プレアデスとカシオペア その5 『ソラの一案』

プレアデスとカシオペア その5 『ソラの一案』


 なんとか、カシオペア・シスターズのシグマリオンから一勝をもぎ取ったプレアデス・スターズ。歓声が冷め止まぬ中、ソラ達は最終ラウンドの向けて、作戦を練っていた。

 ハル姉が皆に言う。


「第2ラウンドは相手の弱点と意表を突いて勝つ事が出来たけれど、次はそうは行かないわ。自身の弱点を理解した上で攻勢に出てくる筈よ。だから、今までの様に安易には機動ポッドは掴ませてくれないわ」


 ハル姉の話にソラは腕組みをする様なポーズを取り、考え込む。


「うーん。だけど、一体どんな手で攻めてくるんだろ?」


「……」


 みんなが考え倦ねている中、ツッキーが恐る恐る手を上げて、自分の意見を言う。


「あの……。それについてですが、アステローペの戦術データライブラリに極めて似た様な情報がありますので参考になるかも知れません……」


「戦術データライブラリ?」


 ソラとハル姉が声を揃えて聞き返す。ナナが納得したように言う。


「そうか。アステローペのベースとなった雷神機は元々戦闘用。その中に過去の膨大な戦闘データが残されていても不思議ではないわね。でも、それってかなりの機密事項よ。簡単にアクセス出来ないと思うけど、流石ツッキーね」


「いえ、アステローペのブラックボックスの機密プロテクトを解除するなんて私にも無理です。このライブラリエリアを開放したのは他ならぬアステローペ自身なんです。ね、アステローペ」


 ツッキーに促され、アステローペが答える。


〈こちらアステローペです。はい。ツッキーさんの言う通り、私から戦術データライブラリを開放しました。昔の戦争の記憶を呼び起こすのはとても、とても辛い事だけど……。でも、でも皆さんがこの情報で勝てるのなら、その先に素晴らしい事が見つかるのなら……。是非役立ててください〉


 アステローペの意を決した様な答えにソラは応える。


「ありがとう。アステローペ。シグマリオンに絶対勝つよ。そして、その先の素晴らしい事をみつけよう」


「時間が無いわ。アステローペの好意を無駄にしない為にも早速、ライブラリを観てみましょう」


 ナナに促され、ハル姉がアステローペの戦闘データの該当箇所を読み上げる。


「どれどれ……。実戦記録ナンバー237、攻撃対象、局地戦型極限環境作業ロボットドール『ドラゴン・ファング』。以降対象Dと呼称。会敵17秒後、対象Dは有線遠隔攻撃ユニットを展開。中距離全方位攻撃を予測。会敵22秒後、対象Dの攻撃移行前にユニットの半数に当たる6機の有線制御ケーブルを特殊兵装の単分子ワイヤー・ソーにて切断。会敵26秒後対象Dは戦術を変更……。なんか読んで説明するのも面倒なほど長い記録ね」


「あ、『ドラゴン・ファング』知ってるよ。12機の有線遠隔攻撃ユニットを持つ局地戦型の極限環境作業ロボットドールだね。かなり強いんだよ。でも、シグマリオンと違ってユニットには光学兵器が搭載されていたと思うけど」


「流石にソラは詳しいわね。アステローペ、時間が無いから、かいつまんで説明して頂戴。あなたの戦闘経験からシグマリオンは次にどの様な戦術で攻めてくると思う?」


 ハル姉の問にアステローペは答える。


〈こちらアステローペです。はい。多分、次の戦いではシグマリオンは自分の弱点をカバーし、長所を最大限に活かす戦術を取ると考えられます。それは、こちらの死角から本体ごと接近し、機動ポッドを直近で展開、攻撃と共に急速離脱するヒットアンドアウェイ戦法だと予想されます。この方法だとシグマリオン自身の機動性を保持しつつ、直近で機動ポッドを展開するので軌道が読まれにくいという相手側のメリットがあります〉


「成程、流石アステローペ、理に適った戦術予測だわ。で、その対策はあるの?」


〈こちらアステローペです。はい。基本的には前ラウンドと変わりません。機動ポッドを確保しつつ、相手の機動力を削いでいくというものです。但し、機動ポッドの軌道算出から攻撃までの予想時間が1~2秒と非常に短いので、対応難易度は格段に高くなります。もう一つ有効な手段として、ジャミングがありますが、これはハルさんの方針通り、私もお勧め出来ません〉


「ありがとう。アステローペ。参考になったわ。どう? ソラ。あなたの負担が大きくなるけど、やれる?」


「うん。かなり厳しいけど、もう、ここまで来るとやるしか無いよね。ところでハル姉、ボクにも一つ考えがあって、お願いがあるんだけど」


「何よ。ソラ。改って」


「実は……」


 ソラは自分の考えを皆に説明した。それを聞いたナナが聞き返した。


「ソラ。あなた、自分の言っている事、理解しているの? そんな事したら、アステローペの行動を制限する様なものよ。それにまた、宇宙技術科の凛先輩から大目玉を食らうわよ」


「それは覚悟の上だよ。ナナ姉。でも、相手も形振り構わず勝ちを取りに来る筈だよ。こちらもそんな事言ってられないよ」


 ソラは肩をすくめながら返答した。アステローペもソラに同調して提案する。


〈こちらアステローペです。皆さん、ソラさんの案は意外と有効な策かも知れません。私もコレにこの様な使い方があるなんて気が付きませんでした。いざという時の人の閃きは侮れませんよ。試してみる価値はありと思います〉


