ショウセツは不確かな可能性に行き当たる

 蹴破らんばかりの勢いで、ユーシュは史学会の扉を手と足の両方で叩く。

 怪訝な顔で中から扉を押し開いたのは、セイジュだった。彼は二人の姿を認めると、ぎょっとして一歩、後ずさる。


「お前ら、どうやってここまで来たんだよ」

「御託はどうでもいいんだよ」


 閉じさせないよう扉を掴むと、ユーシュは早口で凄んだ。


「あんたのとこのが、えらいことに巻き込まれそうなんだ。

 つべこべ言わずに中へ入れろ」






 顛末を話し終えると、黙って腕組みしながら話を聞いていたショウセツは、深いため息を吐き出した。


「……まさか。あいつがそんな事になっているとはな」


 最初こそ、タンフウたちの突然の来訪に驚いていた二人だったが、話を進めるにつれ困惑は憂慮に変わった。顔をしかめ、深く思案した様子で、ショウセツは長い人差し指でとんとんと膝を叩く。セイジュも神妙な面持ちで口元に手を当て、じっと黙り込んでいた。

 先月のことを思い出し、タンフウはショウセツに尋ねる。


「最後にサンに会ったとき。サンは『自分の立場なら、皇子に嫁ぐことも可能だ』と言っていたんだ。

 もしかしてサンは、そっちの権力争いに巻き込まれているのか。皇子に誰が嫁ぐのか、それを巡って他の后候補に狙われているんじゃ」

「あいつのその発言は。半分冗談で、半分本気、だな」


 ショウセツはゆるゆると首を横に振った。

 姿勢を正すと、彼は人差し指を立てて順番に説明する。


「まず結論として。

 后の座を争って、候補の一人であるサンが狙われている……という可能性は低い。

 少なくとも表向き、四大名家の関係性は良好だ。それに彼らの間には暗黙の協定がある。そうそうどこかが抜け駆けをするとは考えにくい」

「協定?」

「国内から王族へ嫁ぐ者を選ぶ場合。権力が偏りすぎないよう、四大名家から后を順番に出しているんだ。それで言うと次はロッサ家だ。

 しかしロッサには、今は適当な后候補がいない。他の三家と調整して話を進めれば、決してサンの輿入れだって無理な話じゃないだろう。

 だが。直近で后を輩出した最後の家は、リーリウム家だ」


 三人を順繰りに見回して、ショウセツは続ける。


「つまり。リーリウム家より他の家の方が、まだ順番としては優先順位が高いんだ。あそこは先々代の王妃を出しているから、最も優先順位が低い。他にどこも名乗り出る家がないなら話は別だが、サンの他に候補がいれば、まず間違いなくそっちが后になる。

 わざわざあいつの命を狙うまでもなく、后の座は手に入るんだ。動く必要はない。どちらかといえば、リーリウム家が他の候補者を蹴落とそうとしている、と言われる方がしっくりくる」


 はっきり言い切ってから。

 しかし、ショウセツは再び深く考え込んだ。


「だが、その一番考えやすい可能性が潰れたとなると。……あいつは何に巻き込まれようとしているんだ。リーリウムは四大名家だ。それより上の権力となると王家しかない。だが、その線が薄いとなると。

 思い出せ。何かあるはずだ」


 独り言のように、ぶつぶつとショウセツは呟く。


「権力争い。派閥争い。だが表向き国内で火種はない。長男皇子も正妃の子だし、それより上の年齢の皇子もいない。他の皇子を擁立する動きはない。皇太子周辺? いや、あそこは既に無力に等しい。

 もっと別の視点で考えるべきか? サン個人に何かあるとみるべきか。けど、一体それはなんだ。セイジュみたいな精霊憑きじゃあるまいし、そうそう名家に囲われた人間が狙われるなんてこと」


