第7話 「千春の悩み事」

 「………なるふぉど、そういうことだったのね」


 近くのカフェに到着し、さっそくケーキを頬張りながら千春は俺から話を聞いていた。

 ちなみにこのケーキとセットの飲み物は俺の金でもれなく供給されている。進学校でただでさえバイトが禁止されている学生の財布事情は厳しいのに結構高めのフルーツケーキ注文しやがった。

 

 「ちゃんとした事情以外で女子小学生の面倒なんて見ることがあるわけないだろ……。彼女たち本人以外にもご両親の方々とかいろんな人が困っているから断るに断れなかったし、じいちゃん道場あるし」

 「ま、確かにそうね。今どきの子が『ちょっとしばらく学校戻るまでの間剣道やってみない?』とか言ってやらせるわけにもいかないもんねー」

 「まぁ自分からやりたいって言わないと絶対にやりたくないだろうしな。そうなってくると面倒が見れそうなのは俺ぐらいしかいないなってなったんだって」

 「う~~~んケーキおいし」


 こいつ途中からちゃんと話聞いてないだろ。ってか本当においしそうに食うよな。


 「で、面倒を見るって春輝はどんなことしてあげてんの?」

 「そうだな、勉強見てやったりお菓子代わりに買い出しに行ったりとかそれぐらいのレベルだな。次からはトランプみたいなの持ってきてみんなでやったり本持ってきて読んでもらうとかだな」

 「うあー、つまんなそー」

 「仕方ない、外に出すわけにはいかない……。大人の管理がない状態で何かあったらマジで大変なことになる」

 「へぇ、ちゃんと考えているのね」

 「当たり前だ」


 千春がケーキを食べ終えた後優雅にコーヒーを飲みながら更に会話が続く。


 「ってか今の小学生って結構大人びているって感じだけど実際どうなの?」

 「ユニ〇ロやしま〇らを知らなかったり、下着にしか着ないと言われました……」

 「下着にしか着ないって……あんたどういう聞き方したのよ変態」

 「いや、俺の着ている服がそれだって言ったら、そういう返事が返ってきただけだっつーの!」


 変態おじさんみたいに着ている下着事情をまさかドストレートに聞くとでも思っているのだろうか。

 こいつの中で俺の評価は一体どうなっているのやら。

 

 「しかし、服とかアクセサリーのブランドの名前に関しては全く分からん。男子ならゲームとかそういう話しておけばいいんだけどな……」

 「女の子は男みたいに簡単じゃないのよ」

 「まぁでもそういうところは俺が触れる必要もないし、学校の話とかそういうことを話せばいいから特に困らないかな。ってかそういうところを無駄に知ろうとするとそれこそセクハラになりそうだわ」

 「あら、ちゃんと意識高くモラルというものを理解しているじゃない。感心感心」


 そして千春がコーヒーを飲み終わるころにはあらかたの話を終えた。


 「とまぁこんな感じだ。毎週土曜日、公民館でお昼まで見ることになってる」

 「なるほどね」

 「俺の話もいいがお前のことも気になっている。お前は結局のところ部活の話だが、保留中ってだけ言っていたけどももうみんな部活の入部も確定してきているころじゃないか?」

 「そうなんだよねぇ、もう体験入部とかもどこも終わっちゃって本格的に一年生も活動を始めだしてるね」

 「やっぱり俺がはっきりしなかったのが、まずかったか?」

 「んー、別にそれが全てってわけじゃないよ。確かに春輝と一緒に出来るかできないかは大部分を占めていたのは事実だけど、私の中でも春輝みたいに続けるかどうかで考えているとこがあるんだよね」

 「体験入部は行ったのか?」


 もう少し話が長くなりそうなので、二人分追加のコーヒーを注文する。


 「行ったよ。顧問には前から目をつけられてて来なさいって言われた。それだけなら無視しても良かったんだけど、先輩にも声かられちゃってそれは無視すると面倒なことになりそうだから一応ね。レベルは高かったかな」

 「レベル”は”?」


 何か含みのある言い方だった。お代わりのコーヒーが届くとしゃべって乾いた口を潤すために少し口をつけてから話を続ける。


 「ここの道場で大事にしているような礼儀とか精神的な面が壊滅的だったかな。私がちょっと体験入部で見ただけで女子の先輩後輩とかで仲がめちゃくちゃ悪いの分かったし、男の先輩は私に執拗に連絡先聞いてくるし」

 「なるほどな……。まぁでも高校生にでもなれば単純に物事が進まないのは仕方ないような気もするけどな」

 「にししてもぎすぎすしすぎ。あんな空気の中でやっていくとか一苦労だと思う」

 「そうか……。ちなみにその男の先輩に連絡先は……教えたりしたのか」

 

 さっきからそのことが気になりすぎてコーヒーカップの持つ手が震えている。


 「教えるわけないじゃん。面倒くさいし。あら? 不安になっちゃったのかな?」


 俺の様子がおかしいことに気が付いたのか愉快そうな反応を見せる。


 「心配に決まってんだろ。お前に何かあったら困る」

 「あ……そう……。心配してくれてありがと」

 

 俺がそう素直に伝えると先ほどまでと一変急におとなしくなって静かにコーヒーに口をつけた。


 「………」

 「………」

 

 しばらくの静寂の後、千春が静かにこう切り出してきた。


 「ねぇ、春輝。私どうしたらいいと思う?」

 「そこまで嫌な要素揃っているなら無理してやらなくていいだろ。高校生は部活しないとだめだなんて誰も言わないし。剣道を続けたいなら道場に来てやればいいんだし。今日だってじいちゃん千春が来てくれてありがたいって言ってたしな」

 「うん……」

 

 千春がこれだけ悩んでいるのは正直言って非常に珍しい。いつもハキハキしていてなんでもはっきり決める彼女がここまで悩むのだからかなり考えているところはあるのだろう。

 先ほどの話まで聞くと、正直やりたくはないということは分かる。でも何もしないということに負い目を感じているといったところか。

 親に部活をやらないことを言うのが言いにくいとかそう言った俺と同じ類で悩んでいるのだろう。


 「この学校はいるのに頑張ったんだし、それくらいのわがまま言ってもいいだろ」

 「そうかな……」

 「ダメなら道場で練習するほうが良いって言えばいいんだよ」

 「そうね、ちょっと親に相談してみる!」

 「ああ、もしそれでダメだったらまた俺に相談しろ? 幼馴染として俺もフォローに入るから」

 「ありがと、春輝。相談してよかった」

 「なぁに、いつでも頼んなされ」


 千春への事情説明も終わったし、悩みを聞くことも出来た。なんやかんや充実したカフェタイムだと思う。

 ケーキ代死ぬほど痛いのは変わらんがな。

 

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週末くらぶっ! エパンテリアス @morbol

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