シンデレラの魔法
君が髪をセットしてくれた。君のワックス、君のヘアスプレーを使って。アイロンで巻かれた髪はいつもよりなんだか楽しそうで鏡を見るたび私も嬉しくなった。
その日は一日特別に思えて、学校も楽しかった。放課後、君といつもと違うところに遊びに行って、晩御飯を食べた。二人で手を繋いで歩いた。君が先に電車を降りた。寂しくなって、いつもしているヘッドフォンを鞄から取り出したけど、髪が崩れてしまうかもしれないのでイヤホンにした。電車を降りて、改札を出て、家までの道。風が吹いて、君の匂いがした。慌てて顔を上げて君を探すけど、どこにもいなくて。周りを見渡すたび強くなる君の匂い。嗚呼、私の髪か。気づいた途端恥ずかしくなって、誰もいない夜の道にしゃがみこんだ。あんなに探したのに、自分からだったなんて馬鹿みたい。無理やり笑ったけど、それすらも馬鹿馬鹿しくてため息を吐いた。立ち上がって君の好きな歌を耳に流して、口ずさんだ。ここは君が家まで送ってくれた時に少し話す公園。ここは君と手を繋いで歩いた道。君の好きな歌を歌いながら、君の思い出がある場所を一人で歩く、君の匂いがする私。なんだか悲しくなって、誰に見せるでもないが大きくため息を吐いてみせた。
家に着いてお風呂に入ると、君の匂いが少しずつ消えていった。湯船に入る頃にはすっかり消え去って、シンデレラの魔法が解けた瞬間の気持ちってこんななのか、と納得して水面をぶくぶくと揺らした。一時間ほど前に別れたばかりで、明日も学校で会えるのに、早く君に会いたくなった。
「私はシンデレラじゃない。待ってばかりなんて性にあわない。」
明日、君のバイト先まで迎えに行ってもいいか聞いてみよう。お風呂から飛び出した。
酸いも甘いも食い尽くす。 マ菜 @mana27
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