天使は駆け出した。

彼の育て子の無事を、切に願いながら。

「…なんだ、この桁違いの魔力は!?……いやいい、まずは姉上だ!」

遅れずにガルディも続く。

しかし、そのときにはもう、何もかもが終わっていたのだ。




っつぅ…」

目を覚ます。

最初に見えたのは、赤い空。ほんのり朱に染まった優しい光が、今は随分眩しく見える。

ちょっと変わった鳥の声、仄かな潮の香り。良かった、外に出られたんだ。

「…そうだ、シルヴィアは!?」

事の次第を思い出して、俺は慌てて起き上がる。

果たしてシルヴィアは、すぐ隣にいた。

気を失っているようだ。でも、怪我はどこにもしていないように見えた。すう、と穏やかな寝息が聞こえる。

「良かった…」

とりあえずシルヴィアの無事を確認して、俺はほっとして、周りを見渡して――

「…ええ?」

とんでもないことに気づいた。

周りに何もない………俺とシルヴィアの周辺十メートルくらいの全てが、吹きとばされたように何もなくなっていた。

崩れてきた岩は遠くに飛ばされていて、それどころか木々まで、幹から上がふっ飛ばされている。

あの洞窟は、いや洞窟だったものは、途中から切断されたようになっていて、もう崖にしか見えなかった。

「何があったんだ…」

いや、何がも何も、この位置関係からして、

「爆心地は俺とシルヴィア…?」

(…そういえば、気を失う寸前に、何か――)

思い当たって、額の角に触れる。

「…痛った!?」

ひりひりと、角の生え際が痛んだ。……何だこれ、火傷…か?

(あのとき、不思議な声が聞こえた気がするんだけど…)

と、そこで。

視界の隅に、見覚えのある姿が映った。

「あっ…!」

俺は立ち上がって追いかける。

茂みの中、今確かに俺たちの方を見ていた彼女は、

「メル!待てって!」

そう叫ぶと、素直な彼女は反射的に動きを止める。

「…そ、宙矢…」

怒られた子どもみたいに、視線をさ迷わせながら、彼女は振り向く。

間違いなくメルだった。くるくるの金髪に、白いワンピース。首に提げた透明な玉。

「メル、崩落に巻き込まれなかったか?」

そう訊くと、メルの挙動は一層不審になった。

「だ、大丈夫、だが………その、私は、宙矢に…」

「…メル?どうしたんだ?」

「…ご、」

顔を上げたメルの金色の瞳には、涙がたまっていた。

「ごめんなさい、宙矢…っ」

「………え?」

そう言うとメルは体を翻して、森の中に走っていってしまった。

何で謝られているのか、全く分からない俺を残して。

「あっ、ちょっと待って…」

そう言ったものの、既にメルの姿はどこにも見えない。…かすかに、羽音が聞こえた気がしたけど、空は木々の枝で覆われて良く見えなかった。




こんな経緯いきさつで、俺のソルデッド家訪問はかなりの大事おおごとになってしまった。

メルを見失ってシルヴィアの元に戻るとすぐに、ガルディさんとリエルが必死の形相で駆け込んで来た。

リエルの慌てっぷりは相当で、会うやいなや

「宙矢、怪我はない!?本当に大丈夫っ!?」

と訊かれた。

ちょっと火傷をしたくらいだよ、と答えると、今度はリエルは大袈裟に青ざめて、痛くないかと訊いてきた。…ちなみに額の火傷は、後でシルヴィアの水魔法で冷やしてもらった。

シルヴィアもすぐに目を覚ました。

無事だったようで、彼女も彼女でガルディさんにしつこく心配されていた。

「姉上ぇ!ご無事ですか、何ともありませんか!?」

とこんな調子だ。

この二人を一緒にしておくと、心配性がどんどん加速していくらしい……ちょっとめんどくさい二人だ。

その後、爆発(?)現場の後始末はソルデッド家の使用人さんたちに任せ、俺たちは本館の方へ移動した。

汚れまくっていたので俺はシャワーを借りて、着替えも借りて、そして今、客間で紅茶を出してもらっている。…ここまでお世話になっていいのだろうか?

