白と黒の雪化粧

@syu1012

第一話 追憶

 冷たい黒。宙を舞う白。

 私の目の前の白と黒の世界。

 その日、私は色鮮やかな世界を失った。






 いつもの朝。見慣れた天井。なにも変わらない私の部屋。

ただなにを見ても、もう私の目には白黒の世界にしか見えなくなった。

そう、色が消えたのだ。

 

 あの日、大切なモノを失った。

冬の夜。真っ黒な空と真っ白な雪。とても綺麗な景色だった。


 私の名前は九条香帆。当時私は22歳。普通の女の子と同様、学業と恋愛に生きていた。

看護師の資格を取ろうと、看護学校に通っていた。

「じゃあ、また後でね。終わったら連絡するね。」

 そう言って電話を切った相手はもうじき付き合って3年になる4つ年上の彼。正直、自分でもとても毎日充実していたと思う。平凡ではあるが、私にとっては満足な毎日だった。学校に通い、たまにバイト。そして彼。お互い時間の合うときはいつも一緒にいた。

 この日も学校を終わらせてまっすぐ家に帰り、もうすぐ記念日とクリスマスのことを考えていた。

クリスマス前に付き合ったので12月は私たちとって楽しみが多い月である。

何をプレゼントするか毎日考えていた。だが、なかなか思いつくものがなかった。3年も付き合うと、誕生日や記念日、クリスマスでたいていの物は贈りあっていた。

「みんな何をプレゼントするんだろう?」

 そんなことを考えていると、携帯が振動する。

『拓海』

 そう表示されていた。

「お疲れ様。今家に帰ってきたよ。」

 私たちは互いに実家住まいなので毎日連絡を細く取り合っていた。

「お疲れ様。あのね、記念日とクリスマスのことずっと考えてたんだけど……。プレゼント何か欲しいものないの?」

 思いつかず本人に聞いてみる。

「ふふっ。うーん、何もないかなー。ずっと考えてたの?国家試験まであと少しなのに余裕だね。」

 笑いながら答える彼の声に、はにかんだ顔を想像しながら

「余裕じゃないけど大切な日だもん。それに勉強はするもん。」

 と、拗ねたように答えてみる。

こういう些細なやりとりが私はとても好きだ。

すると彼が提案してきた。

「記念日は18日でクリスマスはその一週間後だし、あんまり遊んで勉強の妨げになると困るし……。クリスマスはどこも人でいっぱいだろうから、クリスマスは会わないで18日は一泊二

日でお泊まりはどうかな?香帆は国家試験前だからちょっと悩んだけど、息抜きも必要だ

し?なんて~……」

 少し照れながら疑問系で聞いてくる彼。間髪入れずに、

「えっ、ほんと?でも、それがいい!お泊まりなら次の日も一緒にいれるし。ふふっ。楽しみ。」

 思わず舞い上がり、声が大きくなる私。

「記念日の日がちょうど土日で良かったね。それでどこに行く予定なの?もう決めてあるの?」

「日頃の疲れを取ってもらおうかなーと思ってね、温泉とかどうかな?年寄りっぽい?」

 不安げに聞いてくる彼。そんな彼を愛おしく感じながら、

「ううん。行きたい。温泉旅行とか行ってみたかったの。」

 そう言って彼と少しやりとりをしたあと電話を切った。

彼氏と温泉旅行なんて初めてだ。とても幸せな気分を味わいながら机に向かい考える。結局彼との予定は決まったが、肝心のプレゼントは決まってない。記念日までもう一ヶ月もないのにどうしようかなと考え込む。

