第4話


 放課後。

 部活動と呼ばれる教師に対する無給の残業時間は、生徒の過半数が待ち望んだ時間らしい。らしい、という言い方も、僕がその例に入らないからのことだ。

 何を隠そう、僕は部活動に入っていない。


「急いで!――に怒られるよ!」

「ま、待ってよー!」

「部活だー!」

「ひゃっほー!」


 エトセトラ、エトセトラ。最後の人はきっと動物園の宣伝がしたのだろうか。僕には人間の声だとは思えなかった。

 所謂帰宅部という何ともセンスを感じる部活動に所属する僕にとって、放課後というのは実に気楽なものだ。


「それじゃあ、また明日ね!」


 今日も散々僕を弄ってきた彼女も、放課後は大人しく――といっても何が大人しいのかは不明――部活に行くため、僕には日常が回帰する。

 誰も声を掛けてこない。聞こえるのは騒がしい喋り声と廊下を駆ける足音。


 遠くから怒鳴り声が聞こえた。

 どうやら廊下を走っていた人達が教師に叱られているようだ。中々に厳つい顔をした男性で、僕にとってはその程度である教師。


 そんな喧騒すら、僕には靄の掛かったエコーにしか聞こえない。まるで窓の外の雨みたいだ。

 耳の遠くで木霊する喧騒を遮断しながら、僕は黙って歩く。


 階段を下りて靴を履き、そして門へと一直線に歩く。勿論僕と同じ帰宅部に所属する人がちらちらと見えたりもする。

 けれど、帰宅部に加入する人のほとんどが何かしらの理由で1人になりたかなった者たちだ。わざわざ話しかける必要も無いし、逆に迷惑になる。


 それに、僕にだってそんな技能は無い。


 

 低木が両脇に植えられた道を歩いていくと、だんだんと商店街へと近付いて行く。都内にある高校だからか、この道は本当に人が多い。

 祭り騒ぎかと思えるほどに混雑する人混みの中を黙々と進んで行けば、最寄の駅に着いた。


 そう、僕は電車通学だ。自宅、というよりも住んでいるアパートは3つ程隣の駅から歩いた先にある。

 慣れ親しんだSHUIKAを使って改札を通り抜け、電車に乗り込む。


 此処まで来ると、やはりもう誰も周囲には居なかった。僕の向かう方面は田舎の方向で、今の時刻は3:12。ホームには遠くまで見れば1人か2人見える程度であった。

 

 電車に乗り込み、僕はアパートへと帰宅した。





 * * * * * * * * * * * * * * * * *






 朝の4:13。僕は自然とこの時間に起きて動き始める。今日は平日であり、この後に学校がある。

 急いでいけない。


――ピコピコ♪


『バイト頑張ってね!それと、朝ごはんは私が作っておくよー』


 彼女からのメールだった。――しまった!既読を付けてしまった。これで僕は返信をしないと後で彼女の逆鱗を買ってしまう。

 かといって、このメールに返信するというのは難易度が高いのではないだろうか。


 冒頭から意味が分からない。なぜ彼女は僕の生活時間を知っているのだろうか。今メールが来たのも、恐らく故意だと思う。


――ピコピコ♪


『返信はしなくていいよ!時間大丈夫?』


 え?あ・・・・・・・。気付けば5分ほど経っていて、貴重な朝の時間を減らしたことになる。これは急ぐ必要ができてしまった。

 彼女への返信をしないで、僕はバイト用の服装に着替えてからアパートを出た。



 朝の空気が僕の肌を撫でて、心地良い気分になる。やはり、真夏の朝というのは丁度良い気温というものなのだろう。

 未だに眠る街並みを耳で感じながら、僕は近くのコンビニへと走った。


 冷たい空気と暖かな気温が僕に纏わるように吹き抜けていった。


 

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