第14話
『諦めも肝心』
そう言った友人が居る。僕は、確か彼に対してこう返したと思う。
『確かにね、でも、足掻くことも力ではあると思うよ』
この状況下で、足掻く。
その死刑宣告までの寿命を縮めるだけの効果しか無さそうな行動に、意味はあるのだろうか。
彼女の意識が戻るまでの余命を、僕は甘んじて受けるしかない。この世の中で通用するのは、結果と真実のみだ。
僕は彼女の胸を触った。それこそが結果であり、真実だ。
ならばこそ、彼女の下した判決を素直に認めるしかないだろう。なんて頭の片隅で考えつつ、僕は朝食を食べる。
――馬鹿なのか?
と、思うかもしれない。
けれど、待ってほしい。事の発端は〝今〟から10分ほど前の話だ。
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僕が胸を揉んでしまってから、およそ体感で5分経った頃。
「・・・・・・・・ぃ・・・・・・」
「・・・・!・・・・・・大丈夫、ですか?」
僅かばかりの声が漏れた彼女に気付いて、僕はそう声を掛けた。まず、謝ったほうが良いんじゃないか、それでも言い訳?なんて考えているうちに、どうやら彼女が気付いたらしく、僕は蒼白になった。
過去の重罪人宜しくの死刑待った無し状態。まさに僕は警察へ被害届を出される可能性だって有った。
「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫よ」
「・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
だから、その答えを理解するのに僕はたっぷり10と数秒を要した。それでも尚、空耳だという事を疑い、僕は自分の足を全体重を込めて踏みつけた。
「ッ!」
――痛かった。
だからこそ現実だと分かり――さらに混乱した。もう意味が分からない。
どういうことなのか。目前で、淡い笑みを取り戻しつつある少女が告げた言葉の裏にある冷酷なトラップを警戒して――
「何きょろきょろしてるの? だから、許すって言ったの・・・・・・・・・・もう」
「…………え、もしかして、本当に?」
「あれ?口調が崩れてるね。もしかして、それが君?」
「え?」
復帰してからの、彼女は凄まじかった。いつもよりも、(なぜか)機嫌が良いように見える表情で――というよりも、幸せそう――僕へと語り掛けてくる。
僕は、安堵からか疑問からか、警戒からか、何だか上の空で聞いていた。
それでも、彼女から告げられた一言で蘇る。
(そうですかね・・・・・・・・・・)
「……わからない。何も」
「そっか――。……ね、さっき私に何て言おうとしてたの?」
「さっき……?」
「ほら、私の胸を獣の様に
弄ってないですよっ! と否定したら彼女の瞳は僕に向けて言うと思う。有罪判決を。僕に残されているのは、彼女の言葉を甘受するのみ。
何たる屈辱と無力感。世の中で妻に勝てる夫が少ないわけだ。
それと、同時に。
今更になって、緊張が高まる。先程あんな彼女の尊重を踏みにじるようなことをした直後に、こんな事を言っても良いのか。
そんな権利も資格も、既に僕に無いのではないか。そんな風に思えることが溢れている。
――けれど。
彼女の顔を見ていたからなのだろうか。
幸せそうな、いつもよりも活力に溢れたような珍しい顔。僕だけしか知らない、彼女の見せるたった少ない一面。
何だか、どうでも良いような気がしてきた。
だからだと思う。
僕は、少なくとも僕の中だけでは、笑顔になれていたと思う。少しだけ、フッとした笑みで、僕は告げる。
この先の全てを決める、その言葉を。
「僕と、デートしてください」
印象的だったのは、彼女の驚いたような、朱に染まった顔。その瞳が激しく揺れていたのを見て、僕は少しだけ嬉しかった。
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