 ツッキーも同調してハル姉、ナナに詰め寄る。


「ジャミングを行わななら、こちらもプレアデス・チームならではの方法で攻めるべき。やりましょうハル姉」


 ソラ、アステローペ、ツッキーの意見にやれやれと言った風にハル姉が応える。


「これはある意味、賭けかも知れないわよ。……しょうが無いわね。万が一の時は私がケツ持ってあげるから、悔いの無い様に思い切り行ってきなさいよ」


「ありがとう。ハル姉。……じゃあ、そろそろ時間だし、ボクのロボ魂をぶつけて来るかな」


 あっという間に10分間のインターバルが終了し、最終ラウンドが開始された。




 ラウンド開始早々、相手チームのレイカから通信か入る。


〈ソラさん。第2ラウンドで瞬殺されなかったのは褒めてあげる。しかし、このラウンドは勝たせてもらうわ。そして私達のシグマリオンの優秀性を示す礎になって頂戴〉


「こっちだって負けないよ。このラウンドで勝ってアステローペが如何にすごい極限環境作業ロボットドールだって事を解らせてあげるよ」


〈……相変わらず、言うわね。きっと、後悔するわよ〉


 レイカはそう言うと通信は切れた。そして同時にシグマリオンがアステローペに向かって動き出した。アステローペの戦術予測通り、機動ポッド5機をフル装備のシグマリオンの機動は前のラウンドの比ではない。この機動ならバーニアスカート装備のアステローペと互角の機動ができそうだった。


 シグマリオンは複雑な軌道を描きならアステローペに迫る。これぞ5機の機動ポッドのメインスラスターと本体の姿勢制御スラスターの成せる技である。アステローペも相手を警戒しつつ、相手との間合いを取るが、どういう訳か動きに切れが無い。そうこうしている内にシグマリオンはアステローペの真下に間合いを詰める。


〈もらったわ!! 『カシオペア・アタック』〉


 レイカはそう叫ぶと一気に4機の機動ポッドを切り離して攻撃を仕掛ける。用心の為に移動用の1機だけ本体に残しているのは流石といった所だろう。


「下からか! こんにゃろ! (ボクも必殺技名叫びたいなぁ)」


 ソラはそう叫びながらアステローペを回る様に半身を捩り、右第2腕で辛うじて機動ポッドを1機確保する。だが、不思議な事に今ラウンドのアステローペの動きに切れが無い。しかも、続けざまに残りの機動ポッド3機とシグマリオン本体によりダメージポイントを4ポイントも受けてしまった。そして、あっという間に残り4機の機動ポッドを伴いアステローペから離れていった。


〈やはり、どちらが優秀か自明の理のようね。続けて行かせてもらうわよ〉


 レイカはそう言うと、シグマリオンを駆ってアステローペに襲いかかる。1機の機動ポッドを失っているものの、機動性が極端に落ちる事は無い。それも既に想定済みなのだろう。

 再び、アステローペに肉薄し、今度は真上から攻め込んでくるシグマリオン。先程と同じ様にアステローペの直近で機動ポッドを切り離し、連続的に攻撃を行う。


「くそっ! 今度は真上か」


 ソラは悪態をつきながら、アステローペを操り攻撃を躱そうとする。機動ポッドを更に1機確保したものの、更に3ポイントのダメージを受けてしまった。


 予想されていたとは言え、今ラウンドのシグマリオンの動きは見事な物だった。自身の機動力の低さをカバーしつつ、アステローペの死角となりやすい真下や真上からから攻めていく。自身の極限環境作業ロボットドールの長所も短所も知り尽くした上でなければ出来ない戦術のお手本の様な戦い方だった。

 方や、アステローペは2機の機動ポッドの確保に成功したものの、このままだとシグマリオンにあと1、2回の接近を許せば10ポイント以上のダメージを受けてしまうだろう。しかも、どういう訳か今ラウンドのアステローペの動きに切れが無かった。

 だが、ソラには最初のラウンドで見せた様な緊張や焦りは無い。明らかにソラは何かを狙っている様だった。


 レイカから通信が入る。前ラウンドと違い、余裕たっぷりに話しかける。


〈ソラさん。第2ラウンドで見せた戦いは流石と思ったけど、ココ迄のようね。次で一気にカタをつけてあげるわ〉


 ソラも負けじと言い返す。


「レイカさん。アステローペは優秀な機体さ。それは紛れもない事実なんだ。そして、戦いの勝者とはどういう者なのか直に身を持って知ることになるよ」


〈なかなか言うじゃない。しかし、ダメージポイントを7ポイントも受けて、この状態でどうやって勝つのかしら? こちらのダメージポイントはまだ、2ポイントしか受けていないのよ。アナタの言っている事は負け惜しみと言うものよ〉


「……」


レイカの言葉にソラは敢えて言い返さなかった。これ以上は実力で示すべきだ、と思ったのだろう。レイカもこれ以上話しても時間の無駄と思ったのか、捨て台詞の様に最後の通信を送る。


〈……ふん。まあいいわ。次で決着をつけてあげるわ〉


 レイカの最後の通信が終わると共にシグマリオンが再び攻勢に入る。撹乱する様な軌道を取りつつ、今度はアステローペの後方へ回り込んで攻撃を仕掛ける。機動ポッドを2機失ったとはいえ、動きに切れのないアステローペを圧倒するには3機の軌道ポッドで十分の筈だ。


〈これで終わりよ! 『カシオペア。アタック』〉


 これで最後と言わんばかりにアステローペの後方から3機の総ての軌道ポッドを切り離しアステローペに襲いかかる。


「読み通りだ! アステローペ! 今だ!」


 ソラは狙いをすました様に声を上げる。




 その時、アステローペの周りに何かが一閃した――。

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