第5話
社会に措いて、一般的な人から置いていかれた者はある一定の数存在する。それは、この田舎の街でも同じことであり、そして一様にそういった人達は早朝に用事を済ませに来る。
「いらっしゃいませー」
間延びした声で歓迎を告げる、レジの店員である‘
深夜0時から早朝6時まで働いており、それ以外はずっと家に居るらしい。
それの真偽は定かでは無いが、けれどあながち間違っていないような気もする。まあ、それもただの勘なのだから証拠は無い。
店に入って来たのは、蓮太の同類である男性。酷くやつれた顔と膨らんだお腹をしていて、暗い雰囲気で迷い無く進んで行く。
その先は、同人雑誌の場所。迷い無くその中から一冊を抜き取り、男性は蓮太のレジへと向かった。
「ありがとうございましたー」
「またお越しください」
店から出る男性に掛けた蓮太の不十分な言葉に僕が付けたし、男性はそれを一瞥することも無く去って行った。
ところで、僕が何をしているのか分かるだろうか?
簡単だ。
「飲料水は・・・ちゃんと有るね。駄菓子は確認したから、次は清涼飲料水かな」
店にある商品の在庫確認だ。元々は蓮太の仕事だったのだが、まったく動かない上に本人も拒否する始末。
結局僕の元へと回ってきた仕事だということだ。元々は、僕もレジの店員である。
「お疲れ様ー」
気の抜けた応援を投げてくる蓮太を一瞬だけ横目で見て、僕は作業を続ける。いかに小さなコンビニだとしても商品の数を侮ることは出来ない。
駄菓子や飲み物を合わせれば100種類に届くかもしれない。その在庫全てを確認するのだから、僕は相当頑張らないといけない。
――プルルルッ!
突如着信音が鳴った――次の瞬間には蓮太が何処から取り出したのかスマホを握っていた。黒いスマホを耳に近付けて、何か話しを聞いている。
「――!――った。――――、―――!」
表情から、簡単な問題でないことが理解出来た。まったく以って僕の預かり知らぬ場所でそういった出来事を起こしてほしい。
僕は平凡で影の存在みたいに目立たずに過ごしたいのだ。
明らかに厄介そうな出来事が、勝手に僕の方へと歩いて来たみたいだ。
「すまん、当番頼む」
「大丈夫ですよ。その分、給料と僕への貸しを貰います」
「ありがとう」
今までとは一変した真剣そうな声音で区切り、蓮太は更衣室へと駆けて行った。そのすぐ後に、慌しく布の落ちる音が聞こえてくる。
けれどそれもすぐに収まり、そして足音が遠ざかっていった。
――ガチャ。
ドアが開く音がして、その直後に足音が完全に消えていった。そしてドアが閉まる音がして―――完全な静寂が訪れた。
残されたのは僕と――仕事だけだ。
「さて、後で店長にしっかりと給料アップしてもらわないと」
そう小さく呟いて、僕は商品の確認を始める。
何てことは無い。ただ、それが僕の日常であり、理想の僕が実現出来ているのだ。
* * * * * * * * * * * * * *
バイトが終わったのは、めでたく6:42。今からアパートに帰ると考えると、朝食は7:00過ぎになりそうだった。
『今から帰るよ』
恐らくアパートに居るであろう彼女にそう送信して、僕はコンビニを出た。来た時とは違って、だんだんと暑さが滲み出るように太陽が覗いている。
まったく、これだけ頑張った僕に対して太陽は熱中症への危険度を上げてくるんだから困る。少しくらい最高の気象を創りあげてほしい。
なんて考えながら、今度は歩いてアパートに向かう。
――ピコピコ♪
『朝ごはんは、目玉焼きと味噌汁つくっておいたよ』
『ありがとう。けれど君には、いい加減僕の家に来ないでと言いたい』
既読は、付かなかった。流石彼女のことだ。きっと内容も理解した上で無視しているに決まっている。
家族の居ない僕にとって、朝食を作ってくれる彼女はとても嬉しい人物だけど、その分僕の心労も増える。
まず第一として、なんで僕の家に来るんだ。彼女とは中学からの付き合いで、度々話すことはあったけれど、逆にその程度だ。
彼女は才色兼備で容姿端麗。勉強のスポーツも出来て素晴らしく可愛く綺麗で、そして優しい。中学、いや高校に入った今でも彼女は告白を受けている。
しかも、1週間に1回は告白されているのだから彼女の人気は理解出来ると思う。
そんな彼女が、僕の家に来て朝食を作る意味が分からない。大体僕は彼女の所為でクラスから嫌われているのだ。
まあ、それに4割くらい僕が話さないという理由も加わるけど。
深い謎に包まれたまま僕は、アパートの前まで来た。
――ピコピコ♪
『お風呂借りてるよー』
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