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 Jは一度たりとも瞬きをしない。濃すぎる藍色の宇宙の中を、ざらざら星が流れていくのを、Jは両の目をいっぱいに開いて見上げている。その目は、どこかの有名な蓮の湖面のように、等しく空を映し出している。

 星の放流なんて、初めて見た。もちろんJもだ。本来の目的とは変わってしまったけれど、こんなもの狙って見られるものではないし、本当にラッキーだ。しばらく見上げていたら首が痛くなってきて、私は駐車した車の横に寝っ転がった。

 携帯端末で調べると、これは一時間ほど降り続くという。私はJに声を掛けようとして、しかしJがぼろぼろ泣いているのを確認して諦めた。

 私の体は冷えていた。Jもそのはずだが、熱に浮かされたやつの体感は真逆なのだろう。無粋な真似だとは重々承知の上で、私は車内からカバンを引っ張り出し用意していた水筒の蓋をひねった。怪しげな老人から手に入れたこの魔法瓶という代物は、絶対に中の液体を冷ますことはない。朝淹れたお茶は迷いなく白い湯気を吐き出し、コップ代わりの蓋に注いだ琥珀色のそれは甘ったるい香りを周囲に振りまいた。

 ふうっと息を吹きかけ、そっと啜った。ふわりと口の中で広がった赤黄色の花の香り。

「キンモクセイ?」

 いつの間にか涙を引っ込めたJが興味深そうにこちらを覗き込んだ。

「うん」

「でも今年は」

「そう。だから……これは、前の年の」

「ああ」

「飲むか?」

「ありがと」

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