狐の手伝い
陽月
狐の手伝い
「ひいじいちゃん、お話して」
遊びに来た、ひ孫の
来年小学生になる彩香は、普段は街で両親と生活しているため、曾祖父の住む田舎のそれも曾祖父が子どもの頃の話は、魅力的な話だった。
「お話かい? どのお話がいいかな」
「狐のお話がいい」
「じゃあ、狐のお話をしようか」
◇
ひいじいちゃんが、子どもだった頃の話だ。
子どもとは言っても、今の彩香よりは、もうちょっと大きかった。もう自転車にも乗っていたしね。
あの頃は、まだこの辺の道は舗装、綺麗な道路になってなくて、砂利道のガタガタだった。自転車で走ったら、ガタガタガタガタ、揺れる揺れる。ハンドルをしっかり握って、必死に押さえていないと、真っ直ぐ走れなかった。
ある日、ひいじいちゃんのお母さんに、お遣いを頼まれた。夕飯のお魚を買ってきてと。
ここからお魚を買いに行くなら、山を一つ超えたところの魚やさんだ。彩香も、ここに来るときに前を通っているだろう。
あそこまでは、彩香が来年から通う小学校まで、行って帰って、もう一回行って帰らないといけないくらい、離れている。
しかも、こっちの麓とむこうの麓には家があっても、山を越える途中には家がない。
そんなガタガタ道を、ひいじいちゃんは自転車で魚を買いに出かけた。
魚屋さんで、家族分の魚を買って、自転車の荷台に木箱をきっちり、くくりつけた。
それで、来た山道を帰る。
荷台に荷物を載せて、ガタガタ道を、えっちらおっちら上る。
そろそろ漕いで上るのは辛い、降りて押そうかと思ったとき、不意に軽くなった。
「手伝ってあげる」
後ろからそう、男の子の声が聞こえてきた。振り返る余裕はなかったけれど、どうやら自転車を押してくれているようだった。
「ありがとう」
ひいじいちゃんは、ありがたく手伝ってもらうことにした。
山道をてっぺんまで上って、一旦自転車を止めた。ここからは下りだから、そのままだと押してくれた子を、おいていってしまう。
上っているときは必死で、振り返って確認できなかったけれど、押してくれてたのは見た覚えのない、男の子だった。
「ありがとう。こっちに行く?」
ひいじいちゃんは、これから下る方を指して、その子に聞いた。まあ、同じ方に上ってきたのだから、下る先だって、同じはずだ。
「うん」
その子は、うなずいた。
「押してくれたお礼、後ろに乗ってきなよ」
歩いて下るより、自転車の方が楽だし、魚が入っているのは木箱だから、潰れる心配も無い。
ひいじいちゃんは、その子を自転車の後ろに乗せて、山を下った。
あの頃は、二人乗りだからってうるさく言われなかったけれど、彩香は二人乗りを真似しちゃダメだからな。
下りきって、一旦自転車を止めた。
「家まで送っていこうか?」
ここまできたらついでだからと、ひいじいちゃんはその子に提案した。けれど、その子は首を横に振る。
「ありがとう、ここで大丈夫」
それならと、ひいじいちゃんは改めてその子にお礼を言って、そこで別れた。
家に帰って、お母さんに木箱を渡した。これで、ひいじいちゃんのお遣いは終わりだった。
ところが、しばらくしてお母さんに呼ばれた。
「魚が一つ足りないんだけど」
ひいじいちゃんはビックリした。魚屋さんと一緒に、しっかり家族の人数分数えたのに、と。
けれど、お母さんと一緒に数えたら、確かに一つ足りない。
「あの男の子、でもそんな」
ふと思ったのは、手伝ってくれたあの男の子のことだった。
けれど、ずっと自転車を押してくれていたし、下りは木箱の上だし、魚を取り出すなんて無理だった。
「男の子が何だって」
つい口に出してしまったことを、お母さんに聞かれていて、ひいじいちゃんは仕方なくあったことを話した。
「それはあんた、狐につままれたね。手伝ったお礼にと、魚を持っていったんだろ」
◇
「それで、夕飯のお魚はどうしたの?」
「ひいじいちゃんと、ひいじいちゃんのお母さんで半分こしたよ」
「その子は、本当に狐だったの?」
「さあ、どうだろう。けれど、あの頃は人と自然が今よりもっと近くて、こういう不思議な話はいっぱいあったんだよ」
狐の手伝い 陽月 @luceri
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