 そこまでぼやいてから。

 ショウセツは、不意にぴたりと止まった。


「……精霊憑きじゃ、あるまいし?」


 自分で言ったその台詞を反芻すると。

 ショウセツは立ち上がり、突然走って部屋を出た。取り残された三人は呆然と彼を見送る。顔を見合わせ、彼を追いかけようかどうか悩んでいると、しかしすぐにショウセツは本を二冊携えて戻ってきた。

 そのうちの一冊をテーブルの上に広げると、怒涛の勢いで頁をめくる。やがて目当てとおぼしき場所で手を止め、じっとそこに書かれている内容を見つめた。


「……やっぱり。まさか、でも今更そんなこと」

「なんだ。どういうことだよ、セツ?」


 焦れた様子でセイジュが尋ねると、ようやくショウセツは我に返った。熱に浮かされたような面持ちで彼は顔を上げる。


「俺が今から話すことは。全くもって、何の根拠もない話だ。

 けど。ひとまず、最後まで聞いてくれ」


 そう言いおくと。

 ショウセツは、持ってきたもう一冊の本を掲げてみせた。


「これは『建国乱舞記』。あの時に強盗が、既にセイジュを捕まえていたにもかかわらず、撤退を遅らせてまで探していた本だ。

 前は言わなかったが、実は、まあ。この本は史学研究所で、処分されようとしているところだったんだ。勿体ないから、その間際でちょいと拝借してきた」

「おい」


 呆れて思わず口を挟むが、脱線しないよう、タンフウはそれ以上は言及を止めた。


「前に話したように、『建国乱舞記』では善悪が逆になっている。

 この本では。『滅国の魔女』は、『救国の聖女』と書かれているんだ」

「その神話が一体、何の関係があるんだよ」

「いいから黙って聞け。禁書に記された内容は、こうだ」


 一喝してユーシュを黙らせると、ショウセツはぱらぱらと頁を捲りながら簡単に説明する。


「悪の魔女が世界を滅ぼそうとした訳じゃない。人為的な仕業じゃあなく、元から世界は崩壊寸前だったんだ。

 世間の認識とは真逆で、世界が滅びかけていたところを、王女アンゼローザが精霊たちの力を借りて、何とか食い止めたというのが事の真相だった。

 しかし世界を救うために大規模な力を使った精霊たちは疲弊し、ほとんど力を失ってしまったんだ。人間に力を与えるどころか、自分たちの存在を保つことすら危うくなり、精霊たちは市井しせいから姿を消した。

 結果、精霊の力に頼り切っていた文明は退した」


 禁書をぱたりと閉じ、ショウセツはテーブルの上に置く。その上に手の平を置いて、彼は続ける。


「精霊たちがいなくなってしまったのは、仕方のないことだった。だが急激に不便になった生活に、不満がでない訳がない。事情を知らない民衆からは怨嗟が渦巻き、世は荒れる。

 だからアンゼローザは、自らが『魔女』として悪になることで、人々の不満を王家から全て自分に逸したんだ。

 『滅国の魔女アンゼローザ』を精霊の恩恵を失うこととなった全ての元凶とし、『賢王リンゼバード』を魔女を倒した英雄という筋書きにすることで、英雄は民衆の支持を集めて人々をまとめあげることができ、どうにかヒズリア王国が建国された、と」


