借金のカタに、危険すぎる学校で学級委員をさせられてる話
床波
1-1 俺、人生詰んだわ
《ルビを入力…》春のうららかな昼下がり。
公園では子供達が楽しそうにキャッキャッと遊んでいた。
そんな公園で1つのベンチだけ雰囲気が暗い。子どもたちのお母さん方も井戸端会議をしながら重い空気を感じ取っていた。
「はぁぁあ〜〜…」
先程からエンドレスでため息を繰り返す1人の青年。無造作な黒髪に桜の花びらが散っているが、今の青年には華やかな花弁はまったくにあわない。むしろ、その散った花びらで彼が何時間もここにいることがうかがえる。
スーツ姿の彼は、うなだれて足元の石ころを見つめていた。
この青年の名前は
育ってきた島根の施設を卒業し、この4月に上京した。しかし…
「まさか1週間で職なしになるとは…」
泣きそうになりながら呟く空。上京したのはいいが、働き先の町工場が急きょ倒産。社長は借金から逃げるために夜逃げした。結果寮暮らしだったが、寮も差し押さえ。職も家も一気になくなってしまった。
空は握っていた右手を開く。そこには375円があった。そう、空の全財産である。
「東京に行けば仕事なんていくらでもあると思った俺が馬鹿だった…」
空は憧れの東京にやって来たのだ。倒産してもすぐに島根に帰りたくはない。それに、地元の畑仕事を断って、施設の先生の反対を押し切り半ば無理やり出て来た。施設も経営難で今なら帰るに帰れない。そして、空にはもう一つ東京でやるべきことがあった。
職探しに奮闘したが、中々見つからなかった。お陰でネットカフェの利用代だけがかさんだ。
結果、施設にも帰れないほどのお金しか残らなかった。
「どうする…?施設に迷惑かけたくないし…いっそ臓器でも…」
ぶつぶつと呟く空。周りにいるお母さん方がただならぬ雰囲気を察し、子供たちに「見ちゃダメよ」とヒソヒソ話している。
空はだんだん情けなくなって来た。職が決まらない愚かな俺も、ヒソヒソ話すだけで声もかけてくれないこの東京砂漠も、全部が全部、嫌になった。俺は町工場で明るく働いて、親の代わりに育ててくれた施設にお金を入れようと思っていたのにー…
おもむろにスーツのジャケットの内ポケットを触る。そこには1枚の写真がしまわれていた。写真自体は10年ほど前のものだが、空が常に持ち歩いていることもあり四隅はボロボロだ。
そこに写っているのは3歳くらいの男の子と中学生くらいの少年だった。少年が男の子を抱きかかえ2人仲良く微笑んでいる。写真の裏には『東京で待つ。
3歳の時、施設の前にこの写真だけを持って佇んでいたところを保護された空は、その頃の記憶は無い。3歳までの記憶がごっそり無くなっていたらしい。かろうじて言えるのは『さくらいそら』と言う名前だった。
空は、兄を探しに東京にやってきた。
家族の手がかりはこの写真一枚しかない。
正直、この広い東京で見つかるのか不安だが、何年かかっても見つけるつもりでいた。
だが、上京した途端この有様だ。
「だーーー!!!くそ!!!」
いきなり叫ぶ空に、びっくりする周りの人々。空はヤケクソになり、勢いよく左で飲んでいたコーヒーの缶を放り投げる。
朝、今日は職決まるだろうと思い缶コーヒーを購入した過去の自分にも腹を立てていた。
ヒュルルルル… コーン‼︎
勢いよく投げた缶は、弧を描き、公園の端に停めていた、黒塗りのセダンに当たった。
「あ、やば…」
そう思ったのもつかの間、中から屈強なスーツ姿の男たちが出てくる。どう見てもカタギじゃない。ヤのつく人たちだ。
パッと公園の方をみると、もう誰も居なかった。お母さん方は子供を連れて早々に逃げ出したようだ。
まさか…本当に臓器取られる?
「てめーか。こっちにこんなものを投げて来たのは」
1人のドスの効いた声で屈強な黒スーツの男が空の投げた缶コーヒーを持ってやって来た。
空が怯えて縮こまっていると、「なんか言えやゴルァッ」と叫び、缶コーヒーをグチャッと潰してしまった。ヒッと声の出る空。
もう無理、俺、東京で死ぬしかない。臓器根こそぎ取られるか、東京湾に沈められるか…危ない仕事で命を狙われるか…最後に会いたかったよ、お兄ちゃん…
「まぁまぁ、その辺にしなよ」
若い男の声が聞こえた。最後に車から出てきたこの男は、細身で優しい声をしていた。ほかの屈強な男たちとは違い、白いスーツを着ている。周りの男たちの様子で、その若い男が一番上位にいるのがわかる。こいつは若頭がなにかか。
その人は笑顔で、空の前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫?」
「あ…」
優しい。なんていい人なんだ。この人に言ったらワザとじゃないって伝わるかも…
「とりあえず、来てもらおうか。何処でシメるかは後で考えよう。」
前言撤回。こいつは天使の皮を被った鬼だ。
「ははは…はは…」
空は乾いた笑いしか出てこなかった。
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