「ダメだ。思いつかない。とりあえず勉強するか、よし。」

 そして勉強に励んだ。


 数日後、親友から着信があった。

「紗奈、どうしたの?」

「結局プレゼントは決まったの?まだなら良いの思いついたよ。」

 全く思いつかず、親友の紗奈にも相談していた。

「え、なになに~。変な事じゃないでしょうね?」

「そりゃ香帆にリボン巻いて私をプレゼント!でもいいと思うけど~」

「ちょっと紗奈!そういうのはいいですー。」

 笑いながら言う紗奈にちょっと怒る私。

「冗談だって。それでね、写真たてを買いに今ちょうど雑貨屋さんにいるんだけど、この3年間のアルバムなんてどうかな?」

「あ~、いいねえ。たしかにアルバムなんて渡した事ないなー。」

とても良い案だと思った。こんな時、よく分かってくれている親友に感謝だ。プレゼントも決まったので早速家に帰ってからアルバム製作に取り掛かった。3年分ともなるとなかなかの量だ。今までのたくさんの思い出の写真をたくさん現像し、自分なりにメッセージを書き入れた。さすがに勉強と並行しながら作っていたのでなかなか時間がかかる作業だった。

付き合った時からよく写真を撮っていたおかげで、きっと見応えのあるものになりそうだ。

 学校が終わったら毎日自宅にまっすぐ帰り、毎夜少し睡眠を削りながら私は3冊にも及ぶ2人の思い出のアルバムを作り終えた。なんとか3冊も作ったので、作り終えたのは記念日の2日前だった。

「あ、アルバムに必死で旅行の準備全然してないな……ざ。とりあえずせっかくの旅行だし、いつもとは違う服がいいよね。あ、そうだ。いい事思いついた。」

次の日、学校が終わってから、私は電話をかけた。

「あ、もしもし?紗奈今日ヒマ?」

電話をかけた相手は紗奈だった。ちょうど仕事が休みで暇をしていたようで会うことになった。

「それでー、旅行デートの服を一緒に探せと?」

「うん。なに着ようか迷っちゃって。いつもとは違う感じがいいかなって。でもよくわかんなくて。それでアパレル業界で働いてる紗奈さんに選んでもらおうかな~って。」

と、私は少し照れながら言った。 

「相変わらずラブラブですねー。お熱い事でなによりです。」

「あはは~。そうかな?」

「いいよ、いちいち照れなくって。さてと、選びに行きますか!」

「うん、お願いしまーす。」

久しぶりの紗奈と2人の時間。話すことがいっぱいで会話は止まなかった。

「いつもと違う感じなら~、こういうのはどうかな?」

紗奈が持っていたのはとても可愛らしい白いふんわりしたワンピースだった。

「そんな女の子っぽい服、私に似合うかなー。ちょっと無理かも。」

そう言う私に紗奈は服を当ててきた。

「うん、似合う似合う!香帆はいつも動きやすそうな格好ばかりだもん。パンツ姿ばっかりでスカートやワンピースはあまり着ないでしょ。拓海くん喜ぶんじゃない?香帆は綺麗な顔してるんだから、もっと女の子っぽい格好するべきだよ。」

「うーん、ほんとに似合ってる?自信ないんだけどなー。」

自分でも鏡で服を当てながら考えていると

「私の言うこと信じないならもう買い物は付き合いませーん。」

と、紗奈は笑みを浮かべながら答えた。

「よし、分かった。頑張ってみる。」

そうして選んだ真っ白なニットのワンピース。肩から腕にかけて一部レースになっている。可愛さと少しセクシーさもある。

「これで拓海くんもドキドキだね。」

紗奈の言葉に私も妄想を膨らませながらレジへと持って行った。

「服は買えたし、あとは一番大事なもの買わなきゃね!」

少し怪しげな笑みを浮かべた紗奈に付いて行った先には普段入ることの無いような、セクシーなランジェリーショップだった。派手なピンクの内装の店の中に入ると、そこにはとてもキラキラ輝いて見えるランジェリーが飾られていた。