「なあに、遠慮する必要はないぞ宙矢。弟を家に招いて可愛がる……私の小さな夢だった。今日宙矢を連れて来たのは、それを叶えたかっただけなんだ」

…大変なことになってしまったけどね、とシルヴィアは自嘲気味に呟く。

結局、あの噴水事件の犯人は分からず仕舞いだった。ガルディさんが犯人らしい人物に会ったらしく、それは俺たちの前に現れた謎の影と恐らく同じだと思われたが、結局正体は不明のまま。分かっていることは、名前だけ。

――堕天使同盟。

そう名乗っていたという。

ちなみにリエルに訊いてみても、

「さあ……俺、天使だし。まだ堕ちてはないからなあ」

と、心当たりはないようだった。

ガラステーブルを挟んで、向かいに座るシルヴィアが言う。

「今回の堕天使同盟の件、エルシー王妃に報告する必要がありそうだ。神気結界…というのだったか、あれは。あんなものを使えるのなら、魔界全体の脅威になり得る」

「神気結界…って」

隣のリエルに訊く。

「天使が張る結界、なんだよな?」

リエルは頷く。

「うん。その性質上、魔族には解けない。魔族は神気に触れると浄化されちゃうからだ」

「浄化…」

結界に触れたシルヴィアの指が白くなっていたのを思い出す。

「だが、」

はす向かいで腕を組みながら、ガルディさんが言う。

「解けていただろう、あれ。九番目、お前がやったんじゃないのか?」

「……え、俺?」

………確かに、何かをやった覚えはある。

シルヴィアを守ろうと思って、声が聞こえて、そして額が熱くなって。

「…それが、良く分からないんだよな」

それから何をしたのか良く思い出せない。…本当に俺が結界を解いて、あの爆発っぽいものを起こしたのだろうか?

