第2話

「僕の好きな人分かった?」

まだ分からないと答える君。その表情の奥にどんな気持ちがあるのか。僕には到底想像出来ない範囲だ。あれからもまたいくつかヒントを出して、もう分かるだろ、ってところまで来ているはずなのに。

いや、分かっていながら分かってないふりをしているのか。でも、そんなことをする必要はないか。なんて、ずっと考えて考えてを繰り返す。ずっと遠くに見える君の背中に追いつける気はしない。むしろ、まるで遠ざかっていくような、そんな感覚だ。

なんだろう、この変な気持ちは。上手く言葉に表せれない。まるで、言葉にした瞬間にどこかに消え去ってしまうかのような。そんな気持ちだ。ぐちゃぐちゃして、ゴロゴロ転がって、どこがどこか分からないくらいに混ざり合う。

僕は本当に彼女が好きなのだろうか、

それは果たして本心なのか、

まるで分からなくなってくる。本当は彼女のことはそこまで好きじゃないんじゃあないか、なんて気持ちさえ湧き上がってくる。

彼女に気づいて欲しいのになのに気づかれたくないと思わせるこの振る舞い。自分でも分からない。僕は怖がっているのだろうか。彼女に自分の気持ちがバレることが。

わからない。どんどん分からなくなってくる。そして、「あの頃」に戻りたいという気持ちだけが1人明確に僕の心を締め付ける―――

「楽しみだね」微笑みながらそういう君。

「うん、ものすごい楽しみだよ」僕もまた笑顔で返す。

僕達は今、原宿にあるとある建物の中にいる。小さいレストランが何軒か並び、僕達の前には人が20人は余裕を持って立てそうな広場が広がっている。その広場の奥に一段高くなったステージがある。そこにこれから、彼女の好きな2人組の歌手が現れ、フリーライブを行う。。それを目的に今日はここへ来たのだ。

まだ時間があるからなにか食べよう、と僕が提案すると、彼女はすぐに「いいよー」と返してくれた。話し合ってクレープを食べることにした。僕はいちごとカスタードの、彼女は抹茶とアイスクリームの乗ったクレープ。僕達はそれを美味ししうに口の中へ運ぶ。目を合わせる度に笑い合い、もう少しだね、と時間を確認する。そんな事をしているうちに時間がやってきた。証明が落ち、ステージだけが照らされる。そこに大きな音楽とともに韓国人のヴォーカルユニットが颯爽と現れ、1曲目を歌い出す。隣の彼女はすごい笑顔でステージを見つめていた。

―――そのフリーライブはあっという間に終わった。綺麗な日本語と歌声で包み込んでいた広場は元に戻っている。

「やっぱり楽しかったね」

「うん、来て正解だったよ」実はこのユニットの話は前から彼女から聞いていた。しかし、実際に見てその歌を聞くのは初めだったのだ。生で見てみるとなるほど、彼女が推す理由が分かったような気がした。

腕時計を見てみるとその針先はまだ6時27分をさしていた。

「まだ時間早いから、どこかで夕飯食べてく?」僕は思わず聞いた。まだ彼女といたかったからだ。

「うん、いいよー。それじゃ、あそこいこー」

「あそこって、、あのこの間言ってたカレー屋さん?」

「うん。美味しいから連れてきたかったの」

「よし、じゃ決まりだ!行こー」

―――お店に着き、メニューを店員さんに告げそこから5分くらい待った頃。

「うわぁ、美味そ、、」思わず目を見開く。目の前には、僕の顔の1.5倍くらいの大きさのナンとすこしスパイシーな見た目をしたカレーが置かれた。

最初はカレーだけで1口。

「うんんん美味しいい!」

「でしょっ、連れてきて正解だったっ」

そして彼女のところにも、カレーが来た。彼女の前に置かれたのは、いわゆるグリーンカレーというのだろうか、そんな感じの僕にはよくわからないカレーだった。それを彼女は美味しそうに頬張る。美味しいものを食べているからだろうか、余計に会話が弾んでいる気がする。

なんて、気づけばそれもまたあっという間だった。

「美味しかったね。ここ教えてくれてありがと」

「うん美味しかった。また今度どこか食べに行こうね」

この日は幸せな1日だった。


―――この頃は、僕も彼女もまるでセットのようなそんな生活をしていた。近くのショッピングモールに行く時も、学校の中でもよく一緒にいた。そのせいか、付き合ってるやらカップルやると多少冷やかされたりしたがどこか悪い気分にはならなかった。むしろ、少し嬉しかったくらいだ。

だけど今は、、、

この頃に比べて都心のほうへ出て遊ぶことも少くなってきているどころか、今年はまだ1度も行っていない。本当はもっと遊びたいのに。なんてそんな気持ちをあかせる訳もなく、もうあの頃みたいには遊べないのかな。そんな不安だけが頭をよぎる。思い出した幸せは風に吹かれて舞っていった。残されたら僕は1人、過去を思い出しては涙を流していた。

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