3話 落葉は迷子(後編)

テレプシコーラはどこかにいるはずのこの手紙―葉っぱの宿主のことを思うように、そっと目を閉じる。テレプシコーラがこうして遠くに心を寄せるとき、ぼくは変に悲しいような気持ちになるのだった。それに今日は、さっきのテレプシコーラの台詞が少し引っ掛かっていた。

『これはね―ボクの手にあるのは全部、届かなかった手紙なのだよ』

『これらの宛先はね、全部ボクじゃない誰かへなのだ』

 もしかしてテレプシコーラは、ぼくのかわいい神さまは、手紙を貰ったことがないのだろうか? こんなにたくさんの届かなかった手紙に囲まれて……?

 なんだかそれは―ひどく寂しい。

「ねえテレプシコーラ。ぼく、きみに手紙を書いてもいいかなぁ?」

 そう言ってしまってから妙なことを口走ったかなと思う。より先に、テレプシコーラがすごく嬉しそうな顔をした。それこそ花がほころぶような可憐な笑顔で、ぼくは思わず見蕩れてしまう。

「もちろんだよ、ねぇアウトサイダー、今だね、ボクも同じことを……もしかしてきみ、ボクに似てきたかい? それなら嬉しいな、だからボクはきみとおしゃべりするのが大好きなんだ、アウトサイダー、きみはいつもボクが嬉しいことをしてくれるのだもの!」

 さっきまでの悲しいような気持ちはすっかり吹き飛んでしまって、ぼくはすっかり嬉しくなった。テレプシコーラの笑顔には、きっとそういう力があるのだ。

「こちらこそだよ、テレプシコーラ!」

 テレプシコーラにはどんな便箋やインクで出来た葉っぱが似合うだろうかとわくわくしながら、ぼくも笑って、クリームの入った紅茶を飲んだ。柔らかくて甘い、テレプシコーラの声みたいだった。

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