シルヴィアは嬉しそうに言う。

「私もガルディも解けなかった、すごいぞ宙矢。エルシー王妃に合わせて報告しなくては。九番目の弟はとっても優秀だと!」

きっと弟のことは我が身のように嬉しいのだろうけど、俺としては戸惑うしかない。何しろ本当に自分がやったことなのか分からないのだ。

そこで、壁の振り子時計が三時を知らせた。

廊下をメイドたちが忙しく通り過ぎていくのを見て、俺は言う。

「そろそろ帰るよ、シルヴィア。忙しいだろうし」

「ええっ!泊まって行かないのか!?」

がーん、という効果音が聞こえて来そうな程、分かりやすくショックを受けている。

「さすがに迷惑だろ、これ以上長居したら」

「そんな、私は全然迷惑じゃないぞ!?」

いや、シルヴィアは迷惑じゃないかもしれないが、あんな事件が起きた後に客がいたら、使用人さんたちが迷惑だと思うのだ。

「…姉上。これから、荒れた庭の再生、防犯結界の修復、エルシー王妃への報告書の作成と、やることが山積みなのですが」

「う…、それはそうだが…」

「客人が帰ると言っているのに、引き留める意味はないでしょう」

「…むうー……」

ガルディさんに嗜められ、シルヴィアは子どもっぽく頬を膨らませる。

…なるほど、この兄妹、こういう関係性なのか。

客間を出て、正面玄関。

魔力車まりきしゃはソルデッド家の方で用意してくれた。

シルヴィアは王宮まで送る、送るったら送る、と譲らなくて、もう魔力車まりきしゃに乗り込んでいた。

玄関を出るとき、ガルディさんが俺に言った。

「おい、九番目」

「…あの。俺、宙矢って名前があるんですけど」

ガルディさんはちっ、と舌打ちをする。

「………宙矢。姉上を守ってくれたことには礼を言おう。だが、姉上に何かしたら、分かっているな?」

「分かってるってば……」

「ならいい。……ではな」

そう言って館の中に消えていった。

ちゃんと俺の名前を呼んでくれた当たり、そこまで嫌なやつでもないのかもしれない。……シスコンなだけで。

シルヴィアの待つ魔力車まりきしゃに乗り込む。

「…おい、リエル?乗らないのか?」

「え?…あー、うん……」

六人掛けの席にはまだまだ余裕があるのに、リエルは一向に乗ろうとしなかった。

「あの…」

魔力車まりきしゃの運転手が、ドアを開けて外から言う。運転席と後部座席が別れているから、そうしないと話せないのだ。

「失礼ですが、さすがに天使とシルヴィア様を一緒にお乗せするわけには…」

「…は?どういうことだよ、それ」

予想もしていなかった言葉に、俺は思わずそう言っていた。

何だ今の言い方?それじゃ、まるでリエルが……。

「こら御者ぎょしゃ、何を言う。宙矢の親代わりであるのだから、私の親であるようなものだぞ。失礼だろう」

隣の席のシルヴィアも眉をひそめて運転手を嗜めた。

「…いえ、シルヴィア様がそう言うなら、いいのですが…」

そう言って、運転手は逃げるように運転席に入って行った。

リエルは困ったような笑顔で言う。

「…俺、上飛んでくよ。また後でねー、宙矢」

ばさっ、と片方だけの白翼をはためかせ、危ういバランスのまま空に上る。その姿はどんどん遠ざかって行った。

…もやもやする。

「シルヴィア。天使っていうのは、もしかして」

隣で申し訳なさそうにしているシルヴィアに訊く。

「差別対象だったり、…するのか?」

シルヴィアはそのきれいな額に皺をつくった。

「………そういう者も、少なくはない。悲しいことだが、堕天使や天使を差別する魔族は一定数、いる」

「……そっか」

今日、城下町やソルデッドの港町を見て気づいたことがある。

白い翼を持った者はひとりもいない、のだ。

だから奇異な目で見られてしまうのは仕方ないのかもしれないけど、でもやっぱり、十七年間ずっと俺を育ててくれたリエルが、あんな反応をされるというのは。

……全然、納得がいかない。

「シルヴィアは、そういうのがない世界を、作ろうとしてるんだよな」

シルヴィアの顔が明るくなる。

「ああ、そうだぞ。どんな種類の魔族も、堕天使も、天使も。みんな仲良く暮らす、助け合って認め合う。素晴らしい社会だと思わないか?」

その綺麗すぎる夢を語っているとき、シルヴィアの表情は一番輝いている。

「…シルヴィアが、魔王になれたらいいな」

「本当か!?応援してくれるのか、宙矢!」

シルヴィアは俺に抱きつかんばかりの勢いだ。

この純粋な王女さまが魔王になった世界は、きっと今よりは良い世界に違いないと、俺は思った。

他にも他愛ない話をしている間に、魔力車まりきしゃは転移用魔法陣のある村に着いた。

魔力車まりきしゃを降りようとして、俺はあの洞窟で、シルヴィアに訊こうとしたことを思い出す。

「…シルヴィア」

魔力車まりきしゃから降りて、続いて降りて来るシルヴィアを振り返る。

「何だ?」

「……あのさ。俺の親って…どんなひとだった?」

「宙矢の両親?」

シルヴィアはちょっと意外そうにした。

「…そうだな。まず父上は、心の広いひとだった」

シルヴィアは目を細めて語る。

「四貴族同士の争いを鎮め、魔界に平和をもたらした。偉大なひとだ。女性にだらしがなかったとか言われているが、それは裏を返せば、全ての王妃たち、妻たちを平等に愛していたということだ。…それだけに惜しかった、先週の訃報は」

