第2話
真夏。それもこの暑さともなればエアコン・・・・もといクーラーの必要性を求めたい。国の偉い人達は理想の国だとかなんだとか言ってるけど、そんなのを言う暇あるなら将来の可能性を持った学生への配慮を身につけるのが重要だと思う。
なんて授業中にも関わらずに意識を逸らしながら、僕は窓の外を眺める。
――外は綺麗だ。
僕は、高い場所から外を眺めるのが好きだった。だったというからには、今は違うのか―――
―――その通り。
まさしく僕は高い場所からの景色が嫌いになった。まるで氷の像を叩き割ったように、僕の好みは崩壊してしまった。
後に残ったのは、何故あの頃の僕はあんなに好きだったのだろうか、という疑問と屈辱。
鐘が鳴った。
授業に集中していた者も、そうでない者も違わずに雰囲気が和やかになる。未だに教師は立っているというのに、この緩い雰囲気になるのは果たして喜べば良いのか嘆けば良いのか。
とりあえず、僕は無視を決めている。影になれば誰も気にしないのだ。
――ただ1人を除いて。
「さっきぶりだね。また、君はそこでボけーっとするんだね?」
「・・・・・・・・そうだね。僕は1人で居るのか好きなんだ」
「ふふっ。なら、私も隣に居て良い?」
「喜んで」
僕に話しかけて来る人は少ない。それは僕が他人と壁をつくる性質があるのと同時に、裕福な家で産まれたことが関係している。
大手に手が届く企業の会社を勤める父と、国民的な人気を誇る歌手の母。お金に困ったことなど無く、家も屋敷みたいなところに住んでいる。
――いや、住んでいた。もう3年も前の話だ。
所謂良いとこのお坊ちゃんである僕は、銀行に多額過ぎる金額が預けられていた。一生遊んでも後世に託せるような、莫大な金だ。
それが理由で、僕は苗字を名乗れない。この苗字は、存在するだけで危険だと思う。
だからこそそんな奇妙な人は目立つのだが、けれど彼女は気にしない。僕も拒絶をしないから彼女は好んで僕の隣で静かに外を眺める。
「ほら、綺麗な青空だね」
「・・・・・・僕は嫌いだけどね」
「うん。だからこそ、私と同じ好きになってほしいの」
「難しいよ」
「頑張ってるじゃない」
「知ってる」
彼女と話すと調子が狂う。僕は1人で黙々と読書をするのが好きなんだ。なのに明るく優しい彼女との会話は続いてしまう。
隣に居たはずのイケメンは、人気者の特権みたいに他のグループに突撃していた。
――騒がしいな・・・・・。
クラスの中は賑やかな喧騒と笑いで溢れている。
けれど、僕の周りは静か。誰も居ない。隣に居る彼女は、僕に寄り掛かるように外を眺めるだけだ。
休み時間は10分で、彼女はそろそろ元の席に戻る。
僕とは違う号車の一番前の席に座る彼女は、こうして休み時間の度に此処に来る。僕は休み時間になっても動かないから、彼女も付き合ってくれている。
なんてことはない。ただ僕が1人で居るから、優しい彼女は気に掛けてくれてるだけだ。それだけ。
「残念だけど、今の時間も君の負けのようだね」
「そうだね。名残惜しいけど、時間みたい」
彼女は時計を見ないでも何故か時間を知っている。あと3分ほどで授業の開始時間になるからと声を掛けようとすれば、彼女は知っているように動き出す。
先程までイケメンが座っていた席に、美少女である彼女が座っていて、そして動き出す。
彼女がいなくなってすぐにイケメンも戻って来て、次の授業の準備をする。
次は英語の授業で、教師は女性だ。優しく教えてくれるお陰か、男子からは人気があり、女子からは慕われている。
どちらにしろ、僕には関係無い時間だ。
――僕はまた、窓の外から景色に耳を傾けた。
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