第3話

ガチャ

「おつ!!」

「あれ?今日は仕事じゃなかったの?」

びっくりした様子でシアンが玄関をのぞいた。

「仕事だよ。もう上がり。腹減ったから食べに来た。」

気だるそうに入って来たのはルイ。

「いいよ!ちょうど今できたとこ。」

「おーうまそう!やっぱり寮のめしより、シアンが作った飯の方いいわー。」

EA大は全寮制だが、卒業すると出ることもできる。ルイとリコは残りあとはみな、寮を出た。

今日のメニューは、白飯にキノコ汁、焼き魚。

けして凝った料理ではないが、この時代は、主な食材は加工食品ばかり、なかでも土の状態が悪こともあり、葉物野菜は市場から消えていた。その為、体に必要な栄養素はサプリメントで取るのが主流だった。シアンのように生から食材を調理するのは、お金もかかり珍しかった。

手っ取り早く、安価でも手に入るサプリメントや、栄養ドリンクの需要が高まった為に

得体の知れない化学薬品が多く流通、いわゆる危険ドラックも健康医薬品との厳密な区別が難しく、取り締まりが厳しく黙認されていた。それあってか、一部の人間たちの犯罪も撲滅されることはなかった。



大の大人が2人が食卓につく。コンクリートばりのアパートの2階。

殺風景な部屋には必要最低限の家財しかなく、小綺麗にされていた。

「今日は何してたの?サトルとシアン非番でしょ?」

「港に魚釣りに行ってきた。サトルは実家に帰るって。今日は、平和だったね。」

「うん。無害型を一体保護しただけ。俺もそろそろ実家帰らないとうるさいんだよなぁ。」

「そうだよ。来週から軍事キャンプでしばらく休みないよ。」

「だな。」

「美味しいコーヒー手に入ったんだけど飲む?」

「飲む飲む。」

ルイの声が弾む

コーヒーフィルターに豆から挽いた粉をいれた瞬間、手首がサイレンとともにしんどうした。

リストフォンからのサイレンが響く。

くつろぐ雰囲気から一気に緊張がはしった。

「こんな時にリコールかよ!」

「イエローサイレンだ」

「出動だな。」

緊急時には非番であっても出動が余儀なくされる。

緊急の度合いは4パターンで、通称ブルーサイレン、イエローサイレン、レッドサイレン、ブラックサイレンと分けられた。

ブルーサイレンは出没現場より3キロ圏、イエローサイレンは、5キロ圏、レッドサイレンは10キロ圏にいる隊員が出動、ブラックサイレンは全員招集命令だ。


2人は駆け足で玄関を出ると手に持っていた軍服のジャケットを羽織り、走った。

ジャケットには軍隊のロゴマークとともに、

左胸には実力の証、勲章が光っている。


ふたりはベルトのバックルにあるスイッチを入れると高く跳躍した体に特殊な電磁波が走ることで、全身無重力状態になる。十分な訓練が必要だが、重力のある状態から30倍の力が発揮できる。

地を蹴り壁を蹴り走れば目にも留まらぬ速さで移動できる。


「場所は?」

「南に5キロ。ビブス街区だ。

C-攻撃型、今現在8体確認。」

シアンがリストファンから入る情報を的確に伝える。

ものの数分でたどり着くと、すでにパトロール中の、武力班が牽制していた。、ヘリコプターから、テレパ班看護班が控える。

緊迫した状況。


「武力班、エイリアンをビブス街区の外れに追い込み、奇襲する。

看護班は、国民の護衛を最優先させ安全な場所に避難させよ。」

リストフォンからは、司令塔からの指示が飛ぶ。


暗闇にうごめくエイリアンは、巨体で二足歩行でヨタヨタと進む。月明かりから樹木を振り払うように容易くなぎ倒していく事から相当の力がある事がわかった。


ルイは気味が悪そうに目を凝らすと言い放った。

「なんだあいつらは。オレ外からまわる。」

「わかった。」

ルイとシアンは別れた。


シアンは無機質な住宅街の路地裏に人間が取り残されてるのが暗がりからかろうじて見えた。近づくと、まだ小さい男の子だった。逃げ遅れたのだ。

シアンは武力班で襲撃優先。民間人の護衛はしない。ただ、近くに看護班はおらず任せる事が出来ない為、その子のそばに降り立った。

「お父さんやお母さんは?」

「いない。」

顔にはあざが見えた。細く露出した腕には痛々しい火傷のような痕も。

「一緒に逃げよう。」

すぐそこには、エイリアンが。

全長30メートル近くある巨大生命体、ステルスガリバーがだった。

ステルスガリバーは、以前にも現れたことがあり、民間人にも軍人にも犠牲者をだした。予測不能な上、凶暴で非常に頑丈な細胞体でできている特徴がある。

一刻の猶予もゆるされないのに、男の子は震えて腰が抜けてしまっているからか逃げようとしない。

空から、武力班が波動を打ち込んむがエイリアンはビクともしない。新衛兵ばかりだった。

シアンはその子を抱き上げ逃げようとするが、ステルスガリバーの足の裏が頭上を覆っていた。

間に合わない、ここで逃げても標的である事は変わらない。

シアンはグローブの火薬のレベルを上げ至近距離を狙うため、足が2人を踏み潰そうとするギリギリの瞬間を待った。そして、溜めていた波動を足の踵をめがけて放出する。

大きな爆発音と煙と熱風が2人を吹き飛ばす。その勢いで男の子を抱えて逃げた。

ステルスガリバーは見事に後ろへ転倒し、路地にはまって身動きを封じた。


男の子を安全なところに、連れて行くとすぐシアンも応戦へ。ステルスガリバーは、結局11体出没し、全て討伐した。

もう夜は明け、朝焼けで街を染めていた。

地球外生命体調査処理班が片付けるなか、

シアンはさっきの男の子が気になり、もどった。

男の子は、シアンを見つけるなり

「武力班の大尉がなんで、僕なんか助けるの?助けてくれなくてよかった。」

と言い放った。身体は小刻みに震えていた。そして、どこか寂しく、怒りに満ち溢れていた。

「ダメだよ。君は将来この国を守るために大切な存在なんだよ。今は苦しいかも知れないけど、逃げずに生きていれば必要とされる日がくる。」

男の子の頭を優しくなでて悟った。

涙をいっぱいためて強く拳を握って頷いた。


看護班のビビがあらわれ、

「シアン!大丈夫怪我はない?」

「大丈夫だよ!どこも怪我してない。」

ルイも現れ、

「らしくない行動だな。」

と心配してみせた。



あの男の子の目つき、あざ、火傷痕から、親から虐待されていると想像がついた。

シアンは昔の自分を重ねた。

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SFと呼ばれた時代には 夢心地 @otr714

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