…先週。

までは…生きていたのだ、俺の父さんは。

実感が湧かない。

それはそうだ、いきなり亡くなったと言われたって、俺は一度も会ったことはないのだから。

「…父さんは何で亡くなったんだ?」

シルヴィアは難しい顔で答えた。

「……それがな、分からないのだ、宙矢」

「…え?」

「それは公表されていない。ただ亡くなったとだけ、私たちはエルシー王妃から聞かされた」

「…ええ?それって何か怪しくないか!?」

「そうなのだが、エルシー王妃が嘘を仰ることはないだろうし、王位を空にしていいのは一年間だけという厳重な決まりがあるから。誰も追及しようとはしなかった」

シルヴィアも何かおかしいとは思っているようで、腑に落ちない、という表情だ。

「…それじゃ、俺の母さんは?」

「…宙矢の母君のことは」

シルヴィアは頬を掻いた。

「私も良く知らない。王宮の落成式のときに一度だけ見たことがあるが、すぐに退室されてしまったから。遠くから見ただけだが、綺麗な黒髪の、儚げな美人だったよ」

「…そっか。シルヴィアも母さんのことは、良く知らないのか」

「…しかし宙矢、母君のことなら、あの天使殿に訊けば良いのではないか?」

シルヴィアは首を傾げて言う。

「え、リエルに?でもあいつ、父さんの友達だとは言ってたけど、母さんのことは知ってるのかなあ…」

「えっ?」

シルヴィアは目をしばたかせる。

「知っているも何も………、リエル殿は、宙矢の母君の元恋人、なのだろう?」

「……………………………は?」

思考停止した俺の口から間抜けな音が漏れる。

恋人?

…リエルが?

……母さんの!?

「…はあぁ!?」

「ち…違うのか?魔界ではそういう話になっているが…、その反応からするとただの噂なのか」

戸惑うシルヴィア、そしてもっと戸惑う俺。

…えーと?

それがもし本当だとすると、最初は母さんとリエルが恋人で、その後母さんは父さんと恋に落ちて?

そして生まれた俺をリエルが育てている……?

なんだその図式?

なんだその泥沼!?

とんでもない噂を聞かされた俺は、その日ずっと混乱しっ放しで、どうやって王宮に帰ったのかも覚えていない。


…ともかく。

こうして、魔石レースと王子たち、そして堕天使同盟をめぐる、俺の最初の冒険は終わったのだ。






「…失礼します、母上」

ソルデッド家、北の離れ。

本館から遠く離れたこの場所には、第二王妃、プレーティア=ソルデッドが隠居している。まだ魔族としては若い彼女がこの場所から出て来ないのは、病気の療養のため、ということになっている……表向きは。

離れの中でも一番奥まった部屋、外からは見えず、中庭だけに面しているその部屋に、彼女はいる。

彼女専属の年老いた侍女が、ガルディの顔を見て部屋への道をあける。ガルディ以外は、事前の連絡なしには通れないことになっているのだ。例え、当主にして次期魔王候補のシルヴィアでも。

