3話 落葉は迷子(中編)

テレプシコーラは、

「それらはねぇ、アウトサイダー」

 苺を一つつまみあげ、ひとくち齧ってから語りだした。

「ボクの押し葉のコレクションなのだよ」

「そうなの? 手紙のように見えたけれど」

「人間にはそう見えるかもしれないね」

 テレプシコーラはいつものようにそう言って、それからにこっと微笑んだ。

「もちろんそれも決して間違いではないよ? だけれどもね、アウトサイダー、それは純正の手紙ではないのだ」

「純正の……」

「そう」

 少し欠けた苺へぽとっと一匙クリームを乗せる。苺の断面の滲んだ赤とクリームの丸っこい白さが可愛くて、テレプシコーラの手によく似合った。

「手紙というのはね―そもそも、すべての言葉がね。心の芽吹いた結果なんだよ。ひとの心を種として、よろずの言の葉となれりける―。それは何もうたに限った話ではないのさ」

 テレプシコーラは今度はクッキーを一枚音高く噛み砕く。乾いた音が外の木の葉のざわめきに似て聞こえた。

「手紙は一葉と数えることもあるだろう? ただの紙だったものに文字を綴れば、それが心を行き渡らせる葉脈になる。目には見えない言の葉を、手に取れる形に落とし込んだ結果が、それなのだよ、アウトサイダー」

「でも、テレプシコーラ。これは純正ではないのでしょ?」

「その通り」

 テレプシコーラは頷いて、密やかな、だけど情感の籠もった声で言った。

「これはね―ボクの手にあるのは全部、届かなかった手紙なのだよ、アウトサイダー」

 届かなかった? と不思議に思う。でも、それならどうしてテレプシコーラのところにあるのだろう。

「ねぇきみ、さてはボクの本分を忘れてるだろう! これらの宛先はね、全部ボクじゃない誰かへなのだ」

 彼女はくすくすと笑ってから、真摯な、神さまの優美な微笑みを浮かべた。テレプシコーラの本分は、うち捨てられたもの達の神さま。誰も知らないガラクタの物語の神さま。テレプシコーラは手紙の束をそっと、柔らかなクリームを扱うよりも丁寧に掬いあげ、一枚一枚繰りながら歌うように囁いた。

「どうしても出せなかった手紙。途中でどこかに行ってしまった手紙。書き終わらなかった手紙。受け取ってもらえなかった手紙。そういう訳ありの手紙なんだ。本懐を果たせなかったこの子たちは、だからね、このボクのところにやってくるんだ。押し葉と言ったのは、それが理由さ。書いた者からは離れてしまって、依るべき相手も見失ってしまったこの子たちは、いわば落葉なのだよ。それを、ボクが仮の宿となっている訳だ。もし本来の持ち主が足りない葉を探しにきても大丈夫なように保存して持っているのだ。それなので時々こうして読んでいるんだよ。記憶が褪せてしまわないように、ね」

 そう言って、テレプシコーラはどこかにいるはずのこの手紙―葉っぱの宿主のことを思うように、そっと目を閉じる。

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