 一通り、禁書の筋書きを話し終えてから。

 ショウセツは緊張した面持ちで、ちろりと唇を舐めた。


「あくまで仮定の話だ。……が。

 禁書に書かれている内容は。……これこそが、歴史の真実なのかもしれない」

「真実?」

「一旦、そうと仮定して話を進めるぞ。いいな」


 有無を言わさずそう告げて、次にショウセツは開いたままになっていたもう一冊の本を示す。そこには貴族の系譜が連ねられていた。リーリウム家について記された頁だ。


「元々。この国は、女系の王族だったんだ。本来王位を次ぐべきは、賢王リンゼバードではなく、姉のアンゼローザの方だった。

 しかし。この禁書に則り考えた場合、悪名を被り死んだことになった彼女は、もう表舞台には立てない。だから王位を弟のリンゼバードに譲ったんだ。

 代わりに彼女は、本来の身分と名前は隠して一貴族として密かに生き、影から王家を支えた。

 それが、現在のケラスス家と言われている」


 彼はリーリウム家の家系図から該当の箇所を指し示す。そこに書かれている人物は、旧姓に『ケラスス』と記してあった。


「数代前、ケラスス家からリーリウム家に嫁いでいる人物がいる。それがサンの祖母だ。

 この説で行くと。サンは、の血を引く人間だ」

「だから。もっと直接、王位を巡る権力争いに巻き込まれてるってことなのか」

「違う。それだけの理由なら、そもそもサンじゃなくていい。だったら禁書の話なんかしないさ」


 タンフウの予想を、頭を振って否定し。

 心なしかショウセツは、先ほどよりもゆっくりした早さで話を続ける。


「古来、王位継承の際には、王は精霊たちと契約を交わしていた、と言われている。

 王と精霊とが契約を結ぶことにより、国には安寧がもたらされ、人々には精霊の恩恵が与えられていたんだ。

 当時、精霊たちと契約していたのは、アンゼローザの方だった。だからリンゼバード王でなく、彼女が精霊の力を借りて、世界を救ったんだ。

 しかし精霊の力が失われ、その慣習は途絶えた。本来その契約は、王が変わる時にを変える手続きが行われていたらしい。だが相手の精霊がそもそも姿を消してしまったために、アンゼローザからリンゼバードの血筋にそれが引き継がれることはなく、彼らの代が過ぎてしまったんだ。

