1-2 そんなお金払えません

春、それは人を暖かくしてくれる季 季節ーー…

車の窓から見える桜並木はキラキラとしていた。


「春って本当にいい季節だよね…ねぇ、聞いてる?」

横でキョトンとした顔で話しかけてくる男。

いやいやいやいや、何故キョトン!?この状況わかってる!?俺は捕まってるんですけど!心穏やかな訳ない!

でもそんなこと言ったら殺される!


俺は乗ったこともない高級車に乗せられて、どこかに連れて行かれている。東京に来たばかりだから土地勘もないし、今どこに向かっているのか分からない。もしかして、東京湾とか…?沈められる?俺…


「あの、…修理代は…おいくらでしょうか」

自分でもか細い声だと思った。でもこんな声しか出ない。この笑顔の男が怖すぎるからだ。さっきからずっと微笑んで何を考えいるのか分からない。男は微笑みながら俺の肩を抱いて来た。それすらも怖い。


「修理代?君の給料半年分かなぁ。」

「はっ!?半年…!?」

馬鹿言え。空き缶で出来たへこみが1年分なわけ無い。理由つけて多額のお金を請求する気だ。なんて奴らに当たったんだ…やっぱり臓器か…それとも半年間の無賃金強制労働か…いずれにしてもしばしの辛抱だ。きっといつか外に出られるはず…


「俺はどうすれば…」

「まぁまぁ、気にしないでいいよ、リラックスリラックス」

あはは、と笑う男。気づけば車はどんどん郊外にやってきた。終いには山の中へと突入する。いよいよ、本格的に怪しくなってきた。俺はもう怖くなって喋るのをやめた。男は相変わらずニコニコしている。



1時間半ほど経った後。


キキーッ

山奥のそのまた奥にある森で車は止まった。白いスーツの男が車から降りる。俺も屈強な男たちに引きずられるように車から降りた。


「なんだ…これ…」

森の奥に開けた土地がある。土地には高い壁が隔ててあり、中は見えない。何故こんな森の中にこんな施設があるんだ。ここは何の施設なんだ。 なにも分からない。情報が少なすぎる。


屈強な男たちが鉄の門を開ける。ギギギィっと重そうな音がする。何も説明がないまま、引きずられるように俺はこの地に足を踏み入れようとしたーー…が。


「ちょっとまってね」男が言うのが先か、視界が暗くなるのが先か。俺は頭に袋を被せられた。真っ暗でなにも見えない。辛うじて音は聞こえる。俺は意外にも慌てず、冷静だった。もうだいぶこの危機的状況に慣れてしまったのかな。きっとこの袋は外に出た後に、どんな様子なのかリークされるのを防ぐためか、などと相手の意図を考えられるまでになった。しかし、それならば車に乗った瞬間から袋をかぶせるべきだ。何故だ、何故今。


「それは君の為を思ってだよ」

「!?」


急に白いスーツの男が声を放った。なにこの人、読心術も心得てるの?怖い。ヤ◯ザ怖い。

「ちなみにボクはヤクザでも何でもないよ。」

…もう何も考えないでおこう。俺の浅はかな考えは彼に筒抜けらしい。


しばらく歩いていると、人の声が聞こえ始めた。てっきり誰か苦しんでいる声が聞こえると思ったが、若い少年少女の賑やかな声が聞こえた。

近くで明るい声色が聞こえる。誰かが近づいて来たようだ。


「あ〜〜!理事長!誰それ!」

「なんで袋被ってるの〜〜?」

少女2人の声のようだ。なんというか、この格好が見られていると思うと、すごく恥ずかしい。よかった、顔が隠れていて。

男は爽やかな声で言った。

「あはは、彼シャイなんだ、だから恥ずかしいんだよ」

…読まれている。くそ。というか、理事長?いま理事長って言った?なんの理事長?



そのあとは建物らしきものに入り、そのまま歩いて行った。周りの人の数が増えたらしく、所々で冷やかしの声が聞こえる。後はドンドンッという硬い壁か何かを殴ったような大きな音も聞こえる。建物の中で一体何が行われているんだ。


「ついたよ、さぁ袋を取ろうか」


袋を取られた。部屋の中は、窓のそばにデスクとその前にソファとテーブルが置かれている。床には赤い絨毯が敷かれており、 部屋の至る所に金色の調度品の数々が見える。どれも高級そうだ。

窓のそばのデスクには『理事長 城本水松』という金のネームプレートが置いてあった。理事長、と言うことはこの人が、じょうもと…?しろもと?…水松…なんて読むんだ…みずまつ?


「さぁそこに座って」

促されるようにソファに座る。ふかふかだ。身体がいい感じに沈む。俺の座ったソファの背後に屈強な男たちが並ぶ。少しでも立ち上がるとまたソファに沈められそうだ。白スーツの男ーー…城本水松が向かい側のソファに座った。相変わらずニコニコしている。気味が悪い。


「ようこそ。我が学校へ」

「がっこう…?」

そうか、ここは学校なのか。あらかたヤ◯ザの取り仕切りる学校か。高い授業料払ってるのだろう。

「だからヤクザじゃないってば」

「読心術…」

「君があまりにも分かりやすいだけだよ〜」

ボソッと呟けば、サラッと返される。ちょっと傷ついた。


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借金のカタに、危険すぎる学校で学級委員をさせられてる話 床波 @tokonamimi

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