黄昏にて

ハルミチ セイジ

黄昏にて

午後5時半、音楽室から流れ出る柔らかなピアノの音色に撫でられていた校舎も宵に沈みかけていた。

グラウンドでボールを追いかけ右往左往しているサッカー部員達を横目に、ぼんやりと夕陽に照らし出された町並みを眺めながら、ひとり教室で黄昏に暮れる。

この時間は嫌いではない。が、オレンジ色の光に包まれたと思えば、今日という日が闇に沈み、跡形もなく消えさる様を見つめていると、どこか物悲しいものを胸の中に感じるものだ。

光を真横から浴び、鉄塔の影法師が伸びていく。まるでこちらに手を伸ばし、明日へ行かせまいとしているようにさえ感じられる。

とろけてしまいそうな閃光に目をかすめ、おもむろに立ち上がる。よろけながら教室を見渡し誰もいないことを確認した後、教室を逃げるように後にした。

長くのびた廊下の先には一面ガラス張りの雑談スペースがあり、普段は不真面目な男子生徒や、清楚な女子生徒などが跋扈しているはずが、今は見る影すら見当たらない。

何事もなく通り過ぎようとしたその刹那、視界の端に女生徒が窓に佇んでいるのが確認できた。

そこには、するりと長い黒髪に端正な顔立ちの女生徒が夕焼けに向かい見つめている姿があった。

こんな時間に珍しい、と少し立ち止まり様子を伺ってみるが否や、女生徒は夕陽を見つめ、ただ、


ーーー「綺麗」ーーー


と呟き、涙を流した。

彼女の心情にどのような熱情がこみ上げたのか、それは知る由もないことではあるが、その情景はなんとも形容しがたいものでとても趣深いものを感じられた。


もうすぐ、今日が終わる。

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黄昏にて ハルミチ セイジ @harumichiseiji

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