宇宙(ソラ)のヒトと地上の人と その4
宇宙(ソラ)のヒトと地上の人と その4
ナナとツッキーは学園にある放送室へと向かった。ここに報道部の
ヒナタは将来、宇宙関連報道の職を希望しており、この活動が自分の為になると考え面倒な『プレアデス・スターズ』のメディア関連の露出手配や編集を自ら買って出た。すばる学園高等部航宙科の二年生でハル姉やナナと同じ年である。情報に目端が利き、メディア関連の付き合いも多い為か学園内外問わず情報通でもある。
顧問のやよい先生はクラス担任を持つ通常の学園の教師ではなく、今回の『プロジェクト』の為に宇宙産業庁から半ば出向扱いでやって来た職員である。人工衛星の製作や宇宙環境実験と違い、女子高生だけで
ナナが放送室の扉を開けると案の定、やよい先生とヒナタがモニターを見ながら何やら話し合っている。恐らく今回のミッションに伴うメディア露出の打ち合わせだろう。
「やよい先生、今回のミッション終了致しました。報告書は先程メールで送っておきましたのでご確認お願い致します」
「あら、秋月さん、柊城さんご苦労様。春日さんと夏乃さんは?」
「『無敵エンジニアリング』にアステローペの部品発注に行っています。多分遅くなるからそのまま寮に帰ると思います」
「分かったわ。ところで、今回のミッション、こちらからモニターしていたわよ~。あの様子だと整備科に怒られたんじゃないの?」
やよい先生は、ずれたメガネを直しながら、からかうようにナナに尋ねた。20代とはいえ、流石宇宙産業庁の職員だ。コントロールルームに居なくてもしっかりとミッション状況を把握していた。
「はぁ。先程、凛さんにこってり絞られました。ソラには私からも注意しておきましたが反省したかどうか……。あ、ヒナタ、これ今回のミッションの映像記録ね」
「あいよ、ナナ。どうせまたソラが必殺技のつもりで変な事やったんでしょ。まぁ、こっちとしてはその方が映像映えしていいけどさ」
ヒナタはナナから差し出されたメモリーカードを受け取ると馴れた手つきで端末に差し込み映像の確認をする。ヒナタの掛けているメガネに映し出された映像が反射して青白く輝く。
やよい先生とヒナタ、それにナナまでもメガネを掛けているせいか、ツッキーは「やけにメガネ率の高い部屋だなぁ」とぼんやりと考えていた。やよい先生はそんなツッキーの様子に気がついたのか問いかける。
「柊城さん。何か考え事?」
「……えっと、メガネ……じゃなくて、『プレアデス・スターズ』が正式に事業開始から、もう一ヶ月経つんだなあって……」
それを聞いてヒナタは感慨深そうに頷く。
「むぅ。確かに。忙しさですっかり忘れていたけど、もう一ヶ月経つのよね。今の所『プレアデス・スターズ』の4回のミッションはすべて成功。アステローペの外観とそれを運営するのが女子高生チームということも相まって、コアな支持層が多いけれども、メディア受けもまずまずって所ね。当初の目標は達したんじゃない?」
「秋月さんや春日さんにとっては準備にほぼ一年掛けているから、あなた達にとっては一年ちょっとというとこかしら。確かに当初の目標は達成したけれども、事業としてはまだまだね」
やよい先生は続けて話す。
「……赤字が大きすぎるわね。宇宙産業庁からの支援金とメディア収入、スポンサー企業の収入合わせても、アステローペの改修、維持費用を賄いきれていないわ。プロジェクトの趣旨である『多くに人々に宇宙開発を理解してもらう』という意味ではまずまずの成功だけれども、税金を使う以上、その《プロジェクト》が赤字であれば意味がないわ。春日さんにもその辺りしっかりと理解してもらわないと」
「はぁ。ハル……いえ、春日さんには私からもいつもそう言っているのですが……」
溜息混じりにナナは答える。いつも突っ走り気味のハル姉やソラを抑えるのが半ば彼女の役割でもあった。ナナが居るからこそ、プレアデス・スターズは上手く機能していると言ってもいい。ナナもそれを自覚していて、自ら損な役回りを引き受けていた。チームのリーダーは確かにハル姉であるが、ナナは単なる幼馴染であると共に、それを的確にサポートする優秀な参謀役でもあった。
やよい先生は言い過ぎたと思ったのか、ハッと我に返る。彼女は宇宙産業庁時代の癖が抜けないせいか、時々評価が厳しくなる事がある。男社会の宇宙産業庁では海千山千の役人や業者とやり合わなければならなかったのだから無理も無い事かも知れない。そんな日常に嫌気がさしてこの《プロジェクト》への出向を希望したのだ。
「ごめんなさいね。色々言っちゃって、私の悪い癖ね……。秋月さんにも苦労かけるわね……」
少し暗い雰囲気になった事を察したのか、ヒナタが割り込んで話をする。