 精霊との契約は、前の人物との血の繋がりがものを言う。

 つまり。は、今の王家ではなく、ケラスス家の方なんだよ。

 ……しかも」


 ショウセツは、ちらとタンフウの髪に視線をやった。


「ケラスス家は黒髪。リーリウム家も同様に、黒髪の人物が多い。

 けれどもサンの髪は、茶色だった。目の色もそれに近い茶だ。

 栗毛は別段、珍しい色じゃない。けれども黒髪も栗毛同様、顕性遺伝だ。周りが黒髪ばかりなのに、いきなり茶色の髪で生まれるのは少々不自然だろう。

 そして。

 サンのそれは、史料に遺されたアンゼローザの容貌と一致している」


 前提条件を述べてから。

 慎重な口ぶりで、ショウセツは告げる。


「サンは、かつて精霊たちを統べた、王女アンゼローザの先祖返りかもしれない」

「先祖返り……?」

「先祖返り。両親にはない、それより前の先祖のものである遺伝上の特徴が現れることだ。

 けど。外見だけの話をしているんじゃない。中身の話、精霊との関係についての話だ」


 聞き慣れない言葉にタンフウが首を傾げると、ショウセツは簡単にそう解説した。

 窓の外に広がる森を眺め、ショウセツはすっと目を細める。


「サンは、妙にここの地理に熟知していたな。

 だが、あいつの後に来た配達員は、未だに道がうろ覚えだ。まして近道なんか、探そうという気すらない。当たり前だ。森で迷う危険性の方が高いからな」


 タンフウたちに向き直り、彼はまるで昔を懐かしむように、優しい微笑を浮かべる。


「精霊との契約権限を持つ者は、精霊たちに愛される。ひとたび何かをしようとするだけで、勝手に精霊たちが、精霊珠が、手助けをしてくれるんだ。

 火を使えば、火精サラマンダーに属するものが火加減を手助けし、

 水に入れば、水精ウンディーネに属するものの導きで魚のように泳ぎ、

 外に出れば、風精シルフに属するものの後押しで疾く駆け抜け、

 森に入れば、地精ノームに属するものが道を教えてくれる。

 ……誰かさんにそっくりだとは思わないか」


 三人は、誰も何も言わない。

 ショウセツの言葉に、全員がサンのことを思い出しているようだった。

 そして。全員に、心当たりがあった。


 ややあって。静かに、セイジュが口火を切る。


「……貴族のお嬢様にしちゃ。異様に飯が美味いとは思ってた。天文連合に行く前、うちの貧相な設備ですら一度も失敗したことがない」

「水だってそうだろう。泳ぎはしなかったが、ここの枯れかけた井戸が何故か復活したのは、あいつが来てからだ」

「異様にすばしっこいんだよな。俺らが街に行くより、あいつが買い物に行ったほうが三十分はゆうに早く帰ってくるんだ。顔見知りが多くてちょいちょい話し込んでるくせに」

「……ツヅキを砦に運んだ時も。サンは一切、迷いすらしなかった。夜で視界も悪く、一部は獣道ですらなかったのに」


 四人は自然と顔を見合わせる。信じ難い話ではあったが、何よりも彼らが身をもって経験していたことだった。

 一つ二つの話であれば、さして珍しいことではない。全てを合わせ持っていたとて、偶然と片付けることはできるだろう。

 しかし彼女が、王都で生まれ育った深窓の令嬢であることを考えると、それらの逸話はやはり不自然だ。


「サンは、既に絶えたと思っていた、精霊との契約権限を持ち。

 それを実際に実行できるほどの、精霊との結びつきを持っている」


 家系図を睨みながら、セイジュは不安げに口を引き結ぶ。


「それが、本当であるとして。……サンは、何から狙われているんだよ」

「命を狙われているわけではないのかもしれない。むしろ狙われているのは、その存在なんじゃないか。リーリウム家が危惧しているのは『誘拐』の方なのかもしれない。

 今すぐにどうって話じゃないかもしれないが、いずれ誰かがサンのことを嗅ぎつけた時に備え、タンフウの妹を影武者に」


 考えながら話していたショウセツは、そこで言葉を切り。

 普段より更に低い声で、呟く。



「サンを狙う人物の目的は。

 あいつを玉座に据え、女王にすることだとしたら?

 精霊と契約できる者を王とし、再び精霊と人との互恵関係で成り立つ、古来の精霊術に満ちた世界を取り戻そうとしているんじゃないか?」



 自分で言いながら目を見開き。

 ショウセツは、すとんと椅子に座り込んだ。テーブルの上で肘をついて口元を覆い、彼は視線を落としたまま喋り続ける。


「この前、うちを襲った強盗は。……もしかすると、奴らこそサンを擁立しようとしている一派だったのかもしれない。

 セイジュは本物の風精シルフを宿している。精霊たちは現在、所在が知れずほとんど観測されていない。だが少なくとも、セイジュを手に入れれば風精と契約させることはできるんだ。サンの力の信憑性はより増す。

 だからこそ奴らは禁書を狙ったんだ。万に一つでもこれを読んだ誰かが、目論見に気が付かないように」


 彼の推測を、全て語り終えると。

 ショウセツは再び禁書を手に取り、じっとその表紙を眺める。


「……建国乱舞記を真実だと仮定すれば、全ての辻褄が合う。が」


 彼は苛立ち紛れに、ごん、と禁書の背をテーブルに叩きつけた。


「全部、仮定で憶測の話だ! 何も根拠がない。

 これじゃただの妄想だ。誰も信じやしない」


 悔しげにショウセツは顔を歪める。


「ちくしょう。ただの妄想なら良かった。

 ……!」


 妄想とは言いながら、彼の中でそれはほとんど確信に近づいているのだろう。

 ショウセツの話を聞かされた彼らも同様だった。


 禁書の中身が本当かどうかは、誰にも分からない。

 しかし禁書の内容を信じた者たちが、サンを擁立しようと動いていたとしてもおかしくはなかった。現に強盗は史学会に踏み込んでいる。セイジュと禁書、両方を狙った理由は、ショウセツの説なら説明はついた。


