図書館暮らし。

卯月

地縛霊になったらしい。

 一年前、あたしは車にはねられた。

 高校の帰り、市の図書館へ向かう途中だった。

 ――ああ、この本を返却して最終巻を借りようと思ってたのに、結末を読めずに死んじゃうのか。

 接近する車を見ながら、そんなことを考えていたせいだろうか。


 ふと気づくと、当の図書館の中にいた。

 ケガはどこにもしていないけれど、何となく身体が透けている。

 人にぶつかっても素通りするし、誰もあたしに目を向けない。

 そして、一歩も外には出られない。


 ……これはきっと、地縛霊になってしまったに違いない。


 十六歳で死んでしまった、という事実にショックを受けてはいるんだけれど。

 周囲は本、本、本の山。

 読み放題だぜイェーイ!


 と、一瞬でも喜んだあたしが馬鹿でした。

 ぶつかって素通り、ということは実体がないわけで、本のページをめくることもできないのだ。

 来館者が本を手に取ると、

(そのまま椅子に座れ! ここで読め! 後ろからのぞくから!)

 と念を送るけれど、あたしの声は誰にも届かない。


 指をくわえて書架のタイトルを眺めているだけで、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、そして春が過ぎ。


   ◇


 という話を一気に語り。

(だから、お願い! 最終巻を読んで! そしたら成仏するから!)

 初めてあたしの存在に気づいた、目付きの悪い霊感少年に頼み込むと、彼は制服姿のあたしをじろじろと見回す。

「……俺と同じ学校だよな」

(うん)

「一年前?」

(そうだよ)

「お前、多分生きてるぞ」

(は?)

 ぽかんとするあたしに、呆れ顔で彼は言う。

「『上級生に、事故って一年間意識不明の女子がいる』って話は聞いたことがある。自分が生きてるか死んでるかくらい確認しろ、すかぽんたん」

 すかぽんたんって。ひどい。


  ◇


 速読気味の彼を(ちょっと待って!)と引き止めつつ、何とか本を最後まで読んでもらったあたしは。

 無事に図書館を出て自分の身体に戻り、退院して、彼のクラスメイトになりました。

 未だに、すかぽんたんって呼ばれる。ひどい。



〈了〉

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図書館暮らし。 卯月 @auduki

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