「まぁ。私としてはソラにアステローペをガンガン派手に動かしてもらって、見映えのいい映像をどんどん撮ってもらえればいいんだけどね。その方がメディアの露出も増えて収入も増えるし、新たなスポンサーが名乗り出てくるかも知れないしね」
ヒナタの話にツッキーはブンブンと音が出るほど一生懸命頷いている。長いツインテールもそれに合わせてブンブン揺れている。ナナが責められていると思ったのか彼女なりに必死で庇っているのだろう。
揺れるツッキーのツインテールを見て何気にヒナタが尋ねる。
「そう言えば、ツッキーがツインテールにしたのって、学園に入学してプレアデスチームに入ってからだよね。入学時は普通に髪を下ろしたロングヘアだったのにどういう心境の変化?」
元々、ツッキーはコンピューターが得意な孤独な少女だった。その所為かファッションや髪型にあまり拘りが無かった。そんな孤独がちの少女がハル姉やソラといった真逆の性格の人達とチームを組んでいるのも不思議な縁のめぐり合わせとも言えた。
「……えっと、これは……そのハル姉の意向で……。『あなたはこれからツインテールでミッションに臨む事。これはあなたが[プレアデス・スターズ]の一員として参加するための条件ね』だそうです……。何か私がツインテールにするとアステローペに似ているからとか……。ひょっとしたらソラの入れ知恵かも知れませんが」
ツッキーがもじもじと少し困ったように答える。嗜虐心を誘う子だなあとヒナタは思いつつ、ツインテールの訳に二重に納得する。
「あー。成程、そういう事ね。ハルがそう言うのも解るわー。でも確かに言われてみればあなた、アステローペに似ているわね。今度、機会を作ってアステローペとのツーショットを撮らせてよ。そうね、ゴスロリのコスプレでもして、良い広告になるわ~」
「……えっ。それはちょっと困ります……」
ツッキーはそう言いながらまたもじもじと困った顔をした。二人のやり取りにキリがないと思ったのかナナが話題を変える。
「でも私達のチームは始まったばかり。4回のミッソン成功位で胡座をかいてちゃ駄目ね。同じ様なチームは私達だけじゃないんだし」
ナナの言葉を受けヒナタは少し嫌な顔を見せた。
「あぁ、『五曜学園』の『カシオペア・シスターズ』でしょ。あそこは金回りが良いから旧式の私達の
「……アステローペは旧式じゃないです……」
「……え?」
ヒナタの話にカチンと来たのかツッキーが珍しく顔を真っ赤にして頬を膨らませている。争い嫌いのツッキーが怒るのは非常に珍しい事だった。ヒナタもツッキーの予想外の反応に一瞬言葉を失った。
「……アステローペは私達の仲間です。旧式とか最新式とか関係ないです」
珍しく怒るツッキーにナナが慌ててフォローに回る。
「ヒナタ、ごめんなさいね。さっきハルに『アステローペは[プレアデス・スターズ]の一員だ』って言われたから、ツッキーはチームメイトを貶されたと思っているのよ」
ようやく、ヒナタはツッキーが怒っている訳を理解し、自分が軽率な事を言ってしまったと反省した。
「あぁ。そういうことか。ゴメンねツッキー。アステローペの事を悪く言って。私の考えが足りなかったよ」
「……うん。ゴメンね。ヒナタ」
ツッキーも言い過ぎたと思ったのか、すっかりショボくれている。黙って聞いていたやよい先生は一件落着した事を確認すると、本来の話に戻すようにヒナタに尋ねた。
「ところでヒナタさん今回のミッション映像はどう? 上手くメディアに載せられそう?」
「……えーっと。只今編集終了しました。先生の許可を頂ければこちらは動画サイトにアップしちゃいます。あと、マスコミ配布用がこちらです」
「さすがヒナタさん、仕事が速いわね。動画サイトはもうアップしちゃっていいわよ。マスコミ用は明日、私からプレスリリースとして配布しておきます」
伸びをしながらやよい先生は皆に嬉しい提案をする。
「……さてと、今日の仕事は終わった事だし、ここには居ない春日さんと夏乃さんには悪いけど、ミッション第4回目無事終了を祝って今日は先生が皆に何か奢ってあげようかな? 学食でだけれども」
「ゴチになりまーす!」
「先生、私は大盛り味噌チャーシューと餃子と半チャーハン頼んでいいですか!」
ナナは珍しく鼻息荒い。
「……デザートに特製エレベータージャンボパフェつけていいですか……」
甘い物好きのツッキーは目ざとくデザートも注文したい様だ。
「いいわよ。給料出たばかりだから好きなもの頼みなさい! 本当はビールで祝杯挙げたい所だけど、あなた達が未成年なのが残念だわ」
「先生、そもそも学食にはビールなんてありませんよ」
その日の晩、すばる
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