 ショウセツは腕組みし、唸るように言う。


「もし。今回の動きが現王権側の権力者によるものであるならば、禁書という理由で正面から焚書の命をだせるし、セイジュも似たようなやり方で無理やり連れて行ったろう。

 だが表から来ない、ということはつまり。

 ……奴らは、クーデターを起こそうとしているということになる」

「……クーデター」


 ぽつりと、うわ言のようにセイジュが呟いた。


 考え過ぎではないか、とは誰も言わない。

 むしろ考えすぎであればいいとすらタンフウは思っていた。けれどショウセツの話を聞いた今、それを全面的に受け入れる気持ちの方が強くなってしまっている。


 確かに彼らの話には、何一つ根拠はなかった。しかし、しばらくサンと共に過ごした彼らは、少なくとも彼女と精霊との繋がりについては直感で確信したのだ。

 そしてそこを信ずるならば、いずれにせよ彼女の身は危ういことになる。


 おずおずとセイジュが言う。


「駄目元で進言するか?」

「何をだ。今の与太話をか。まず建国乱舞記を前提としている時点で門前払いだ。

 それに下手に進言して、逆にサンのことが現王権側に悟られたとしても、それはそれで厄介なことに」


 ショウセツはそこでまた、はたと言葉を止め。

 ふと、遠くを見るような目つきになる。


「……あいつは。どう、思ってるんだろうな」


 その言葉に、タンフウは息を飲んだ。

 最後に彼が見た、淋しげなサンの表情が脳裏をよぎる。


 禁書とセイジュを狙った一派であれ、現王権側がサンを手中に収めようとするのであれ。

 サンの意思は、そこに存在しなかった。


 彼女が現王権を倒してまで、女王になりたいと考えているとは思えない。

 しかし半分冗談であったとしても、王家に嫁いでギルドを変えたいと彼女が言ったことも、また事実なのだ。


 本当のところは、誰にも分からない。



 黙り込んだ彼らを見回すと。

 話の最中、言葉少なだったユーシュが静かにタンフウに告げる。


「ひとまず。ツヅキを迎えに行ってくれないか、タンフウ。誰もいないところに帰って来たら、困惑しちまうだろうから。

 その間に俺らは、もう少しまともに根拠になりそうな他の史料を探そう。どうせかっぱらってきた禁書もこれだけじゃないんだろう」


 彼もまた、眉を寄せ。

 何かを深く考え込んでいる様子だった。



******



 まとまらない思考を隅に追いやり、タンフウは一人、外に出る。

 目印の布を見つけ、天文連合へ向かう小道へ足を踏み出したところで。


 不意に背後から、聞き慣れない声が響いた。


「これはこれは。ランに言われて来てみれば、まさかな」


 驚き、タンフウは勢いよく振り返る。

 そこに立っていたのは、見覚えのない壮年の男だった。顔に刻まれた皺から相応の年であることは分かるが、すっと立つ姿から放たれる雰囲気は若々しい。真っ黒な外套に身を包み、辺り一面を雪で覆われたその場所で、彼の存在は際立っていた。

 男は真っ直ぐにタンフウを見つめ、薄っすらと微笑を浮かべながら、一歩近寄る。


「まさか。これだけの情報で、真実に辿り着くとはな」

『気をつけろ、タンフウ』


 唐突に現れた霊狐は、そのままタンフウの肩にぴょんと飛び乗る。

 全身の毛を逆立てて牙をむき、あからさまに警戒していた。


『前に言っていた『本丸』は、こいつだ。……俺様の大嫌いな輩の匂いがぷんぷんしやがる』


 霊狐の言葉に、タンフウもまた身構える。

 しかしじっと男を凝視するにつれ、彼の中ではちらりと、微かな違和感が芽生えていた。

 その膨らんできた違和感を後押しするように、男はタンフウに言葉を投げかける。


「久しいな、タンフウ」


 瞬間。彼の記憶の中のそれと、目の前の男とが、かちりと結びつき。

 タンフウは、驚愕して目を見開く。




「……父、さん……?」

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