「…入りなさい」

か細い静かな声が、中から聞こえる。

ガルディはその声を聞くやいなや、遠慮なしに中に入った。

…だって、今の彼は怒っているのだ。

中庭の柚子に似た木を眺め、窓際の揺り椅子に座っている女性がいる。

豪華な家具に囲まれ、悠々自適な生活を送っているだろう彼女は、反面、全てに怯えているかのような卑屈な雰囲気を発している。

プレーティア=ソルデッド。

二人の子を持つ、第二王妃。

「…座っていいわ、ガルディ」

「…ただの報告ですので。ここで十分です」

ガルディはドアの前で立ったまま、彼の母に話す。

「母上の耳にも聞こえたでしょう。堕天使同盟と名乗る不届き者が、南の入江で騒ぎを起こしました」

「…そんな。怖いわね、怪我人はいないの?」

「ええ、いません」

「………そう。それは、良かったわ」

そのプレーティアの笑顔が一瞬凍ったことに、ガルディは気づいた。

…そして、まさかと思っていたことを、確信した。

「…やはり、そうなんですね?」

「…なあに?」

プレーティアは柔らかく微笑む。

彼女のその微笑みがただの偽りに過ぎないことを、ガルディはずっと昔から知っている。

「やはり、堕天使同盟を招き入れたのは貴女なんですねと言っているんです!」

プレーティアの笑顔が消える。

能面のような無表情で、彼女と良く似た息子を見る。

「堕天使同盟が防犯結界を破ったのだとしても、全部の結界が消えているのはおかしい。確か、うちの結界を張っているのは貴女でしたよね、母上!」

ガルディの剣幕も意に介さず、プレーティアはまた微笑んだ。

「ええ、そうよ?」

何で怒られているのか分からない、というように虚ろな笑顔を崩さずに。

「…何で、何でこんなことを、母上…!危うく姉上が死ぬところだったんですよ!?」

「……だって」

プレーティアは、を揺らして立ち上がる。

「…あの時は、仕方なかったわ。あの時、既にイェーベルには王子が生まれていた。ソルデッドも遅れるわけにはいかなかった。だからあのことも、仕方なかったのよ」

それについては、ガルディも知っている。

二百年前のソルデッドの罪。

今やプレーティアとその侍女、そしてガルディしか知らない秘密。

待望の王子の死産は、どうしても隠さなければならなかった。だから当時のソルデッドの当主は、生まれたばかりの親戚の赤子を――。

「それについては、貴女を責めるつもりはない。貴女は当時の当主の命に従っただけでしょう」

ガルディはむしろ、彼女に同情してさえいた。

第二王女の母を演じるため、こんなところに閉じ込められ、外に出るときには必ずその見事な金色の髪を、銀色に染めなければならない彼女の境遇に。

「でもね、ガルディ」

プレーティアは続ける。

「あの時は仕方なかったけれど、今は違うでしょう?今はあなたがいるわ。本当の私の子がいるわ!だから――」

虚ろな、どこか狂ったような微笑みのまま、プレーティアは言い切った。

「だから―――?」

その言葉が。

ガルディの中にほんの少しだけ残っていた何かを、とうとう断ち切った。

「…貴女は、姉上をいらないと言うか」

「そうでしょう。今となってはいらないわ。それともあなたは本当に本心から、あの子を姉と呼べるの?」

「……………」

ガルディは、身を翻してドアノブに手をかけた。

「…ガルディ?」

「おいとま致します、母上。貴女と分かり合えることは永遠になさそうだ」

「そんな…。あなたは私のただひとりの子なのに」

プレーティアの言葉を無視して、ガルディは言う。

「姉上を本心から姉上と呼べるのか、そう訊きましたね?…答えましょう、呼べますとも。何があろうと、俺の姉上はシルヴィアただひとりなのですから」

ガルディはドアを開けた。

ドアの向こうに消えようとする彼女の息子に、プレーティアは訊く。

「もう行ってしまうの、ガルディ?あのね、堕天使同盟のことは…」

「ご安心を、言いませんよ貴女のことは。貴女を衆目の目に晒すわけにはいかない。姉上の夢がついえてしまうのでね。ただ、今度おかしな企みをするのなら」

ガルディの目は、もはや可哀想な母親を見る目ではなかった。

「例え貴女でも容赦はしない。どうか大人しく、死ぬまでここに籠っていてください」

「…ひどいわ、そんな恐ろしいことを言わないで。あなたは私の息子、唯一の味方でしょう?」

「…俺としてはですね、母上」

ガルディは、すがるような目で見つめる母に言い放った。

「貴女を母と呼ばなければならないことの方が、余程胸糞が悪い」

ドアは、ひどく乱暴に閉められた。

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