正直、今までそんなに下着にもこだわりを持ってこなかったので、思わず店を見て足を一歩引いてしまった。

「さ〜てと、これが一番大事よ。さ、早くお店に入るわよ!」

 そう言われ、紗奈に腕を掴まれグイグイ引っ張られる。

 一つ一つじっくり見ていると、どれも細部まで刺繍やレース、ラメ、いろんなデザインがあり、どれも可愛く見える。

ランジェリーがキラキラ輝いて見えたのは、店内の照明のせいではなく、どれもが美しくランジェリー自身が輝いているように私には見えた。

 あっけにとられてランジェリーを見ている私に、紗奈が近付いて来た。

「いいのあった?どれも可愛いから迷っちゃうね。まあでも、いつもの香帆の下着よりはどれも可愛いから、どれを選んでも拓海くんは喜びそうだけど。」

 クスクスと笑いながら紗奈が言う。

「セクシー系と可愛い系、どっちにする?」

「うぅっ、セクシー系は私には無理……。」

 紗奈が手に持っているセクシーなランジェリーを見て答える。

黒の総レースでとても綺麗だが、さすがにいきなりは私にはハードルが高すぎた。おまけにTバック。これは無理だ。

「あはっ。そうだよね。と、思ってこれはどうかなー?」

 そう言って紗奈が見せてくれたのは、薄いサクラのようなピンクのランジェリー。うっすらとゴールドのラメが入っており、ひらひらとレースがついていて、先ほどのセクシーなものとはまた違う綺麗さ。

さらにワンポイントでバラの花が少し大きめに、かつ控えめな色でついていた。

私はそのランジェリーに一目惚れした。

「これがいい。すっごく可愛いよ。さすが紗奈。」

 受け取ってじっくり見る。

「でも、こんなに可愛いの、私に似合うかな……。」

 心配そうにランジェリーを持つ私に

「大丈夫、自信持って。とっても似合うよ。むしろ今までこういうのを持ってないのがありえないよ。」

 と、紗奈笑いながら言った。

「たまにはこれで脱マンネリ!ふふっ。」

「マンネリなんてしてません〜!」

 2人で笑い合いながら商品を購入し、店を後にした。


 帰り道、2人で日が沈んだ道を歩きながら今日のお礼を言う。

「今日はありがとね。1人じゃこんなの選べなかった。紗奈がいて本当に助かったよ。」

「どういたしまして。旅行楽しみだね。どうだったか聞かせてね。拓海くんの反応が楽しみ〜!」

「それは期待しないでっ。ていうかそっちを楽しみにしないでよ。」

 思わず照れながらも笑ってしまう。そんなことを紗奈が言うから思わず拓海がどんな反応をするのか想像してしまう私。

「とか言って、香帆も拓海くんの反応が楽しみなんじゃないの。顔に出てるよ。」

「べ、別にそんなことは……」

 そんなやりとりをしていると、

ピコンと携帯がなる。

「噂をすれば……?」

 と、紗奈がにやけながら聞いてくる。

「はいはい、拓海からのメッセージですよー。」

「拓海くんなんて?」

「えぇ〜と……、とうとう明日だね。準備できた?風邪ひかないように温かくして、今日は早く寝るんだよ。かく言う俺は楽しみすぎて寝れそうにないんだけど(笑)だってさ。」

 拓海からきたメッセージを読み上げる。

「もう〜、ほんと相変わらずラブラブね〜。いつも2人のおかげでお腹いっぱいだわ〜。」

 と、茶化すように言う紗奈。

「そんなわけで、マンネリは大丈夫でーす。」

 紗奈といる間、ずっと笑いながら帰路に着いた。


 家に着いた私は、拓海に返事を返してから、明日の旅行の荷物を詰めた。

荷物を詰めていると、部屋のドアがノックされる。

「明日の準備はできた?忘れ物しないようにね。」

 母が様子を見に来たようだ。

「もう、子供じゃないんだからー。大丈夫。」

 少しふてくされて言うと、

「これ、拓海くんへのプレゼント?」

 そう言って母が手に取ったのは、3年分のアルバムだった。

「3冊もあるのね。すごいわね、頑張ったじゃない。」

 と、アルバムをペラペラめくる母。







 

 
















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