死際のネクロマンサー

@collection

アンドロイドと死者

第1話 とあるニュース番組にて

 画面の中に映るのは二人と一体。これはニュース番組の一部分を切り取った映像。

 にこやかなレポーターの女性と白衣を着た研究者然とした男性がその一体を挟んで会話を続ける。


「と、言うことで今回お呼びしたのはACC《AndroidCreatorsCompany》の社長兼アンドロイド研究の第一人者である藤間トウマ幸一コウイチ社長です!」

「よろしくお願いします」


 そんな無難なやり取りの後、カメラが映すのは中心にいた一体。

 一般的な認知で言えば『アンドロイド』と呼ばれる人工生命体。見た目はそこら辺にいる人間と遜色ない作りの女性型のそれは、瞼を閉じて待機状態にある。


「こっちは『タイプ:ポピュラーズ』のカガミ。ほら、挨拶して」


 藤間が言うと、閉じていた瞼を開き、先ほどの待機状態を思わせる無表情から一変。レポーターの女性と比べても違和感のない柔和な笑みを作りお辞儀をする。


「はい! 私は『タイプ:ポピュラーズ』のカガミと言います! 画面の前の皆さん、こんにちはっ!」

「お、おお~。流石はACCのアンドロイドっ! 本物の人間みたいですね!」


 手放しで褒めるレポーターの女性だが、これは一般的に認知されている。アンドロイドが開発され、人間の暮らしは一変した。

 単純作業はもちろん、職業別に特化されたアンドロイドも存在し、それぞれ『タイプ』に分けられる。

 今画面に映る『タイプ:ポピュラーズ』というのは汎用型アンドロイドで、専門とする得意分野はないものの、一般家庭まで普及している文字通り最も人気なアンドロイド。


「確か、アンドロイドにはポピュラーズ以外にも肉体労働が得意な『ワークマン』だったり、言語、計算能力が高い『アドバイザー』などがいるんですよね?」

「はい。どれもそれぞれ専門分野で活躍している我が社のアンドロイドです」

「そ、れ、で、です! 今回、藤間社長を我が番組で独占取材させていただけるということで……聞きたいことは一つ!」

「……新しい『タイプ』のアンドロイドについてですよね」

「そう! 新型アンドロイド『タイプ:ネクロマンサー』! ネクロマンサーというと……ゾンビ使いとか、そんなイメージがありますけれど――」


 ぐいっ、とレポーターの女性は中央に立っていたカガミを押しのけてマイクを藤間の口元にあてがう。


「――ズバリッ! 何が得意なアンドロイドなんでしょうか!?」

「はは、そうですね……」


 その態度に少し動揺する藤間であったが、冷静をすぐに取り戻す。


「新型アンドロイド。『タイプ:ネクロマンサー』は死者との対話を可能にするアンドロイドです」

「ど、どっひゃあー!? 死者との対話ですか? それは……また、凄まじいですね」


 語彙力をどこかへやったらしいレポーターを置いてけぼりに、藤間はマイクを奪うと――ピンマイクがあるので問題はないのだが――一人でに若干早口で説明を始める。


「そもそも、アンドロイドの人格形成において重要なファクターである感情、感受性能力の再現は今まで難しいものでした。しかし、我が社独自の技術によって可能となったアンドロイドの感情模倣という技術。その技術の更に一段階上を目指した完成系が『タイプ:ネクロマンサー』なのです」

「は、はぁ……?」

「今まではランダムにモニターを集め、記憶の表面部分。つまり"喜怒哀楽"を読み取り電脳化した――」

「あ、あの……一言でまとめられますでしょうか?」


 ごほんっ、と藤間は咳払いを一つ。


「『タイプ:ネクロマンサー』は死者の記憶をスキャン出来るのです!」

「し、死んだ人間の記憶をスキャンですか!?」

「はい。もちろん、様々な条件はありますが可能です」

「これは今まさに技術革命の瞬間を私たちは目撃してしまったのではないでしょうか!?」


 ワイプに映るスタジオの面々の驚きの顔と大きなテロップ。

 少々大げさな演出も、相応しいものに視聴者たちは感じただろう。


「しかし、死んだ人間の記憶と言っても……先ほど藤間社長がおっしゃった通り、喜怒哀楽しか読み取れないのでは?」

「ふ、ふふふ。フウッハッハッーー! 『タイプ:ネクロマンサー』は従来のアンドロイドの三十倍の感受性を持っている! これが示すことは一つ。生者だろうが死者だろうが完璧に記憶を読み取ることが出来るのだッ!」

「お、おおー。最初と藤間社長のキャラが違いますけど、それはすごいことですねっ!」


 高笑いする藤間を置いて、カメラは切り替わり用意されていた映像が映し出される。

 『タイプ:ネクロマンサー』の見た目を紹介するものであったが、それはそれ……普通のアンドロイドとなんら変わらない美男美女の作り。しかし、耳の部分のみ無機質なACCのロゴが入った部品がむき出しになっていて、これが人間とアンドロイドを見分ける一つの指標となっている。

 映像が終われば、また中継先へと画面は切り替わる。


「実は藤間社長……それだけじゃないんですよね?」

「当然。我が社はこの技術を使い『死者の言葉を届ける』サービスを新たに行う」

「死者の……言葉、ですか?」

「そう。この『タイプ:ネクロマンサー』はスキャンだけではなく『再現』と呼ばれるVR空間の生成が出来る。性能的にVR空間の維持は一時間に絞られてしまうが……その中ではスキャンした対象の亡くなるまでの一時間だけ"死者との対話"が可能となる」

「えー、一言でまとめると?」

「死んだ人間の記憶を一時間前から再生できるのだ!」

「その作り上げられたVR空間内に生きた人間が入れる、と」

「そういうことだな! アンドロイドの進化が『死の形』の変化をもたらしたのだ」


 今までの『死』というイメージは"永久的な別れ"というものであった。

 死んだ人間とは二度と会話出来ない。だからこそ、生きている今を大切にする。けれど、一度だけ……たった一度だけ会話することを『タイプ:ネクロマンサー』は可能にした。


「しかし、やはり『再現』にも様々な条件が存在する。一時間しか持たない、というのは先ほど言った通りだが――」

「ああっと! お時間のほうが来てしまったようです。それでは、スタジオのほうにお返ししますねっ!」

「待て待て! まだ話の続きが――」

「こちらACC前よりお届けしました!」


 これは、そんな『死の形』が変化した未来のお話。

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