第6話 結末
祠を飛び出した僕と村長は森の中を足を早め抜けていく。暗さなど関係なく、来た道を急いで引き返す。ただ一つのために。
「もう少しですよ」
彼女の家が近くなり村長に一言かける。村長はそわそわした雰囲気でどこか落ち着かない。
「そ、そうか」
「どうしたんです?」
気になり、聞いてみると汗を垂れ流しにしていた村長が悩みを一つ打ち明けた。
「・・・忘れられていないかな」
その悩みは祖父としての「存在」の悩み。確かに彼女は幸さんの生まれ変わりで、俺のことも元の名前のことを知っていた。でも覚えているのはその事だけかもしれない。そんな懸念を抱き、恐怖と立ち向かい村長はこの場にいた。
「大丈夫ですよ。きっと」
最後の言葉を小さく呟き、前を向く。そして目の前に迫った彼女の家に足を踏み込んでいった。
足を踏み込むといつも通りの玄関が目に入る。この光景を見て僕は少し落ち着き彼女の名前を呼ぶ。
「曦さーん?」
玄関から大声で呼ぶ。二回三回と呼んでも返事はない。これもいつも通り。この二つのことで僕は安心し、階段を一段一段登っていく。まるで彼女と初めてあった時のように。
階段を登りきった先に彼女は待っていた。始めた会った頃のように優しく微笑みながらその場に佇んでいた。ただ一つあの時と違っていたことがあった。それは彼女がカーテンを開け、月の光を浴びていたのだ。月光病の彼女が月の光を浴びる。それは自滅行為にしかならないことで、ありえないことだった。でも今は違う。なぜなら僕が願ったから。月の花に願いを託し、僕はかの場へとやってきた。月の白い光が彼女を包み込み。彼女が発行しているかのように見える。
「幸なのか?」
か細い声が隣から聞こえてくる。その声は村長の声で幸さんの存在を確かめているものだった。
「久しぶり。おじいちゃん」
天使のように微笑み、言葉を告げる。その言葉を聞いた瞬間村長の眼から涙が溢れ出しその場で座り込んだ。その涙は祖父としての「安心」なのだろう。
この時僕は異変に気付いた。自分の存在が消えて無くなっているような気がしたのだ。ふと手を見てみると手の甲が半透明になり床が見える。そして僕は悟った。『これが運命なのだ』と。
最期の別れをするため僕は彼女のそばへ足を進めた。
「よかったよ。本当に良かった」
僕は幸さんに抱きついた。子供のように泣きじゃくり、幸さんは困った顔をしながら僕の頭に手を置き、やりたいことを僕に告げた。
「また、お弁当食べたいね」
でもこの夢は叶うことはない。そのことを知っている僕だから余計に胸が痛くなり、 苦しくなる。このことを伝えるべきなのかとても迷い、少考した後僕は口を開いた。
「ごめん。その約束はできない。僕は君の病を治した代わりに命を捧げた。それがこの世界の理だから」
僕はうつむきその場を後にしようとする。でもその行動は彼女の言葉によって阻まれた。
『知ってるよ?』
意外な言葉が彼女から帰ってきて僕は行動や思考が全て停止した。なぜ彼女がそのことを知っているのかはわからない。でも一つわかることはもう僕が消えかけているということだ。さっきまで半透明だったのに今ではもう透明にまで進んでいる。
「そろそろお別れみたいだね。今までありがとう。大好きだよ幸さん」
「こちらこそありがとうね。達也くん」
こうして僕はこの世から消えた。記憶とともに。
雪月花-Crystal of snow- 皐月泰汰 @yamadakanata
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