第13話
朝食をなるべく素早く食べ終えて、僕は自分の部屋へと戻った。アパートだけれど、全部で三つの部屋があって随分と広い。
それなのにお手頃なのは、ひとえに大家さんの優しさがあってこそだと思う。
バイトだけでも賄え、それでいて僕に少しずつ貯金できる程の金額が残すことが出来るのは、このアパートの賃金が上手く設定されているから。
部屋に戻ってから、はたと失敗に気付く。というよりも、最初の疑問に回帰する。
(彼女はどうするのかな?)
できるなら今すぐ御帰りいただきたいところだけれど、朝食を作ってもらい、尚且つそれを美味しく頂いてしまった僕にその権利は無い。
彼女が帰る気になるようになんとかするくらいしか、僕に力は無いのだ。
なんて無力なのか。
彼女の事を考えつつ、僕自身も今日の予定について考える。このまま家の中にずっと居るなんて、僕の精神的に不可能。
というよりも、バイトを休めるのだからこそ精一杯満喫しないと、だろう。
(折角だから、彼女も誘ってみるか)
珍しい考えだな、なんて自分に対して抱きながら、僕は苦笑する。何処に行くのか――そうだな、動物園なんてどうだろうか。
眺めているだけなら疲れないだろうし、可愛い動物と触れ合える機会も少ないと思うから。
(それなら、準備からかな)
っと、思うけれどすぐに気付く。
(彼女に、まずは聞こうかな)
きっと、返事は分かるけれど。
僕は部屋の扉を静かに開く。せめての意趣返しと、僕は最大限に慎重になりながら足を進めた。
キッチンで、僕に背を向けたまま何かを洗っている彼女の姿が見えた。
それに、少しだけ笑みを浮かべて僕はさらに足を進める。そのまま、彼女のすぐ後ろに辿り着いた。
けれど彼女はまったく気付かず、鼻歌を唄っている。呑気なものだな、なんて思うけれど、どうなのだろう。
そういえば、僕は彼女の事をほとんど知らないことがわかった。休日にもなって気付くことなんて、あるんだなぁ。そう思うけれど、今更かとも思う。
どちらにしろ、僕がこうやって暇になる日なんて1年を通して少ないのだ。それこそ、たった1日しか無い年だってあるかもしれない。
――そんな呑気なことを考えつつ、上機嫌そうな彼女の肩へと手を伸ばし・・・・・。
「〝
「ひゃあっ?!?」
―――ドン!・・パリンッ!
「ッ!・・・・きゃ?!」
「え?」
―――ドダダン!
僕の手が触れた瞬間に物凄い勢いで反応し、その拍子に彼女の足が近くのゴミ箱にぶつかった。さらに驚き、手から落ちたお皿が洗面台の上に落ち、少しだけ欠け、その破片が彼女の指を薄く切る。
指と足の痛みでバランスを崩した彼女は、何の抵抗も無く後ろに居る僕に倒れ――
――っと、まずは先に説明をしようと思う。
僕は、小さい頃から我流だけれど体を鍛えている。走り込みだったり、本当の対人戦も何度となくこなした。
そんな事から、力は平均よりも異常に高く、反応速度もかなり高くなっている。だからこそ、こんな事態に対応出来る。いや、出来た。
――ただ1つ。その対処法についてはまったく勉強していないことに気付かされた。
「ぁ・・・・・ぅ・・・・・・ぇ・・・?・・! あぅ~~!」
何とも可愛らしい声だ。
なんて、僕はガラス一枚を隔てた遠くから聞くように思った。支えるために、抱き寄せるような形になってしまっている僕。
けれど、問題はそこじゃない。腕を掴もうと伸ばした僕の両手は、見事にその目論見を外れて・・・・・・まるで僕の意思で動かしたかのように――
――彼女の豊かに膨らんだ胸を鷲掴みにしていた。
今すぐに離したい。けれど、彼女の体重が僕に大幅にかかっていることから、彼女が未だにバランスを取れていないことに気付いていない。
胸を掴んでいる手前、そんな事言い辛い。その結果として、僕はせめてもの抵抗で胸から肩へと手を動かした。
そのまま、彼女を押し返すように少しだけ力を込めると、無意識にも彼女の体が理解したのか体から力が抜けていく。
そのまま、宥めるようにして静かに力を抜いていき、それと同時にゆっくりと後ろに下がり、手を離して――
(・・・・・・・・・・・・・・! ……ふぅ)
なんとか、僕は手を離して彼女から距離を取ることに成功した。
といっても、今の彼女を見てそれが何ら意味があったのかどうかは分からない。いつもの、小悪魔のような笑みはすっかりと失せて、年相応の真っ赤な顔で俯いていた。
――やってしまった。
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~後書き~
ラッキースケベ・・・・・・なのに何だか違う方向に進みそうな予感も・・・・・あれ?
ここで、一章分の繋話となります。この後、次の・・・・・というよりもいちゃいちゃ回が来ますので、楽しみにしていてください。
――まあ、といっても私が出せるいちゃいちゃはとっても度が低いですけど(要検討中)
此処まで私の拙作をお読みくださり、ありがとうございますっ!
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